ライチェフ・ビセル

ライチェフ・ビセル

准教授
ライチェフ・ビセル
BISSER RAYTCHEV

コンピュータがこの世界を見るために。

まだ赤ん坊にも及ばない、人工知能の視覚認識能力

人工知能の2つの基礎技術である「機械学習」と「コンピュータビジョン」の研究を行っています。1960年代にアメリカのマサチューセッツ工科大学のマービン・ミンスキー先生が、コンピュータにカメラを付けて、コンピュータが何を見ているのかを述べることができるプログラムを、当時指導していた学部生に作成させようとしました。これがコンピュータビジョンの始まりだと言われています。当初、数カ月でできる研究課題だと思っていたらしいのですが、半世紀後もまだこのような、一見簡単に思える課題(人間は誰でも何の努力もせずに、見ればできる)は完全には実現されていません。最近の人工知能の発展によって、世界トップレベルの棋士に勝つことができるようになったコンピュータですが、視覚による認識能力は、まだ2歳の赤ん坊にも及びません。こうしたことから、コンピュータビジョンがどれほど難しい研究課題か、みなさんにも伝わると思います。

人工知能分野では数学から心理学までも学べる

最初に研究を始めた頃は、脳の視覚系を模倣すればきっと素晴らしいコンピュータビジョンアルゴリズムができるだろうと思っていました。当時はそのアプローチよりも幾何学や統計的パターン認識に基づいた手法が有効だったので、それらも勉強することが必要でした。最近はまた状況が一変して、脳が行っているような階層的な情報処理を用いれば認識精度を向上させられることが明らかになりました。このように、人工知能という分野は、さまざまな分野から知識を借りています。だから、数学から心理学まで研究・勉強することができるので魅力的です。中でも、特に重要なのが数学の知識(特に線形代数、微分積分、確率統計)とプログラミング能力です。特に数学の知識を習得するには一定の期間が必要ですので、大学に入学してからすぐにしっかりと数学の基礎を勉強することをお勧めします。

汎用型人工知能の実現を目指して

この分野の大勢の研究者の夢は、汎用型人工知能(人間が持っているような知能)の実現です。これを実現するにはさまざまなアプローチがありますが、私は脳からインスピレーションを得た脳型コンピューティングの研究に期待しています。近年、世界中では脳の研究が加速しているので、脳の高度な機能を支えている計算原理が明らかになる日が近づいているのではないかと思います。汎用型人工知能も遠い未来のことではないかもしれません。高校生のみなさんには、ぜひ情報科学部で学び、いろいろな知識や技術を身につけて、その力を地球や人間社会が抱いている数多くの課題の解決に尽くしてほしいと願っています。


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