本研究成果のポイント
〇分離膜を利用して、燃焼排ガスから水蒸気と熱を取り出すシステムを提案・検証した。
〇廃棄物焼却施設に導入すると、施設外部からの水の供給を不要にすると同時に、燃焼熱の70%を回収できることが分かった。
〇提案システムは、廃棄物焼却施設だけでなく、火力発電所や化学プラントなどあらゆる水蒸気排出源にも適用できると考えられる。
概 要
本研究グループで開発した水熱安定性に優れるオルガノシリカ膜を用いて、煙道ガスから水蒸気を回収するシステム(図)を提案しました。本システムでは膜を介して極めて純度の高い水蒸気74 t/dが回収され、潜熱利用後に液体となった水が噴霧水として再利用されます。本システムの導入により、施設外部からの水供給が不要となるため、近くに大規模な水源がなくても運転することが可能となります。また、水蒸気回収後の煙道ガスは水分が少ないため、煙突から白煙(凝縮した水蒸気)が生じないという副次効果も期待されます。
模擬ガス(水蒸気、空気、塩化水素を含む)からの水蒸気回収試験をラボスケールで半年以上行い、オルガノシリカ膜の水熱安定性を確認しました。150℃以上の水蒸気に対する安定性としては世界で最長の報告になります。次いで、ベンチスケールのオルガノシリカ膜ユニットを稼働中の廃棄物焼却施設内で使用し、実ガス条件下で水蒸気回収を行えることを実証しました。ラボ、ベンチスケールでの実験データをもとにシミュレーションを行った結果、噴霧水に必要な74 t/dの水蒸気を回収した場合、システム動力を差し引いた正味の熱:約200 GJ/dを回収できることが明らかとなりました。これは廃棄物燃焼熱の約70%回収に相当します。
本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」に11月23日付で掲載されました。
論文情報
論文題目:Steam recovery from flue gas by organosilica membranes for simultaneous harvesting of water and energy
著者名:Norihiro Moriyama1, Akihiro Takeyama2, Taichi Yamatoko2, Ken-ichi Sawamura3, Koji Gonoi3, Hiroki Nagasawa1, Masakoto Kanezashi1, Toshinori Tsuru1*
1. 広島大学大学院先進理工系科学研究科化学工学プログラム
2. 株式会社プランテック
3. イーセップ株式会社
*責任著者
掲載雑誌:Nature Communications 年・号・番号:2023・14・7641
DOI: 10.1038/s41467-023-43546-y