磁気秩序相に内在する新奇多極子秩序

本研究成果のポイント

新機能物性の研究は、これまでの電荷とスピンに加えて軌道の自由度も注目され、強いスピン軌道相互作用により発現する多極子の理解も重要視されている。単純な原理では、磁気秩序相において多極子秩序は起こらないはずである。これは磁気秩序により発生する局所内部磁場によって基底多重項が分裂してその縮重が解け、多極子の自由度が消失するためである。

しかしながら、本研究では、これまでの単純な常識を覆す、磁気秩序相において新奇多極子秩序を示す物質を見出した。磁気秩序相で基底多重項が分裂して縮重が解けたにも関わらず、何故、多極子の自由度を失わずに秩序化が起こるのか?その起源の解明は、多極子を用いた画期的なスイッチングデバイスなどの物質開発に貢献することが期待される。

概  要

重希土類化合物ErNiAlはネール温度TN = 6 Kで反強磁性秩序を示す。我々が多極子の一つ、電気四極子の優れたプローブである超音波実験を行った結果、横波弾性率C66において、通常は降温に伴い単調に増加する弾性率が、電気四極子の相互作用により巨大な弾性ソフト化を示した。TN以下でソフト化は急激に増大し、我々が新たに見出した逐次相転移温度TQに向けて発散的なソフト化を示した。TQ近傍では著しい超音波吸収も観測された。この弾性ソフト化の量子力学的解析から電気四極子間にフェロ的な相互作用が働くことがわかった。超音波吸収を伴う巨大な弾性ソフト化や、解析結果、秩序変数の期待値の計算結果などからTQでの電気四極子の秩序化が強く示唆され、TQでの相転移が電気四極子Oxy 型のフェロ的な電気四極子秩序であることがわかった。ErNiAlは磁気秩序相で電気四極子秩序を示す新奇の物質であることを明らかにした。さらに高次の多極子もTQでの秩序化に関与している可能性も同時に指摘している。

本研究成果のポイントでも述べたように、ごく単純な原理では磁気秩序相において多極子秩序は起こらないはずであるが、本研究からErNiAlはこれまでの単純な常識を覆す、磁気秩序相において新奇多極子秩序を示す物質であることが明らかになった。磁気秩序相において多極子秩序が起こるメカニズムの解明に向けて研究を継続中である。また、同系化合物では多極子秩序を交差相関にもつ新奇マルチフェロイックスを視野に研究を行っている。

【論文情報】
Ferroquadrupolar ordering in a magnetically ordered state in ErNiAl I. Ishii, Y. Kurata, Y. Wada, M. Nohara, T. Suzuki, K. Araki, and A. V. Andreev Physical Review B 105, 165147 (2022). DOI: 10.1103/PhysRevB.105.165147 .


up