大学院医系科学研究科 消化器・移植外科学
教授 大段 秀樹
Tel:082-257-5222 FAX:082-257-5224
E-mail:hohdan*hiroshima-u.ac.jp
(注: *は半角@に置き換えてください)
広島大学大学院医系科学研究科 消化器・移植外科学の大段秀樹教授らの研究グループは、COVID-19ワクチン接種後の抗体産生および抗体価の維持において、免疫応答を制御する関連分子の遺伝子多型が及ぼす影響を解明しました。その中でもNLR3, IL12Bといった分子の遺伝子多型が抗体獲得に重要であることが判明し、遺伝子因子を解析することで抗体価維持が困難な人を予測するモデルを作成しました。これらの知見は今後のワクチン開発ならびに接種の個別化などを図るうえで有益な情報となることが期待されます。
本研究の成果は2023年7月26日に「Frontiers in Immunology」に掲載されました。
論文タイトル
Multi-phasic gene profiling using candidate gene approach predict the capacity of specific antibody production and maintenance following COVID-19 vaccination in Japanese population
著者
Yuki Takemoto1, Naoki Tanimine1*, Hisaaki Yoshinaka1, Yuka Tanaka1, Toshiro Takafuta2, Aya Sugiyama3, Junko Tanaka3 and Hideki Ohdan1*
* Corresponding author(責任著者)
1. Department of Gastroenterological and Transplant Surgery, Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University, Hiroshima, Japan
2. Department of Internal Medicine, Hiroshima City Funairi Citizens Hospital, Hiroshima, Japan
3. Department of Epidemiology, Infectious Disease Control and Prevention, Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University, Hiroshima, Japan
掲載雑誌
Frontiers in Immunology, Impact factor=7.1
DOI
10.3389/fimmu.2023.1217206
COVID-19感染症は社会に大きな影響を及ぼしました。ワクチンの接種によって感染予防や重症化予防がもたらされ、社会活動は「コロナ以前」に近づきつつある一方で、依然として医療に対する影響は大きなものがあります。
COVID-19ワクチン接種後の免疫反応については世界中で多くの大規模な研究がなされており、ほとんどの場合、ワクチン接種後に十分な量の特異的抗体(※1)の産生が得られることが知られています。産生される抗体は半年を過ぎる頃には徐々に低下することも明らかになっており、これらの知見を基づきワクチン接種スケジュールが決定されています。
一方、抗体獲得には個体差があることも知られています。抗体が得られにくい、もしくは抗体価が早く減弱しやすいリスクがある集団としては、高齢者や男性などが示唆されていますが、まだ不明な点も多くあります。特に遺伝学的背景が及ぼす影響については、まだ十分な検討がなされていませんでした。
一塩基多型(以下SNP, ※2)といわれる遺伝子多型は、分子の発現量や質に影響し、生体反応に影響を及ぼすことが知られています。以前より本教室では、免疫応答の制御に関わる分子のSNPに注目し、移植免疫、がん免疫領域での影響を研究、臨床応用してきました。COVID-19ワクチンに対する反応においても、こういった免疫制御関連分子のSNPが影響している可能性があると考えました。
そこで本研究では、ワクチン接種をした健常者を対象に、“候補遺伝子アプローチ”(※3)という、事前に関わりの高い遺伝子多型を抽出し検討する手法で、15免疫関連分子、計33遺伝子多型のワクチン後抗体獲得・維持への影響について調べました。
COVID-19ワクチンを2回接種した医療従事者を対象とし、抗体産生に関わる免疫細胞の働き、すなわち抗原提示細胞の活性化、T細胞の活性化、T-B相互作用、およびB細胞の生存に関与することが知られている15免疫関連分子、33 SNPについて、各個人の遺伝子多型の影響を調べました(図1)。これらの遺伝子多型の組み合わせと、ワクチン初回接種の3週間後(2回目の接種直前)、2回目接種の3週間後、2回目接種の5か月後の各時点で測定した抗SARS-Cov2スパイクIgG抗体価との関連を解析しました。
抗体獲得には免疫感作に関わるNLRP3, IL12Bを含む複数の遺伝子多型の関与、抗体維持にはMIFやBAFFといったB細胞生存に関わる遺伝子多型の関与を認めました。遺伝子多型の組み合わせにより、2回目ワクチン接種後の抗体価が判明している場合には、6か月後の抗体維持困難な個体を感度、特異度共に8割を超えて予測(AUC=0.86)、抗体価の情報がなくても感度67.8%、特異度82.5%(AUC=0.76)で予測するモデルを作成しました。
本研究により、COVID-19ワクチンに対する免疫応答において、重要な遺伝子多型の関与が明らかになりました。これらの知見は今後のワクチン開発・接種スケジュールの個別化を図るうえで有益な情報となることが期待されます。
今後は、免疫応答のもう一つの柱である細胞性免疫との関連や、副反応の重症度との関連についても研究を進めていく予定です。
図1:COVID-19ワクチン後の抗体産生に関する免疫ネットワーク
抗原曝露後に特異的抗体産生を増強する免疫学的ステップである①抗原提示細胞(antigen-presenting cells ; APC)活性化、②T細胞活性化、③T細胞とB細胞相互作用、④B細胞の生存、それぞれに関係する15分子、33SNPを選択。
図2:抗体価が急激に減弱してしまう人を予測するモデル
A.2回目ワクチン接種3週後の抗体価情報と性別、6つの関連遺伝子多型(NLRP3、IL12B、IL1B、IL10、IL4R、BAFF)から作成したモデル。B. 抗体価情報に代わり、年齢、性別、7つの関連遺伝子多型(NLRP3(2か所)、IL12B、STAT4、IL4R、IL7R、BAFF)から作成したモデル
※1 抗体
ワクチンを接種するとコロナウイルスが持つたんぱく質構造(抗原)を標的にした免疫機構が備わります。そのうち、B細胞が産生する免疫グロブリンを総称して抗体と呼びます。コロナウイルスに特化した感染、重症化を予防する生体防御機能を備えています。
※2 一塩基多型 (Single Nucleotide polymorphism ; SNP)
遺伝子は30億の塩基配列で成り立っており、1%以上の頻度で受け継がれている特色を遺伝子多型とよびます。また遺伝子多型のなかでも塩基配列が1つ変化することでたんぱく質の発現量や活性に影響することがあることが知られており、一塩基多型と呼びます。アルコールに対する強さの遺伝的要因に影響するアルデヒド脱水素酵素の遺伝子多型などが有名です。ヒト遺伝子には200万か所存在するといわれています。
※3 候補遺伝子アプローチ
200万か所の一塩基多型を網羅的に解析するためには、非常に多くのサンプルと莫大な解析費用が掛かかります。これまでの知見に基づいてあらかじめ、有力な候補を選出することで効率的な解析を行う手法です。
大学院医系科学研究科 消化器・移植外科学
教授 大段 秀樹
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掲載日 : 2023年10月03日
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