石神 徹准教授にインタビュー!

石神 徹准教授にインタビュー!

複雑系の粉体、混相流の直接数値シミュレーションに関する研究。

分散系流れの数値モデリングや複雑現象の解明に取り組む。

 石上先生1

 私は、さまざまな分散系の直接数値シミュレーション技術の開発およびその応用に関する研究をおこなっています。

 「分散系」というのは、気体や液体などの中に小さな粒々があるようなもののことで、液体中に0.1〜10μm(マイクロメーター)程度の固体微粒子が分散した「サスペンション」や、気体の中に微粒子が多数浮かんでいる「エアロゾル」、水の中に油の小さい粒々があるような「エマルション」 などの種類があります。

それぞれの例を挙げますと、サスペンションは歯磨きペーストや塗料、エアロゾルはミストや大気汚染物質、エマルションはマヨネーズや化粧品のクリームや乳液などに使われていたりします。私の研究室では、こういったものが、どのように移動していくか、運動するかという「流れ」についての研究をしています。

 表題にある「混相流」というのも耳慣れない言葉かと思いますが、まず、「相」というのは、固体,液体,気体などのひとつひとつの状態のことを指します。「混相流」は、物質の複数の相が混ざり合って流動する現象のことで、例えば、気体と液体で気液二相流、水と油で液液二相流など、さまざまな混相流があります。

 こういったものを対象に、我々が研究手法として用いているのが、「コンピュータを使ったシミュレーション技術」です。分散系流れの中で、1個の小さな粒子には、物理的・化学的な相互作用が働き、それによっていろいろな運動が起こりますが、その運動をコンピュータで再現する技法です。我々はこれを、「メソスケールシミュレーション」、または「分散系のシミュレーション」と呼んでいます。(※メソスケールとはミクロとマクロの中間領域の意)

 では、シミュレーションの具体例を紹介しましょう。我々が再現するのは次のような流れです。
 ■供給装置内の粉体の様子          
 ■エマルション中の液滴同士がくっついたり反発する様子
 ■フィルターの中の繊維の間隙を空気や微粒子が通る様子  
 ■噴霧乾燥(スプレードライ)の様子  etc.

 例えば、フィルター内を空気が通る様子について。多孔質フィルターの場合はまず、繊維の中で粒子状のものが実際にどのようにブロックされたり通過したりするのかを計算し、「直接数値シミュレーション」というやり方で数値的に解析をおこなっていきます。こうした現象については実験もおこなっているのですが、我々のシミュレーション結果は、実験結果とも非常によく一致します。そしてその結果は、繊維の構造や素材をどのようなものにすれば、空気抵抗を小さくして、粒子を通らないようにしたり除去したりできるかというような研究へとつながっていきます。

  図1:多孔膜の液滴透過シミュレーション

図2:多孔質体内流れのシミュレーションと実験結果の比較

最先端の研究成果を発表し、産業界に広く役立てられることを期待。

 皆さんの中には、シミュレーションは、コンピュータを適当に動かすと答えが出るというようなイメージを持たれているひともいることでしょう。しかし実際には、シミュレーションは非常にクリエイティブなものだと思うのです。我々は独自に、「シミュレーションソフトの開発」もおこなっています。これは、ある現象があって、それがどういう物理でできているのかを考え、その物理を抽出する。次はそれを数式にして、それをコンピュータでプログラムする、というような工程で作られていくのですが、こうした開発の過程はとてもクリエイティブでおもしろいものです。特に一番難しいのは、物理的あるいは数学的なモデルを構築するところと言えるでしょう。

 さらに、シミュレーションのおもしろいところは、「可視化できる」ということです。フィルターの中の粒子のように、1μm(ミクロン)ほどの非常に小さなものの運動は、非常に見ることが難しいです。しかし、シミュレーションを使えばそれを可視化することができます。そうすると、現象に対する理解が非常に深まりますし、いままで見えてこなかった現象が新しく発見できたりもするでしょう。そういった点がなによりおもしろいところです。また、現場でトライアル&エラーでずっとやってるようなもの、実際に実験しないと分からなかったものを、シミュレーションを使えば効率化できるという側面もあります。

 石上先生2

 分散系のシミュレーション技術はここ10年ぐらいで非常に進歩しています。コンピュータの性能自体が上がっていることがその大きな要因のひとつで、10年前にできなかったことがこの10年でどんどんできるようになってきました。その一方で、10年経ってもできないことも多々あり、我々は現在、世界でまだほとんどのひとができていないようなところに懸命に取り組んでいるという状態です。難しいからこそ価値を感じ、達成感を求めて努力を続けています。

 我々の研究が目指すものは大きく2つあります。1つはデベロッパーの立場から、新しい計算手法やモデルを産業界や他の研究者の皆さんに役立ててもらうこと。もう1つはユーザーとして研究で使用して得られた知見(例えば,フィルターなどの多孔質体に関することなど)を、産業界の方々に開示すること。この2つの立場から、産業界に貢献していきたいと考えています。

山を高く、裾野は広く――レベルの向上とともに産業界への啓蒙活動も。

石上先生5

 前述のような目標を持って、最先端の研究をどんどんやっていくといくことは大変重要で、もちろん私もそれに努めている訳ですが、同時に、産業界の裾野を広げることも大切だと考えています。そこで、僭越ながら、(一社)日本粉体工業技術協会粉体シミュレーション技術利用分科会の副コーディネーターを務めさせていただき、我々が開発しているようなシミュレーションソフトを使ったことがない、あるいは使い方が分からないといった方々への啓発にも取り組んでいます。

 今後は、我々のグループで開発しているモデルが『広島大学発のモデル』として、その有用性が世界中に知れ渡っていくことを目指していきたいですね。 研究成果や知見を広く皆さんに使ってもらうことで、現在のテクノロジーができないことの中からできることを増やしていきたいと願っています。

 ところで私は、こうした分野をずっとやってきた訳ではありません。もともとは化学系の学科の出身ですが、機械系出身の指導教員の先生から、シミュレーションの研究テーマを与えられたのが最初のきっかけでした。はじめは未知のものへの驚きや不安に襲われましたが、続けていくうちに、非常におもしろいと感じるようになりました。それから、大学院修了後は機械メーカーで熱交換器の研究などに従事していましたが、ある時、ご縁があって、膜分離で有名な神戸大学の先生の研究室に入ることになり、そこから現在の研究がスタートしました。学生の頃は流体のシミュレーションでしたが、そこに膜工学や粉体工学のシミュレーションを合体させると、膜の中の水の流れや粒子の運動が計算できるのではと考えたのです。それがいまでは、三相流や四相流といった多相系の複雑現象を扱う、世界最先端の研究に挑んでいるのですから、ご縁と自身の幸運とに大いに感謝しています。

 最後に、大学進学を目指している皆さんにひとこと――。
化学工業には「流れ」がつきものです。例えば、ものをかき混ぜる「混合」や「攪拌」、あるいは「分離」、また、「輸送する」というのもすべて「流れ」ですから、ものづくりには絶対に必要なものと言えます。我々は、計算機のシミュレーションというアプローチを使って、こうした「流れ」に関する世界最先端の研究を行っているグループのひとつだと思っています。研究には、化学だけでなく、物理や数学の素養も必要になってきます。そのため、化学系の学びを得意としながらも、物理や数学、あるいは論理的な思考などが好きな方はぜひ、我々の研究室に来て欲しいと思います。世界最先端のシミュレーションのモデルづくりを一緒に研究してもらえたらうれしいですね。

 石上先生4

石神 徹 准教授
Toru Ishigami
微粒子工学研究室 准教授

2002年3月 神戸大学 工学部 応用化学科 卒業
2004年3月 神戸大学大学院 自然科学研究科 応用化学専攻 博士前期課程 修了
2004年4月~2010年5月 川重冷熱工業株式会社 係員
2010年3月 神戸大学大学院 自然科学研究科 応用化学専攻 博士後期課程 修了
2010年6月1日~2014年3月31日 神戸大学大学院 工学研究科 特命助教
2014年4月1日~2017年3月31日 日本大学 生物資源科学部 助教
2017年4月1日~ 広島大学大学院工学研究科(先進理工学研究科) 准教授


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