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ポリマー半導体の高性能化に向けた新たな分子デザイン手法を開発~ポリマー主鎖のπ電子を非局在化して半導体性能を20倍以上に向上~

本研究成果のポイント

〇ポリマー半導体の化学構造を少し組み替えるだけで、π電子がポリマー主鎖に沿って高度に広がることを発見した。

〇これまで着目されていなかったポリマー主鎖内の電荷輸送性の向上に成功し、ポリマー半導体の電荷移動度が著しく向上した。

概  要

ポリマー半導体(注1)の化学構造を少し組み替えるだけで、電荷となるπ電子が主鎖に沿って高度に非局在化し、半導体性能の一つである電荷移動度(注2)が20倍以上向上することを発見した。 ポリマー半導体は、印刷プロセスで簡便に薄膜化できる半導体であり、有機トランジスタや有機薄膜太陽電池などの次世代のプリンテッドデバイス(注3)への応用が期待されている。しかし、これらデバイスの性能を左右する電荷移動度は、シリコン半導体などに比べて著しく低い値を示す。そのため、高い電荷移動度を示すポリマー半導体の開発が強く求められている。

ポリマー半導体には、ポリマー主鎖に沿った「主鎖内」とポリマー主鎖同士の重なりを介した「主鎖間」の2つの電荷輸送パスがある。従来は、律速である「主鎖間」の電荷輸送性を改善することが材料開発の指針でしたが、研究の進展とともに「主鎖間」の電荷輸送性の改善だけでは電荷移動度を向上させることは難しくなっていた。共同研究チームは今回、以前に開発していたポリマー半導体の化学構造を少し組み替えてやることで、電荷となるπ電子が主鎖に沿って高度に非局在化し、これまで着目されていなかった「主鎖内」の電荷輸送性が高まることを発見した。その結果、ポリマー半導体の電荷移動度を著しく向上させることに成功した。 本研究で見出した「主鎖内」の電荷輸送性を高める新たな分子デザイン手法を応用することで、さらに電荷移動度の高いポリマー半導体の開発が期待できる。

ポリマー半導体の化学構造を少し組み替えるだけで、ポリマー主鎖内の電荷輸送性の向上に成功し、結果としてポリマー半導体の電荷移動度が著しく向上した。(©高宮ミンディ/京都大学アイセムス)

用語解説

(注1)ポリマー半導体
 炭素―炭素単結合と二重結合が交互に連なったπ共役構造を主鎖にもつ有機高分子化合物(プラスチック)。π共役系ポリマーとも呼ばれ、起源は白川英樹(2000年ノーベル化学賞受賞)らにより開発されたポリアセチレンにあり、日本発祥の材料である。プラスチックでありながら半導体の性質を持つ。有機溶剤に溶けて、薄膜を形成するため、印刷できる半導体として、プリンテッドデバイスに応用されている。

(注2)電荷移動度
 半導体中を電荷(ホールまたは電子)が移動する速さを示す。一般に、cm2/Vsの単位を用いる。電界効果トランジスタの電流―電圧特性からその値を求めることができる。

(注3)プリンテッドデバイス
 インク化した半導体材料を印刷プロセスにより、大面積の電子デバイス作製を可能にする技術。特に、有機半導体を用いると、安価かつ軽量で柔らかいといった特長を持つことから、IoTセンサーやモバイル・ウェアラブル電源など、新しい応用を切り開く次世代の電子デバイスとして注目を集めている。代表的なものとして、有機トランジスタや有機薄膜太陽電池がある。


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