異なる植生群集の森林成長が森林集水域の水収支に与える影響

本研究成果のポイント

リモートセンシングによって流域内の森林密度の変化を追跡する手法を考案し、森林の成長が流域の水収支に及ぼす影響を明らかにした。

森林フェノロジーの季節性を再現し、樹冠蒸発量、蒸散量および土壌蒸発量を個別に評価する新しい手法を開発した。

比較的若い森林や管理の行き届いた森林においては、森林の成長とともに蒸散量は顕著に増加し、地下水涵養量は減少する傾向にあることを明らかにした。

長期的な流域水収支の評価には森林の成長を考慮する必要があり、さらに、森林密度の変化を考慮しない場合は水文災害リスクの過小評価に繋がることを指摘した。

 

概  要

森林生態系は、流域水循環において重要な役割を果たしている。具体的には、植生タイプ、フェノロジー、森林密度などがそれに影響するが、従来の長期的かつ流域スケールでの水文モデル研究の多くでは、森林面積の変化のみに焦点が当てられてきた。そこで本研究では、植生や管理状況が異なる3つの人工林と1つの原生林を有する西日本の大和川流域を対象に、SWAT(Soil and Water Assessment Tool)を用いて、森林の密度および生態系の長期変化に伴う水収支の変動を精度良く推定できるモデルを構築した。

各森林を対象に針葉樹と広葉樹の比率の検討を行い、リモートセンシングにより最近40年以上に及ぶ長期での最大・最小葉面積指数(LAI)の定量化を行った。また、LAI成長曲線、蒸発散量、実測流量によるモデルのキャリブレーションを実施した。さらに、SWATの出力結果から10年ごとの樹冠蒸発量、蒸散量、土壌蒸発量を個別に評価した。その結果、(1)大気中CO2濃度の上昇および経済効果優先の森林管理により、森林の蒸発散量はここ数十年で増加しており、(2)若い森林や管理の行き届いた森林では、森林の成長に伴い水収支が変化していることが明らかになった。

本研究の結果から、長期的な流域水循環研究では、時期や種類の違いを踏まえた森林成長特性の区別や、混合林の詳細な定義が必要であることが示された。森林生態系を理解する上で、森林のパラメータや成長特性は非常に重要であると考えられる。

【論文情報】
published in Science of the Total Environment (IF=10.753), 809, 151159, 2022, https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2021.151159


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