運河を走る巨大船舶の操縦性能の解明に関する研究

本研究成果のポイント

〇本学が所有する大型水槽施設に1/128のスエズ運河模型を敷設し、その中で実船長約400mのコンテナ船模型を曳航する大掛かりな実験を実施した。

〇水深、船速、運河中心線からの逸脱距離などを系統的に変化させ、様々な航走環境下において、船舶に作用する流体力がどのように変化するかを調査した。

〇計測した流体力の結果に基づき、運河内を船舶が操縦運動する時の数学モデルを構築した。そして船が所定針路を真っ直ぐに安定して走る事が出来るかを表す針路安定性能を明らかにした。

概  要

 2021年3月に、スエズ運河で巨大コンテナ船の座礁事故が発生し、世界の海上物流網が混乱しました。99.5%(トン数基準、2021)の貨物が船で運ばれてくる日本にとって、欧州とアジアを結ぶこの細長い運河は生命線に当たります。事故の背景には、輸送需要の拡大と運航経済性の追求が巨大な船舶を生み出し、窮屈な空間の航行を強いられているミスマッチがうかがえます。 

 そこで本研究では、狭い運河を走る巨大船舶の海難事故の低減に寄与するべく、スエズ運河×巨大コンテナ船(独自設計)の1/128の実験環境を広島大学大型水槽内に再現し、水深、船速、運河中心線からの逸脱距離、操縦運動が変化した時に、船舶に作用する流体力がどのような変化を起こすのか、系統的な調査を実施しました。こうした大掛かりな水槽実験は国内ではされておらず、得られた一連の実験データは貴重といえます。そして力とモーメントの釣り合い関係から定常航走状態を求めると共に、固有値解析を通じて、操船のし易さ、延いては航行の安全性に関わる針路安定性能を明らかにしました。 

 今後は、運河内における船舶の運動を予測できる数学モデルを用いて、様々なシナリオを想定した運動計算を実施し、航走環境に応じた操船限界を明らかにしていく予定です。

論文情報
H. Yasukawa and M. Sano: On the hydrodynamic derivatives with respect to heading angle for ship maneuvering in a canal, Journal of Marine Science and Technology, 2024. https://doi.org/10.1007/s00773-024-01004-4  


up