研究紹介

広大の情報科学研究最前線!

膨大な情報の海から知見を探索し、理論を構築して社会の未来に貢献する情報科学研究。広島大学で展開されている、限りない可能性を秘めた研究の一端を紹介します。

問題を解くのではなく、作ることで学ぶ。
人工知能と認知科学に基づく知的な学習支援。

単文統合型作問学習環境『モンサクン』の開発

 教授 平嶋 宗 准教授 林 雄介

 本プロジェクトでは、人工知能と認知科学をベースとした新しい学習支援システムを設計・開発し、教育現場での運用を通じて、その効果を検証しています。ここでは、その成果の一つとして、算数の文章題を解くのではなく、作ることによって算数文章題を学ぶ『モンサクン』を紹介します。問題を作ることは効果的な学習とされていますが、学習者と教師の両方の負担が大きく、多くの演習が実施できないのが実情です。モンサクンでは、与えられた文の組み合わせで文章題を作り、それを即座に診断できます。10年以上に渡って広島県内のいくつかの小学校の先生方が授業で利用し、児童が数多く問題を作り、文章題の理解が深まっています。モンサクンの仕組みは、認知科学を元に人がどのように算数文章題を考えるかを検討し、人工知能技術を使って診断可能にすることで実現されています。本プロジェクトでは、このような考え方で小学校から大学まで、現場の先生方と協力しながら、算数に限らずさまざまな分野を対象として学習をモデル化し、学習を支援するソフトウェアを開発しています。

単文統合型作問学習環境『モンサクン』では、左上に表示された要求に合わせて、右側の文のカードを並べることで問題を作ります

単文統合型作問学習環境『モンサクン』では、左上に表示された要求に合わせて、
右側の文のカードを並べることで問題を作ります

授業でも同じように作問をみんなで行うことで活 発な議論が生まれます

授業でも同じように作問をみんなで
行うことで活発な議論が生まれます

児童は指でカードを動かすことによって簡単に操 作することができます

児童は指でカードを動かすことによって
簡単に操作することができます

計算問題を難しさに応じて階級付けする。

計算複雑性理論の探求

 教授 岩本 宙造

 計算時間や記憶領域といった計算資源を、より多く用いれば、より難しい問題の計算が可能になると考えられます。こうした問題の難度による階級付けは、計算量クラスと呼ばれます。さまざまなゲームやパズルには、本質的に難しい問題と易しい問題があり、計算理論の研究テーマとして面白い題材が含まれています。たとえば迷路は易しい問題のクラスPに、しりとり、オセロ、将棋は、より難しいクラスNP、PSPACE、EXPTIMEに所属します。本プロジェクトでは、どのようなゲームやパズルが、どのくらい難しいかを理論的に探究しています。これまでにピラミッドのNP困難性、追跡ゲームのPSPACE困難性、知恵の輪のEXPTIME困難性などを証明しました。また多角形内に最少の警備員を配置するアルゴリズムの設計や、その難しさがNP困難であることを証明しました。さらにクラスP、NP、PSPACE、EXPSPACEの包含関係を、チューリング機械で解析する研究も進行中。特にP≠NP予想は、米国クレイ数学研究所から100万ドルの賞金がかけられている未解決問題の一つで、本プロジェクトでは、その解決に向け日々研究しています。

難しさを尺度としてゲームやパズルを分類したもの。外側ほど理論的に難しい階級である

難しさを尺度としてゲームやパズルを分類したもの。外側ほど理論的に難しい階級である

合計が13になるペアを上から取り除いていくトランプゲーム「ピラミッド」

合計が13になるペアを上から取り除いていく
トランプゲーム「ピラミッド」

計算量クラスを定義するための理論計算機モデル「チューリングマシン」

計算量クラスを定義するための理論計算機モデル
「チューリングマシン」

警備員を緑・青・赤の点に配置した場合の警備範囲の計算

警備員を緑・青・赤の点に配置した場合の警備範囲の計算

常識を利用して、画像の内容を認識する手法を開発する。

ディープラーニングのさらなる性能向上のための研究

 教授 栗田 多喜夫

 人工知能という言葉がメディア等でも頻繁に使われるようになり、大量の訓練データから適切なモデルを構築する機械学習が一般にも普及してきています。画像認識、画像検索等の応用では、ディープラーニングを用いたさまざまな手法が提案され、顔認識等では人間の能力に迫る認識性能に達しています。パターン認識研究室では、ディープラーニングのさらなる性能向上のための基礎研究と応用分野の拡大を目指した研究に取り組んでいます。たとえば、画像の内容を理解し、それを画像検索に利用する手法を開発しています。具体的には、画像内に写っている個々の対象やその位置関係を理解し、その結果を利用して内容的に類似する画像を検索する画像検索の手法を開発しています。また、訓練データには与えられていない類似語等のラベルも適切に推定できるようにするため、Wikipedia等の大量の文書データから単語間の意味的な近さの情報を抽出し、それを制約条件として取り入れた学習法を開発し、画像の自動タグ付けに応用しています。

画像の自動タグ付けの結果

画像の自動タグ付けの結果

画像中のさまざまな対象の検出結果

画像中のさまざまな対象の検出結果

内容の理解に基づく画像検索の結果

内容の理解に基づく画像検索の結果

急速に進化するインターネットを支え、サイバー空間を探求する。

インターネット運用技術と情報セキュリティ技術の研究開発

 准教授 近堂 徹

 たくさんの機器がインターネットに接続されたIoT(モノのインターネット)の世界が訪れようとしているなか、それを支えるネットワークや情報システムの運用管理はより複雑化しています。私たちは、広島大学のキャンパスネットワークや情報サービスの設計・運用に携わる経験を生かしながら、日々進化するネットワークや情報システムを効率的かつ安定的に運用管理する技術やセキュリティ技術の研究開発を行っています。具体的には、学術ネットワークSINETや研究開発テストベッドJGNなど「活きたグローバルネットワーク」を積極的に活用し、1)地理的に離れたコンピュータを効率的に活用するためのクラウド・エッジコンピューティング基盤技術、2)障害や災害に強いネットワークや情報システムをつくるための分散仮想化技術、3)ネットワーク機器から得るログの解析による障害検知やセキュリティ管理者教育、インシデントレスポンス体制の構築などに関する研究に取り組んでいます。

ネットワーク機器から取得した情報を可視化・解析して障害を検知しています

ネットワーク機器から取得した情報を
可視化・解析して障害を検知しています

クラウド・エッジコンピューティング基盤を構築するサーバ

クラウド・エッジコンピューティング基盤を
構築するサーバ

他大学のコンピュータと協調して、災害や障害に強い情報システムを構成しています

他大学のコンピュータと協調して、災害や障害に
強い情報システムを構成しています

大学のネットワークや情報システムを支えるサーバールーム

大学のネットワークや情報システムを支える
サーバールーム

研究を進める教員たち

研究を進める教員たち


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