純金属の高速変形、TRIP鋼における相変態ダイナミクスなどの研究
材料への理解が設計物の安全性を左右する
私の研究室では、機械や構造物などに利用される金属材料を扱っています。例えば、金属でできた円柱型の弾が、高速で壁にぶつかる瞬間をスローモーションで想像してください。弾は壁に当たった先端からへこみ、変形した部分を傘のように広げます。私はこのように「金属が変形する瞬間」に焦点を当て、計算によるシミュレーションと装置による実験を行い、なぜそのような変化が起こるのかというメカニズムを解明しています。
上記の高速変形の実験ではアルミニウムやチタン、鉄といった純金属を扱っています。研究で得られたデータは、航空機やロケットなどの設計に役立てられます。例えば宇宙では、7km/秒という凄まじい速度で宇宙ゴミがぶつかることで宇宙船などに穴が開いてしまうという課題があり、船体を頑丈にするためにアルミニウムを大量に使うか、さらに高強度な材料(CFRPなど)を使用しなければなりません。しかし、それにはコストがかかります。金属が変形するメカニズムがわかっていれば、今まで分厚くしていた材料を薄くできる可能性が拓け、設計物の安全性を確実にするのはもちろんのこと、材料の削減やそれに伴う製造コスト削減にも繋げることができます。
扱う金属の中でも私は特に鉄という素材に魅力を感じているのですが、それは同じ鉄でも、加熱して冷やし固める際に違ったプロセス(例えば温度を上げるタイミングや、冷やし固める速度を変えるなど)を経るだけで別の特性が現れるためです。また、鉄を基に作られた金属に、TRIP鋼と、鉄基形状記憶合金というものがあります。TRIP鋼は車体などに使われ、衝撃を受けた瞬間に硬くなるという不思議な特性を持ち、鉄基形状記憶合金は、加熱することで変形前の形状を取り戻すことができるという特性を持ちます。これらの微視構造や仕組みを解き明かすことは、材料を自在に活用するための基礎になると同時に、いずれ新しい材料開発のヒントにもなり得るのです。
シミュレーションと実験の両輪で確かな成果を
私は数式展開が非常に重要だと考えています。単にパソコンでソフトを動かすのではなく、まず基礎的な物理学の理論があり、それを数式として組み立てる数式展開があることで、初めてシミュレーションが意味を持ちます。しかし、理論的には正しくても「実際に計算通りになるのか?」という他の研究者からの疑問に答えられないこともあり、シミュレーション結果の正誤を確認するために実験を始めました。特に企業では、なぜその特性が出るのかを説明できなければ製品として採用されないため、この裏付けが重要になります。
研究に使用する実験装置の多くは私と学生が自作したものです。装置の仕組み自体は非常に基礎的なものなのでゼロから作ることが可能で、その動作原理を根本から理解することや、作業の過程で身に付く思考力が良質な研究の土台になると考えています。
また、既製品を利用するだけではできない、オリジナルな研究ができる点も魅力です。冒頭でお話しした金属の弾を打ち出す装置も手作りしており、今は約700m/秒で射出ができるようになっているのですが、原理的には宇宙ゴミと同じ7km/秒が出せるはずなので、今後もその未知の領域に挑んでいきたいと考えています。シミュレーションソフトも既存のものを使いやすいように改良するなど、より良い研究環境を模索中です。
また、私は修士課程のときに阪神淡路大震災を経験しており、いつか防災に関わる研究ができればと考え続けてきました。その目標に近づくため、今後は鉄基形状記憶合金を、安全に建築物に利用するための研究にも注力していければと考えています。
未来を切り拓く自律心と思考力
研究は新しいことを発見する行為なので、時には研究内容について理解してもらえないこともありますが、そんな中でも自分たちの成果に興味を持ってもらったり、評価してもらうことは大きなモチベーションになっています。私は2005年から一年間、特別研究員としてフランスのメッツ大学にいたこともあり現地に友人がいるのですが、利害関係のない人から褒めていただくとやはり嬉しいです。海外での経験はもちろん、当時培った人脈は何にも代え難い財産だと感じています。
自身の海外経験も踏まえ当研究室では国際学会に参加する機会を多く設けており、学生に経験を積ませることで対応力や積極性を伸ばすと同時に、人間としての幅を広げています。経験値から未経験のことを予測することも能力の一つだと感じており、例えば最近は、インドに行く予定の学生に「現地の辛いものが食べられるように、今から慣れておかないとね」などと、未来を想像させるような声掛けをしています。笑い合える時間と、真面目に研究に取り組む時間のメリハリを大事にしています。
また、学生には「自律した人」になってほしいという思いもあり、社会でリーダーシップをとって活躍する力を育むために、上級生が下級生に指導する体制をとっています。卒業生の就職先としては鉄鋼関係が多いですが、中には自分のやりたいことを見つめた結果、半導体関係といった研究内容とは異なる分野に進む人もいます。
高校生の皆さんは、自分次第でどのようにでも未来を広げることができます。多くの選択肢の中から自分が良いと思うものを選ぶためには情報が必須であり、質の良い情報を適切な形で手に入れるためには、自ら動くことが不可欠です。また、経験からくる直感も情報ソースの一つとしては大切です。自分の心の声を聞きつつ進路選びをしてください。
岩本 剛 准教授
TAKESHI IWAMOTO
材料力学研究室
1995年4月 広島大学工学部第一類(機械系) 助手
2001年4月 広島大学大学院工学研究科機械システム工学専攻 助手
2005年2月 仏国メッツ大学機械および生産工学高等研究所 在外研究員
2007年4月 広島大学大学院工学研究科機械システム工学専攻 助教
2008年4月 大島商船高等専門学校情報工学科 非常勤講師
2009年4月 広島大学大学院工学研究院機械システム・応用力学部門 准教授
2012年9月 仏国国立メッツ工学院 招聘教授
2016年3月 中国西北工業大学航空学院 招聘教授
2017年10月 京都大学大学院エネルギー科学研究科 客員准教授
2019年7月 西北工業大学 招聘教授
2020年4月 広島大学大学院先進理工系科学研究科 准教授

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