新しい構造解析技術を用いた溶接構造物の破壊現象の調査

本研究成果のポイント

〇新しい構造解析法である 拡張有限要素法 (X-FEM) を用いた力学ベースシミュレーションにより、溶接構造物に生じた破壊現象の調査を行いました。

〇オープンソース構造解析ソフト  Code_Aster の X-FEM 機能に対して、ソースコードおよびスクリプトファイルに修正を加え、解析の高精度化を試みました。

〇図1に示す円筒継手交差部に生じた破面の解析、および図2に示す未溶着部を持つ隅肉溶接継手中を進展するき裂進展現象の解析を行い、これまで詳細な議論ができていなかった複雑なき裂進展現象に対して破壊力学的考察を行いました。

概  要

溶接構造物は応力集中や溶接残留応力など様々な力学的要因で損傷が生じることがあります。それらの構造や部材は大規模かつ複雑な形状であることも多く、損傷の発見だけでなく、補修作業や損傷発見後の余寿命診断も簡単ではありません。検査による損傷検知の高度化とともに、発見された損傷がどの程度の期間でどのように成長するか調査を行っておくことが必要です。

近年、耐久試験などの実験的アプローチとともに、数値解析を用いて構造物の破壊現象を評価できるようになってきています。 新しい構造解析法 X-FEM が提案されオープンソース構造解析ソフト Code_Aster などへの導入が進んでいます。本研究では、Code_Aster の X-FEM 機能をベースにソースコードやプログラムの改良を行い解析の高精度化について検討しました。その後、溶接継手の破壊問題への適用を行いました。

図1左は主管 (Chord) および枝管 (Brace) からなる円筒継手の交差部に生じた破壊現象です。き裂が主管を貫通した後、図中の黄色で示している領域Aで破面が大きくねじれていることが分かりました。この現象に対して数値解析を行い、図1右のように同様な現象を再現することに成功しました。

図2左は過去の研究会で報告された未溶着部 (Unwelded Part) を持つ隅肉溶接継手中に存在するき裂進展現象の一例です。き裂進展経路に未溶着部が存在するためき裂前縁が分岐、合体を繰り返し複雑に進展していることが分かります。この現象に対しても数値解析を行い、図2右のように類似の進展現象をシミュレーションできました。さらに、これらの二つの破壊現象がどのようにして生じるかについて破壊力学の観点から考察を行いました。

破壊を評価する理論や構造解析法に制約があり、全ての破壊現象を高精度に評価することは容易ではありません。今後、理論や解析技術の発展とともに、溶接構造物の破壊現象のさらなる解明が期待されます。

図1  円筒継手交差部に生じた複雑なき裂進展現象の解析
 

図2  未溶着部を持つ隅肉溶接継手中を進展するき裂進展現象の解析

論文情報
〇掲載誌:日本船舶海洋工学会論文集
論文タイトル:溶接止端半径の異なるT字円筒継手に生じた疲労破面の力学的評価に関する研究(2020
年32巻pp.141-152)
https://doi.org/10.2534/jjasnaoe.32.141
著者名:前田 研吾, 田中 智行, 高橋 大樹, 八木 一桐, 大沢 直樹

〇掲載誌:日本船舶海洋工学会論文集
論文タイトル:X-FEMを用いた直交交差隅肉溶接部のき裂進展挙動の評価に関する研究
(2021
年33巻pp.137-148)
https://doi.org/10.2534/jjasnaoe.33.137
著者名:前田 研吾, 田中 智行, 高橋 大樹, 田添 広喜

参考文献
Code_Aster
ウェブサイト https://www.code-aster.org


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