湊 拓生 助教にインタビュー!

分子を自由に組み立てる手法の開発、分子を組み立てて新しい材料を作り出す研究

材料設計の自由度を向上させる新手法

 もし私たちが望むように分子を組み立てることができたなら、形や性質をコントロールして新しい材料を生み出し、全く新しい材料を合成することができるかもしれません。私が行っているのはそんな未来への一歩を担う、分子や酸化物を自在に形づくる研究です。

 私は様々な研究テーマを扱っていますが、今回まず紹介したいのは酸素とモリブデンが結合した「酸化モリブデン」という酸化物です。電池に使用される材料や触媒 (自身の姿を変えないまま化学反応を進行させる物質) として用いられていますが、従来の合成法では出発材料の構造が保持できない、表面積が低いといった課題がありました。当研究室ではそれらを解決する新しい合成法を開発しました。

 私が考えたのは、シート状の構造を持つ酸化モリブデンを合成するために、点から線、線から平面へと逐次的に構造の次元性を上げることができないかということでした。仮に、分子を小さな丸だとすると、丸を繋げて棒状に、棒を連ねて平面のシート状に、シートを重ねて立体にしていくというようなイメージです。このように順序立てて合成するためには、まず棒の部分構造となる分子を合成し、その後低温で分子を加熱して棒状構造を形成させ、さらに棒を横方向につなげてシート状構造を構築します。棒状構造を経由することでシートが積み重なった立体構造ができた際、普通

の合成法とは異なる面が広くなっていることがわかりました。従来の合成法では分子などの出発原料を加熱し、構造の次元性をいきなり上げて立体構造を合成していました。その結果、熱力学的に安定な並び方で酸化モリブデンが生成し、触媒として使用しても活性がなくなっていたのです。

 新しい手法により合成された酸化モリブデンの表面にはイオンなどが入り込める多数の隙間があり、また、化学反応が起きやすい反応点を多数有していることから高い触媒活性を示します。

分子同士をくっつける金属イオン接着剤

 私は他に、種類の異なる金属イオンをくっつけて新しい材料の開発を目指す研究も行っています。これまでにも様々な金属イオンを有する分子の合成が行われてきましたが、有機物を土台にして組み立てていくという方法がスタンダードでした。しかし有機物は柔軟であるため、設計した個数や狙った位置に金属イオンを導入することが難しく、予想外の反応が起きてしまうといった課題がありました。そのため、より剛直な無機物を土台にできないかと考えたのがこの研究の発端です。

 私が着目したのは当時所属していた研究室で扱われていた「ポリオキソメタレート」と呼ばれる無機物で、有機溶媒を使用するという工夫によって様々な種類の金属イオンを自在に導入できる手法が開発されました。しかし、狙った数の金属を入れることができてもより大きな分子を合成することは難しく、例えば前述した酸化モリブデンの合成のようにいくつもの分子が連なった構造を設計して合成することは難しく、サイズの拡張性がないという課題が残っていました。

 様々な検討を重ねた結果、余分な金属イオンが接着剤代わりとなって分子同士をくっつけることが可能であるということを見出しました。この手法を用い、3種類以上の金属が酸素原子を介して連なった分子としては世界で最も大きな構造を合成することにも成功しました。

 この技術は近い未来、私たちが望んだ性質を持つ新しい材料を、自由に作れるようになる可能性を秘めています。レゴブロックを組み立てるように自分で分子を設計し、調べればその構造だけでなく性質も予測できるという、分子を用いた研究ならではの面白さを感じながら日々研究に没頭しています。

問題解決能力を身につけるための研究

 私は学生に「自分でもうまくいくかわからないこと」を研究テーマとして与えています。私が研究室で学んでもらいたいのは、無機化学分野の専門知識や実験技術というよりも、未知の問題にぶつかった際の対応力なのです。学んだ知識を基に考えることや、知らないことを調べる力、そして必要な実験を自ら計画し、問題を解決していく力です。このような力は大学に残っても、またいつか社会に出た時にも必ず役に立ちます。それに付随して、例えば学会発表を通して得られるプレゼンテーションスキルや、質問に適切に答える力、簡潔に研究内容を人に説明する能力なども磨いてほしいと思っています。研究テーマはそれらを身につけるための教材だと考えています。

 このような考え方はイギリス留学で得たものです。当時、初めて知る言葉の中にハードスキルとソフトスキルというものがありました。ハードスキルは技術的なことや知識を意味し、ソフトスキルはコミュニケーション力や協調性、プレゼンテーション能力などを意味します。欧米では両スキルを育むことが大事だと認識されています。そういった概念を基にして学生に研究室生活を過ごしてもらうことは重要だと思い、日本に帰ってから自分が教育者になったときに実践したいと考えていました。

 高校生の皆さんは、ぜひ様々なことに興味を抱き、視野を広く持ってください。いざ研究をしていると、これだと決めて突き進んだ実験で結果が出ない、実験が上手くいかないということは日常茶飯事です。また、興味がないばかりに未知の発見が目の前に現れても気づかずスルーしてしまうこともあるでしょう。常に興味のアンテナを張り巡らせて研究すると、面白いことの方からあなたの元へ飛び込んできてくれるはずです。研究内容に興味がある方は気軽に研究室にお越しください。

研究室メンバー

 

 

 

湊 拓生 助教
Takuo Minato
環境触媒化学研究室

2012年9⽉ 東京⼤学 ⼯学部 応⽤化学科 卒業
2014年9⽉ 東京⼤学 ⼤学院⼯学系研究科 応⽤化学専攻 修⼠課程 修了
2017年9⽉ 東京⼤学 ⼤学院⼯学系研究科 応⽤化学専攻 博⼠課程 修了
2015年4⽉〜2017年9⽉ 日本学術振興会特別研究員DC1 (東京大学)
2017年10⽉〜2018年3⽉ 日本学術振興会特別研究員PD (資格変更、東京大学)
2017年10⽉〜2018年3⽉ グラスゴー⼤学 化学科 博⼠研究員
2018年4⽉〜2020年12⽉ 日本学術振興会特別研究員PD (九州大学)
2021年1⽉1⽇〜 広島⼤学 ⼤学院先進理⼯系科学研究科 助教


up