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【研究成果】新型コロナウイルス感染症罹患後に感染に対する偏見と後遺症が心理的負担と労働機能障害に影響することが判明

本研究成果のポイント

  • 新型コロナウイルス感染症回復患者において、感染に対する偏見と後遺症によって心理的負担と労働機能障害の危険性が高まる事が明らかになった。
  • 後遺症が労働機能障害に与える影響は心理的負担を介していることが示唆された。
  • 新型コロナウイルス感染症回復後の心理的負担や労働機能障害の発症を予防もしくは軽減するためには、感染に対する偏見の払拭や心理的サポートが重要であると考えられる。

概要

 広島大学大学院医系科学研究科 石井伸弥寄附講座教授、久保達彦教授、田中純子教授、広島市立舟入市民病院 高蓋寿朗病院長、三次中央病院 永澤昌病院長、広島県感染症・疾病管理センター 桑原正雄センター長らによる新型コロナウイルス感染症から回復した患者を対象とした研究により、新型コロナウイルス感染症罹患後において、感染に対する偏見と後遺症によって心理的負担と労働機能障害の危険性が高まる事が明らかになりました。この研究成果は医学雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。これまでの研究において新型コロナウイルス感染後には不安や抑うつなどが増加すること、機能障害が生じる危険性が高まる事が示されていましたが、本研究によって感染に対する偏見や後遺症が感染後の心理的負担と労働機能障害に対して与える影響が明らかになりました。
 本研究成果は2022年12月23日に、医学雑誌 「Scientific Reports」に掲載(オンライン)されました。

論文情報

  • 掲載誌:Scientific Reports. 2022; Dec 23;12(1):22218. 
  • 論文タイトル:The role of discrimination in the relation between COVID-19 sequelae, psychological distress, and work impairment in COVID-19 survivors 
  • 著者名:Shinya Ishii*, Aya Sugiyama, Noriaki Ito, Kei Miwata, Yoshihiro Kitahara, Mafumi Okimoto, Akemi Kurisu, Kanon Abe, Hirohito Imada, Tomoyuki Akita, Tatsuhiko Kubo, Akira Nagasawa, Toshio Nakanishi, Toshiro Takafuta, Masao Kuwabara, Junko Tanaka* 
    * 責任著者

発表内容

【研究の背景】
 新型コロナウイルス感染症から回復した後に、疲労、息切れ、頭痛、味覚障害などの症状が持続する後遺症が生じる危険性が指摘されています。さらに、感染症がたとえ軽症であったとしても、回復後に、仕事、社会生活、家庭生活において機能障害を生じる危険性も指摘されています。
 一方、感染に対する偏見も新型コロナウイルス感染症から回復した患者にとって深刻な問題であり、不安、抑うつなどの精神面での問題と関連していることが報告されていました。本研究は、感染に対する偏見と後遺症、心理的な負担と労働機能障害の関係を評価するために実施されました。

【研究成果の内容】
 2020年4月から2021年11月までに広島県の新型コロナウイルス感染症対応病院2施設において研究に参加することに同意した新型コロナウイルス感染症患者309名を対象として調査を行いました。対象者は新型コロナウイルス感染症後遺症や心理的負担、労働機能障害※1、感染に対する偏見に関する項目(「誹謗中傷を受けた」「風評被害により仕事上での不利益があった」など)等が含まれた調査票に回答しました。心理的負担はK6※2, 労働機能障害はWfun※3によって評価しました。
 62.5%の参加者が一つ以上の後遺症を経験しており、心理的負担(K6得点5点以上)は対象者の36.9%に、労働機能障害(Wfun得点14点以上)は対象者の37.9%にみられました。感染に対する偏見は対象者の32.7%が経験したと回答していました。多変量ロジスティック回帰において、後遺症は心理的負担(調整オッズ比:2.36、95%信頼区間:1.37-4.05)と労働機能障害(調整オッズ比:2.44、95%信頼区間:1.42-4.21)両方に関連しており、同様に感染に対する偏見も心理的負担(調整オッズ比:2.10、95%信頼区間:1.23-3.60)と労働機能障害(調整オッズ比:3.42、95%信頼区間:1.97-5.94)両方に関連していました。後遺症が心理的負担と労働機能障害に与える影響について評価するため、心理的負担で調整した媒介分析を実施したところ、労働機能障害に対する後遺症の効果はみられなくなり、後遺症が労働機能障害に与える影響は心理的負担を介していることが示唆されました。軽度の新型コロナウイルス感染症から回復した対象者に限定した解析でも同様の結果が得られました。
 これらの結果から、感染に対する偏見と後遺症によって心理的負担と労働機能障害の危険性が高まる事、後遺症の労働機能障害に対する影響は心理的負担を介している可能性があることが明らかになりました。

【今後の展開】
 新型コロナウイルス感染症患者が増える中、感染症からの回復後に心理的負担を経験したり、機能障害に悩まされたりする人も増えていることが考えられます。新型コロナウイルス感染症流行による社会への影響を抑えるためには、そうした感染後の心理的負担や労働機能障害を予防もしくは軽減する取組が重要であると考えられます。本研究ではその為に、感染に対する偏見の払拭や心理的サポートが重要であることが示唆されました。今後は、感染後の支援としてどのようなサポートが適切であるか研究をすすめるとともに、そうしたサポートを感染症対策と連携させていく取組が必要であると考えられます。

用語解説

※1 労働機能障害:何らかの健康上の問題(疾病や症状など)を抱えながら出勤し、生産性が低下している状態(プレゼンティーイズム)を指します。

※2 K6:一般住民を対象としてうつ病や不安障害などの精神疾患をスクリーニングすることを目的として開発された心理尺度です。

※3 Wfun:労働機能障害の程度を測定するために開発された尺度です。

参考図

図1 新型コロナウイルス感染症からの回復後対象者にみられた影響の割合

表 1 心理的負担と対象者特性の関連

表 2 労働機能障害と対象者特性の関連

対象者特性と心理的負担、労働機能障害の関連を調べた多変量ロジスティック回帰では、心理的負担と性別、後遺症、時期、感染に対する偏見が関連しており、労働機能障害とは後遺症、時期、感染に対する偏見が関連していることが示された。

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>
 広島大学大学院医系科学研究科共生社会医学講座 石井 伸弥
Tel:082-257-2018 FAX:082-257-2018
E-mail:sishii76*hiroshima-u.ac.jp

 (注: *は半角@に置き換えてください)


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