航空宇宙関係の構造や材料、半導体製造プロセスの高度化、社会インフラの劣化対策、需要予測や経営手法などの研究
より簡易でエコなCFRPの独自製法
私の研究室では主に航空宇宙関係の構造や材料について研究しており、特に、CFRP(炭素繊維強化プラスチックス)を扱っています。CFRPは航空機やロケット、スポーツなどの様々な製品に欠かせない材料です。炭素繊維とプラスチック樹脂を複合化したもので、「鉄よりも軽く、鉄よりも高い強度」を持つ材料です。しかし、この材料の従来の製造プロセスでは高温と高圧を同時にかける必要があり、CO2排出量が多く、コスト高です。そのため、当研究室では新しい製造方法の開発に取り組み、低コストで環境に優しい
独自の手法を編み出し、磨きをかけているところです。
ヒントとなったのは、電着塗装といわれる自動車の塗装法です。電着塗装とは、塗料が入った液の中に塗装したい物を入れて電気を流す塗装法で、塗装したいものと塗料にそれぞれ異なる電荷を持たせ、通電によって引き寄せるというものです。この技術をもとに、炭素繊維をマイナス極に、ポリマー粒子分散液をプラス極として電気を流し、ポリマー粒子を炭素繊維間に入り込ませ、CFRPとしました。水溶性の塗料を
利用するため、油性の塗料のように乾燥の際に油分を揮発させる必要がなく、環境に優しく、低コストであることが特長です。電着塗装は自動車に古くから利用され、磨かれてきた技術で、本当に良いものだからこそ、現代まで続いており、代替技術は見つかっていません。長い時間をかけて改良され、磨かれてきた技術の奥深さを学ぶことで、無理に新しい何かを組み込むのではなく、自然体で地道に研究を進めたいと考えています。
航空宇宙やインフラに関わる多様な研究
研究室ではCFRPの製造法以外にも様々な研究をしており、代表的なものを紹介します。航空関係の研究として、モーフィング翼の開発があります。モーフィング翼とは鳥の翼のように、飛行中に形状を大きく変化させることができる翼のことで、より効率的な飛行が可能になります。ライト兄弟が世界で初めて動力飛行を成功させたライトフライヤーの翼はモーフィング翼でしたが、歴史的は逆に、より剛性の高い翼、より変形しにくい翼の開発に進みました。研究室ではステレオカメラを用いてモーフィング翼の変形状態を精密に測定する技術を開発し、小型無人機やドローンなどへの
応用を念頭に研究を進めています。また、宇宙関係では、ロケットエンジンに利用される耐熱コーティングの開発です。ロケットの燃焼ガスは非常に高温なため金属の溶融を防ぐためにエンジン内部を冷却する必要があり、燃料自体が冷却用として使用されます。しかし、金属を熱から守るコーティングがあれば冷却用の燃料は不要になり、何億円もの打ち上げ費用を削減することができます。
他にも、太陽電池の効率向上を目的に集電回路網をより緻密にする研究や、川や海の水門に使われる歯車は年間
数回しか動きませんが、開閉時に生じる振動のわずかな変化から劣化を予測する研究などを行っています。さらには、数学理論を利用して、商品需要を予測するという研究も行っています。需要は右肩上がりといった表現がよく使われますが、多少なりとも変動の波を伴うのが自然で、全く単調な需要予測は信用に足るものではありません。しかし、優れた経営手腕をもった経営者は需要の波をものともせず、企業を大きく成長させる例が少なからずあります。「この経営者は何を見ているのか?」という疑問が沸き、数学の理論を用い、経営手法を考察しています。
真に豊かな社会を実現するために
私は、航空宇宙関係の民間企業に18年間勤め、設計、製造、研究、企画など様々な業務を担当しました。大学では企業での経験が大きく影響しています。企業で学んだことはいくつもありますが、中でも重視して教育に反映させたいと思うのは「5S」です。整理・整頓・清潔・清掃・しつけの頭文字を取った言葉で、身の回りの整理整頓などをしっかりするよう学生に指導しています。問題や課題の本質をとらえるには、頭の中を徹底的に整理し、積極果敢に取り組む以外にありません。忙しさにかまけているのかもしれませんが、現状を整理し、積極的にアプローチしてくる学生にしか真剣になれない、なる必要がないのかも知れないと思う今日この頃です。卒業式の答辞で、実に積極的だった学生さんから、「先生には図々しいお願いばかりし、聞いてもらいました」といわれ、本当に嬉しかったです。 企業勤務の後、7年間、公立研究所に勤めました。その研究所の理事長は、大学では人間は如何に生きるべきかと、哲学書を読み込まれたそうですが、研究は真に社会を豊かにするために行うものだとよくいわれました。企業の経営にも長く携わってこられた方ですから、組織の中の極めて少数が考え、残りは何も考えず、従っているだけでは、社会は豊かにならないとも仰せでした。考えてみれば、豊かさには様々な形があって難しいのですが、少なくとも平和は必須です。広島大学は、教育・研究機関として、平和を希求する大学であることを掲げていますが、つまるところ、学力や研究力こそが平和の源泉といっているのではないでしょうか。日本は少子化の時代ですから、不勉強は社内の混乱や社会の不安定さをより助長します。高校生の皆さんは、一生懸命に勉強し、昨今なぜかよく言われる考える力などというよりも、知識の質と量を倍増させ、“優秀な成績”を収めてください。最後になりますが、身近になったCFRPの主役である炭素繊維、これは広島大学の卒業生である進藤昭男博士が開発されたことを知っていますか?

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