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【研究成果】がんを引き起こすウイルスの退治にはヘルパーT細胞もキラーT細胞となる

本研究成果のポイント

  • EBウイルス感染細胞を認識したヘルパーT細胞が本来とは異なるキラーT細胞へと機能転換することをマウスとヒトの実験で確認した。
  • その際、2万個ほどある遺伝子の大半がヘルパーT細胞とキラーT細胞の両方で類似した制御を受けていることが明らかになった。
  • T細胞の機能的分類のあり方について今後見直しが必要になるかもしれない。

概要

 広島大学大学院医系科学研究科免疫学、同研究科小児科学、マックスデルブリュック分子医学センター(ドイツ)、シャリテベルリン医科大学(ドイツ)などからなる国際共同研究チームは、人類に普遍感染するがんウイルスの一種、EBウイルス※1に感染した細胞の抑え込みに重要なT細胞※2とよばれる免疫細胞について解析を進めました。マウスおよびヒトの細胞を用いた培養実験で検討したところ、EBウイルス感染細胞を認識して活性化したヘルパーT細胞が本来とは機能的に異なるキラーT細胞へと機能転換することを確認しました。そのようなヘルパーT細胞由来のキラーT細胞では、遺伝子領域全体が本来のキラーT細胞と酷似した転写制御※3を受けていることが判明しました。
 ヘルパーT細胞とキラーT細胞はMHC※4と呼ばれる分子を介してウイルス感染細胞を見分けていることが知られていますが、それぞれ限られたMHC分子しか認識できないという問題点がありました。今回見出された仕組みによって、T細胞が従来考えられていたよりも広範なエピトープ※5を認識してウイルス感染細胞の排除にあたっている可能性が示唆されました。このような現象はこれまでのT細胞の機能的な分類に当てはまらないことから、T細胞の機能的分類のあり方について今後見直しが必要になるかもしれません。
 
 本研究成果は、ロンドン時間の8月25日午後2時に学術誌「Cancers」誌に掲載されました。

語句説明

※1 EBウイルス:ヘルペスウイルスの仲間で世界中に分布します。ヘルペスウイルスは人類の誕生以前から地球上に存在したと考えられており、 様々な動物種に特有のヘルペスウイルスが存在します。EBウイルスは人類と共生するウイルスの一種です。また、EBウイルスは、バーキットリンパ腫など一部の悪性リンパ腫や、上咽頭がんの発生と関連があることが明らかになっています。
※2 T細胞:免疫を担当するリンパ球の一種で、胸腺(Thymus)でつくられるためT細胞とよばれています。細胞表面にCD4分子を発現するヘルパーT細胞とCD8分子を発現するキラーT細胞の2種類が獲得免疫において重要なT細胞です。CD4とCD8はそれぞれクラスIIとクラスIという異なるMHCを認識します。ヘルパーT細胞は免疫反応を舵取りする司令塔の役割、キラーT細胞は武装化してウイルスや細菌に感染した細胞を殺して排除する役割をそれぞれ担っています。
※3 転写制御:細胞が機能を発揮するためにはゲノムにコードされた遺伝子から蛋白質をつくらなければいけません。約2万ある遺伝子がコードする蛋白質のうち、どの蛋白質を、どの程度の量、どれだけの期間つくるかはmRNAと呼ばれる中間分子の転写を制御することによってもコントロールされています。
※4 MHC:人の細胞には基本的にMHCとよばれる分子が発現し、細胞内や細胞外の蛋白質を分解した一部をMHC上に提示することで、T細胞にその細胞が自己か非自己かを識別させています。
※5 エピトープ:抗原決定基のことで、T細胞が認識するエピトープは8〜17アミノ酸程度の長さの蛋白質の断片(ペプチド)です。ウイルス感染細胞では、ウイルス由来の蛋白質の一部がエピトープとしてMHC上に提示されることから、ウイルスに感染していることがT細胞によって感知され、排除されます。
※6 エフェクター(メモリー)T細胞:T細胞は活性化刺激を受けない限りは、他の細胞を攻撃することはありません。ウイルス感染などによって異物を感知しT細胞が活性化するとT細胞自身が増殖し、特有の機能をもったエフェクター細胞へと分化して機能を発揮するようになります。それらの一部はメモリーT細胞となって長期間生存することで、同一の病原体が再度侵入した際に速やかに免疫応答することを可能にしています。

論文情報

  • 掲載誌: Cancers, 2022, 14(17), 4118.
  • 論文タイトル: Concomitant cytotoxic effector differentiation of CD4+ and CD8+ T cells in response to EBV infected B cells.
  • 著者名: 田村結実1, 山根慶大1, 河野洋平1, Lars Bullinger2, Tristan Wirtz3,4, Timm Weber3,5, Sandrine Sander3,6, 大木駿1, 北嶋康雄1, 岡田賢7, Klaus Rajewsky3, 保田朋波流1,3※ 責任著者
    1 広島大学大学院医系科学研究科免疫学
    2 Department of Hematology, Oncology and Tumor Immunology, Charité-Universitätsmedizin Berlin, Corporate Member of Freie Universität Berlin, Humboldt-Universität zu Berlin, 13353 Berlin, Germany.
    3 Immune Regulation and Cancer, Max-Delbrück-Center for Molecular Medicine in the Helmholtz Association (MDC), 13125 Berlin, Germany.
    4 Pfizer Inc., San Diego, CA 92121, USA.
    5 Laboratory of Experimental Immunology, Institute of Virology, Faculty of Medicine and University Hospital Cologne, University of Cologne, 50931 Cologne, Germany.
    6 Adaptive Immunity and Lymphoma, German Cancer Research Center (DKFZ) and National Center for Tumor Diseases (NCT), 69120 Heidelberg, Germany.
    7 広島大学大学院医系科学研究科小児科学
  • DOI: https://doi.org/10.3390/cancers14174118
【お問い合わせ先】

広島大学大学院医系科学研究科 免疫学
教授 保田 朋波流
Tel:082-257-5175
FAX:082-257-5179
E-mail:yasuda*hiroshima-u.ac.jp

(注: *は半角@に置き換えてください)


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