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【研究成果】リモートセンシング技術と保険データを用いた台風による建物損害額の 早期推計手法を世界で初めて開発しました

本研究成果のポイント

  • 航空写真や人工衛星画像といったリモートセンシング技術(*1)と保険データを使って、台風による地域別建物損害額を早期に推計する手法を世界で初めて開発しました。
  • 2018年台風21号(*2)による大阪府および2019年台風15号(*3)による千葉県における火災保険の損害保険金データと災害後に撮影されたリモートセンシング画像を使って分析しました。
  • 本技術により、現地調査を必要とせずに簡便に地域別建物損害額を推計できます。

 

概要

 広島大学大学院先進理工系科学研究科の三浦弘之 准教授、村田雄亮 大学院生、広島大学オープンイノベーション事業本部の若狭弘幸 特命教授(あいおいニッセイ同和損害保険株式会社兼務)、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社の多嘉良朝恭氏らによる研究グループは、リモートセンシング技術と損害保険会社が有する保険データを用いて、台風による地域別建物損害額を早期に推計する手法を世界で初めて開発しました。
 本技術により、現地調査を必要とせずに、簡便に地域別建物損害額を推計できることから、被災規模を早期に把握し、保険会社の社内態勢を構築することや被災者への迅速な対応が可能になることが期待されます。
 本研究成果をまとめた論文が、国際学術雑誌「International Journal of Disaster Risk Reduction (IJDRR)」に採択され、2022年9月29日にScienceDirectのライブラリにオンライン掲載されています。

論文情報

  • 論文題目:Empirical estimation based on remote sensing images of insured typhoon-induced economic losses from building damage(リモートセンシング画像に基づく台風により生じた損害保険による建物損害額の経験的推定)
  • 著者:三浦 弘之1, 村田 雄亮1,若狭 弘幸2, 3, 多嘉良 朝恭4
    1: 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 建築学プログラム
    2: 広島大学 オープンイノベーション事業本部
    3: あいおいニッセイ同和損保 マーケット開発部 地方創生戦略室
    4: あいおいニッセイ同和損保 損害サービス業務部 cmapチーム
  • 掲載雑誌:International Journal of Disaster Risk Reduction
  • DOI: https://doi.org/10.1016/j.ijdrr.2022.103334 

発表内容

【背景】
 大規模な自然災害が発生した後は、被災した住民に対して迅速な経済的支援が必要となります。被災者への経済的支援には、被災者生活再建支援制度による公的支援のほかに、住民自身が加入する損害保険等による支援があります。損害保険には地震保険と火災保険があり、火災保険は火災のほかに水災・風災などの自然災害による損害を補償するもので、地震保険は地震、津波、噴火による損害を補償するものです。地震保険による建物被害への支払額は、建物の損害程度によって一定の割合に定められているのに対して、火災保険による支払額は、専門家である鑑定人や業者が各建物を訪問調査し、修理業者が算定した見積書を参考にしながら、建物の所有者と金額を協定することで決定します。それぞれの建物を詳細に調査する必要があるため、大規模な風水災が発生した場合には、損害調査に膨大な時間と労力を要し、これが被災者へ迅速に保険金を支払うことの弊害となっていました。このため、損害保険会社各社は、災害発生時の初期対応として、現地調査を必要とせずに簡便に損害額を推定する技術の開発に取り組んできており、このたび、広島大学とあいおいニッセイ同和損保はリモートセンシング技術と保険データに基づく新たな手法を開発しました。
 
【研究成果の内容】
 本研究では、2018年9月に発生した台風21号(名称Jebi)による大阪府南部および2019年9月に発生した台風15号(名称Faxai)による千葉県南部で得られた戸建て住宅の損害保険データおよび災害後に撮影されたリモートセンシング画像(航空写真・人工衛星画像)を分析しました。画像の分析から、被災した建物の屋根面にブルーシートが掛けられるケースが多く、建物の損害割合が大きいほどブルーシートの建物の割合が多くなることを明らかにしました。一方で、損害割合が大きくても、画像からは建物の被害を確認できないケースもあり、個々の建物の損害割合を画像のみから精度良く推定することは困難であることも明らかにしました。
 そこで本研究では、個々の建物ではなく、地域別の建物損害額をリモートセンシング画像から推定する手法を開発しました。具体的には、南北1.5km、東西2kmのメッシュ毎に、リモートセンシング画像から推定される建物被害率(メッシュ毎の被害建物数/全建物棟数×100)と火災保険による保険金支払い実績から火災保険損害割合(メッシュ毎の総損害額/総保険価額(*4)×100)を計算しました(図1)。それぞれの関係を調べたところ、両者には高い相関がみられたことから、建物被害率から火災保険損害割合を推計する関係式を求めました(図2)。関係式から推定される損害割合と保険会社が有する総保険価額を掛け合わせることで、メッシュ毎の建物損害額が推定できます。推定された損害額は、実際の損害額を高い精度で推定できることを示しました(図3)。また、本手法の妥当性は交差検証法によって確認しました。

 

図1 リモートセンシングから推定した建物被害率と火災保険損害割合の比較
(図中の色で示されているメッシュが分析に利用した箇所を表します)

図2 建物被害率と火災保険損害割合の相関

図3 推定した損害額と実際の損害額の相関

【今後の展開】

 本研究では、リモートセンシング画像の分析は、人間の目による判読に基づき実施しましたが、今後は本研究グループが開発しているAI技術による自動的な建物被害判読技術を適用していくことで、より短時間での損害額の推計を目指します。災害後のリモートセンシングによる計測、画像分析、結果の取得までの流れを迅速に行うための枠組みの構築も目指しています。

用語解説

*1 リモートセンシング技術:対象物の色や形などを離れたところから計測する技術で、一般には航空機や人工衛星、ドローンなどを用いて上空から地表の様子を計測する技術を指します。本研究では地表解像度が10~20cmの航空写真、解像度が50cm程度の人工衛星画像データを用いました。
*2 2018年台風21号:2018年9月初旬に近畿地方を中心に甚大な被害をもたらした台風で、日本損害保険協会の発表によると、この台風による火災保険の支払件数は約72万件、支払額は約8800億円と史上最大の損害となりました。
*3 2019年台風15号:2019年9月中旬に千葉県をはじめ東京湾周辺に甚大な被害をもたらした台風で、令和元年房総半島台風と命名されており、関東地方に上陸したものとしては観測史上最強クラスの勢力と言われています。この台風による火災保険の支払件数は約34万件、支払額は約4000億円とされています。
*4 保険価額:保険事故が発生した場合に被保険者が被る可能性のある損害の最高見積額を指し、本データでは保険会社による建物(家財除く)の評価額を表します。

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>
 広島大学 大学院先進理工系科学研究科
 准教授 三浦弘之
 Tel: 082-424-7798
 E-mail: hmiura*hiroshima-u.ac.jp

 あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
 損害サービス業務部 担当次長 多嘉良朝恭
 Tel: 050-3462-5693
 E-mail: tomotaka.takara*aioinissaydowa.co.jp 

<報道に関すること>
 広島大学 広報室
 Tel: 082-424-3701
 E-mail: koho*office.hiroshima-u.ac.jp

 あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
 広報部 広報室
 Tel: 050-3461-7235

 (注: *は半角@に置き換えてください)


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