研究紹介  宮﨑 浩一教授

題名:「経済政策・制度の存在意義について考える」

私の研究分野は経済学の中でも「マクロ経済学」という分野に属します。「マクロ経済学」というのは個々の経済活動を集計した一国の経済の動きを分析する学問です。そのような一国経済を分析対象にして、私は「経済政策や制度の存在意義を解明する」という研究を行っています。

経済学の研究方法について

一旦、本題から逸れますが、経済学における研究方法について簡単に説明したいと思います。 経済学では、研究テーマに対して、数理モデルを構築しそれを解析することで研究を進める方法(理論研究)とデータを集めてきてそれを分析することで研究を進める方法(実証研究)の大きく2つがあります。私の場合は前者のアプローチを取っており、基本的には紙と鉛筆で研究を進めます。

ペンと計算用紙は研究に必須

しかしながら、昨今のマクロ経済モデルというのは大変複雑で、紙と鉛筆だけで分析するということは非常に難しくなっています。そこで、我々はコンピューターの力を借ります。構築したマクロ経済モデルの中には外から与えられた変数(パラメーター)がありますが、それらの数値を現実経済に合わせて適当に設定し、それをコンピューターに解いてもらいます(このやり方をカリブレーションという)。マクロ経済学の分野では、すでにこの数値計算の方法が主流となっていますので、マクロ経済学の研究を行いたい方は何かしらのプログラミング言語に慣れておくといいかもしれません。

社会的に望ましい資源配分の達成のために経済学ができること

さて、本題に戻りますが、「経済政策や制度の存在意義を考える」とはどういうことでしょうか?経済学の重要な定理の一つに「厚生経済学の第一基本定理」というものがあります。簡単に説明すると、もし市場に何も問題がなければ、個々の経済主体に自由に競争させることで社会的に望ましい資源配分が実現する、というものです。つまり、現実経済に経済政策や制度が実施されているということは市場に何かしらの問題・不具合が存在するということになります。そして、経済政策や制度に求められている役割というのは、経済学の立場からすると、市場に存在する問題・不具合を修正して、我々にとってより望ましい状態を作り出すことということになります。私の研究は市場に存在するその問題や不具合が何であるかを明らかにし、それを修正するための制度や政策を考えるというものです。

私の研究から一つ例を挙げたいと思います。どの国にも社会保障制度というものはありますが、日本を含む多くの国では、働いている現役世代が高齢世代を支えるという形になっています。「高齢世代は働けないので働ける現役世代が助けるべきだ」というようなパターナリスティックな理由などさまざまあると思いますが、「現役世代から高齢世代へ所得の移転を行うことで社会的に最適な資源配分が達成できるから」というのが経済学の立場からの理由となります。私の研究の一つに「どのような所得が得られるかが不確実な状況において、現役世代も高齢世代も文句を言わず、全員にとって望ましい資源配分を実現するための持続可能な社会保障制度はどのようなものか?」ということについて考えたものがあります(Miyazaki (2014) “Efficiency and lack of commitment in an overlapping generations model with endowment shocks” Japanese Economic Review pp.499-520)。この論文では、実際に実現した所得の額に合わせて柔軟に社会保障費を変更することが重要であることを示しました。

 Miyazaki (2014)より、実現可能な資源配分の範囲を示した図

最後に:経済学の研究テーマは絶えず生まれている

最後に経済学の研究対象について簡単にお話ししたいと思います。
経済学の研究対象は、ご存知のように実際の経済です。ですので、研究テーマも実際に今起こっている経済・社会現象になります。つまり、経済学の研究テーマは絶えず発生しているということができます。どのようなことが世の中で起こっているかに対してアンテナを張っておくことが重要だと思います。
私の米国での指導教授は、英国で発刊されている歴史ある経済週刊誌であるThe Economist誌に必ず目を通すように指導してくれました。実際、The Economist誌の記事から研究が始まることもあります。この習慣は非常にありがたいと今でも感謝しています。これから研究者を目指す方には、実際の社会経済で何が起こっているか、しっかり情報を収集・整理する習慣を持つといいかと思います。


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