本研究成果のポイント
〇巨大かつ高価な高エネルギー粒子加速器の系統的な基礎設計研究を卓上で可能にする、斬新な実験システム“S−POD”を開発した。
〇大強度イオン線形加速器の研究用に最適化されたS−PODを使って、楕円体形状を持つビームの安定性を幅広い物理的条件下で精査した。
〇深刻なビーム損失の要因となる様々な共鳴不安定性の発生条件とそのビーム密度依存性を初めて実験的に明らかにした。
概 要
加速器が生み出す荷電粒子ビームは今や基礎物理学の領域のみならず、先端医療や生命科学、物質・材料開発、工学、等々、多種多様な分野で積極的に活用されている。クオリティの高いビームを供給するには、ビーム(換言すれば、外力によって空間的に局所化された極めて多数の同種荷電粒子から成る非線形多体系)の物理的性質に対する理解の深化が必要不可欠である。
この目的のため、我々は“S−POD”(Simulator of Particle Orbit Dynamics)と呼ばれる新奇な卓上実験システムを開発した。S−PODは小型の高周波イオントラップ中に、重心系で観測した相対論的ビームと物理的に等価な荷電粒子多体系を生成する。本研究では特に、大強度イオン線形加速器において特徴的な短バンチ(球形から楕円体状の高密度ビーム)を想定して系統的実験を行った。
短バンチビーム実験用にデザインされたトラップ(下図)に様々な密度のイオン集団を閉じ込め、3軸方向の外部収束力を広い範囲で制御することにより、イオン集団が不安定化するパラメータ領域を明らかにした。この研究により、多くの低次共鳴不安定帯の存在とその粒子密度依存性が初めて実験的に確認された。得られたデータは現在稼働中の線形加速器の性能向上や次世代加速器の基礎設計に活かすことができる。
【論文情報】
M. Goto, C. Ichikawa, K. Ito, K. Kojima, and H. Okamoto, Stability study of intense hadron bunches in linear accelerators using a Paul ion trap, (Editors’ suggestion) Physical Review Accelerators and Beams 25, 054201 (2022). https://doi.org/10.1103/PhysRevAccelBeams.25.054201