「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウサンプル中の固体有機物

本研究成果のポイント

〇小惑星リュウグウ試料中の固体有機物の組成は、化学的に始源的な炭素質コンドライト隕石の固体有機物に類似していた。

〇小惑星リュウグウ試料中の固体有機物は層状ケイ酸塩や炭酸塩と共存していたことから、リュウグウ母天体で水、有機物、鉱物との化学反応が起こった証拠を見出した。

〇小惑星リュウグウ試料中の固体有機物の水素・窒素同位体組成から、リュウグウ有機物の前駆体は宇宙の極低温環境(マイナス200℃以下)で形成されたことが示された。

概  要

 小惑星サンプルリターン「はやぶさ2」は、約46億年前に誕生した太陽系で生命の起源物質である有機物と水がどのように形成されたのかを解明するために、炭素質小惑星リュウグウの表面試料を採取し、地球に持ち帰って分析を行う探査計画である。

 2020年12月、リュウグウ試料の地球帰還後、1年間の初期分析が行われた。初期分析チームを構成する6つのサブチームの1つである固体有機物チームを広島大学の薮田ひかる教授がとりまとめた。このチームでは、種々の顕微手法を用いて、リュウグウ試料中の固体有機物(黒色の複雑な巨大分子)の元素・同位体・官能基組成および構造・形態を分析した。

 その結果、リュウグウ試料に含まれる固体有機物の化学・同位体組成は、化学的に始原的な炭素質隕石の有機物に類似することが明らかとなり、炭素質小惑星の有機物と隕石有機物との直接的な関係が実証された。ナノサイズの球状有機物や薄く広がった不定形の有機物が層状ケイ酸塩や炭酸塩に混じった状態から、リュウグウの有機物が母天体上で液体の水と反応して生じたことが見出された。また、固体有機物中に重水素および/または窒素15が局所的に濃集しており、リュウグウ有機物の前駆体が星間分子雲や原始惑星系円盤外側などの極低温環境で形成されたことを示している。

(A) 左:リュウグウ試料のナノ赤外分光分析(AFM-IR)で取得された、各官能基の赤外吸収に基づくマップ。赤:C=O (1720 cm-1)、青:C=C (1600 cm-1) 、緑:Si-O (1020 cm-1)。層状ケイ酸塩(緑)と有機ナノ粒子(赤)が共存している。右上:AFM-IRマップ中ピンク色で囲んだ有機ナノグロビュールの赤外スペクトル(赤)と、周辺の層状珪酸塩の赤外スペクトル(緑)。右下:リュウグウ粒子のAFM-IRマップを取得した領域。(Yabuta et al. 2023より抜粋)

 (B) リュウグウの進化に伴う、固体有機物の形成と進化(Yabuta et al. 2023をわずかに改変)

【論文情報】

Yabuta et al. (2023) Macromolecular organic matter in samples of the asteroid (162173) Ryugu, Science 379, DOI: 10.1126/science.abn9057


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