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【研究成果】新型コロナウイルス感染症の感染時期や重症度によって罹患後にみられる後遺症症状は異なることを確認

研究成果のポイント

  • 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では治癒後にも後遺症が認められる場合がありますが、その原因や病態、感染株ごとの特徴については十分明らかになっていません。
  • 広島大学および広島市立舟入市民病院の研究グループはCOVID-19後遺症に関する調査を実施しており、今回、感染時期別(野生株、アルファ株、デルタ株、オミクロン株流行期)の後遺症症状の特徴を明らかにするための解析を行いました。
  • 調査は治癒後フォローアップ外来受診時(COVID-19発症から中央値23.5日経過時点)に行われました。オミクロン株流行期に感染した患者では、野生株流行期感染患者と比較して呼吸器症状(咳嗽、喀痰、鼻汁、咽頭痛)が約3倍多く認められた一方、嗅覚・味覚障害の頻度は約7分の1でした。
  • また、野生株流行期と比較してアルファ株、デルタ株、オミクロン株流行期に感染した患者では、治癒後に倦怠感が2-3倍多く認められました。
  • COVID-19の重症度別にみると、中等症以上の患者では、感染時期や年齢にかかわらず、治癒後に呼吸困難、動悸、胸痛が約3倍多く認められました。
  • COVID-19治癒後早期における後遺症症状の特徴を示した本研究結果は、本疾患の疫学的特性をより深く理解するための有用な資料となると期待されます。また、治癒後もなお症状を有する人々に対する理解、学校や職場への円滑な復帰の支援に役立つと考えます。

概要

  • 広島大学 大学院医系科学研究科 疫学・疾病制御学 阿部夏音氏(博士課程後期)、杉山文講師、田中純子特任教授、広島市立舟入市民病院の高蓋寿朗病院長らの研究グループは、COVID-19後遺症症状の実態を明らかにすることを目的に、自記式アンケート調査を2020年9月より継続実施しています。今回、感染株別の後遺症症状の特徴を明らかにするための解析を行いました。
  • COVID-19治癒後のフォローアップのために本研究実施病院(第二種感染症指定医療機関、単施設)を受診し、本研究への参加に同意した385人のうち、アンケート回答時に何らかの後遺症症状を有していた249人を解析対象としました。
  • 広島県の変異株流行状況1に基づいて感染時期を4群(野生株、アルファ株、デルタ株、オミクロン株流行期)に分類して解析した結果、後遺症症状の種類は感染時期や重症度によって異なることが明らかとなりました。
  • 本研究は、広島大学・広島県 官学連携による検査研究体制構築事業、ならびに国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)の「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 官学連携COVID-19研究体制を基盤とした、新たな感染症流行に対する危機管理も見据えたサーベイランス・疫学研究(代表 田中純子)」の一環として行われました。
  • 本研究成果は、「Journal of Epidemiology」誌に掲載されました (2023年8月12日)。

論文情報

  • 論文タイトル:Variant-specific symptoms after COVID-19: a hospital-based study in Hiroshima
  • 著者名:Kanon Abe1, Aya Sugiyama1, Noriaki Ito2, Kei Miwata2, Yoshihiro Kitahara2, Mafumi Okimoto2, Ulugbek Mirzaev1,3, Akemi Kurisu1, Tomoyuki Akita1, Ko Ko1, Kazuaki Takahashi1, Tatsuhiko Kubo4, Toshiro Takafuta2, Junko Tanaka1*

1 広島大学大学院医系科学研究科 疫学・疾病制御学
2 広島市立舟入市民病院
3 Department of Hepatology, Scientific Research Institute of Virology, Ministry of Health of Uzbekistan, Tashkent, Uzbekistan
4 広島大学大学院医系科学研究科公衆衛生学
* 責任著者

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背景

 COVID-19では治癒後にも罹患後症状(いわゆる後遺症)が認められる場合があり、後遺症症状によって生活の質が低下しうると報告されています。しかし、厚生労働省が作成した『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント』において、「COVID-19罹患後症状の国内における定義は現時点では定まっていない」、「その病態についてはいまだ不明な点が多い」と記されているように、その原因や病態はいまだ明らかになっていない現状です。
 新型コロナウイルスでは、遺伝子の変異によって、元のウイルス(野生株)とは異なる性質をもつ変異株が多数出現しています。そのうち、VOC*1に指定されている一部の変異株は、感染性や病原性の増大、予防や治療手段の有効性の低下を引き起こすことが報告されていますが、変異株別の後遺症症状の特徴については十分明らかになっていません。COVID-19後遺症症状の特徴を明らかにすることは、疾患の理解を深め、後遺症を有する人々に対する医療および社会的支援の向上に寄与すると期待されます。

研究成果の内容

  • 対象は、感染時に本研究実施病院にてCOVID-19と診断され、同病院に入院、またはホテルや自宅で療養した後、フォローアップを目的に2020年9月から2022年3月の間に再受診した患者としました。
  • 後遺症症状の種類、COVID-19に関連する差別・偏見を受けた経験の有無、うつ・不安障害(K6*2を使用)および労働機能障害(WFun*3を使用)について調査しました。また、COVID-19発症日、重症度等を診療記録より収集しました。
  • 本研究への参加に同意した385人のうち、アンケート回答時に何らかの後遺症症状を有していた249人を、発症日をもとに以下の4群に分けて解析しました。

       -    野生株流行期感染群:2020年3月-2021年2月に発症(67人)
       -    アルファ株流行期感染群:2021年3月-同年6月に発症(43人)
       -    デルタ株流行期感染群:2021年7月-同年11月に発症(100人)
       -    オミクロン株流行期感染群:2021年12月-2022年3月に発症(39人)

  • アンケート回答時点(COVID-19発症から中央値23.5日経過時点)における後遺症症状を比較した結果、咳嗽、喀痰、咽頭痛、嗅覚障害、味覚障害の頻度は感染時期によって異なっていました。
  • 多変量解析によって調整オッズ比*4を算出した結果、オミクロン株流行期に感染した患者では、野生株流行期と比較して呼吸器症状(咳嗽、喀痰、鼻汁、咽頭痛)が3.1倍多く認められた一方、嗅覚障害または味覚障害を有する頻度は0.14倍(約7分の1)でした。
  • 治癒後の倦怠感は、野生株流行期と比較してアルファ株流行期感染患者で2.7倍、デルタ株で2.4倍、オミクロン株で2.6倍多く認められました。
  • COVID-19の重症度別にみると、中等症以上の患者では、感染時期や年齢にかかわらず、呼吸困難、動悸、胸痛が2.7倍多く認められました。
  • COVID-19に関連する差別・偏見を受けた経験がある人は、中等度以上のうつ・不安障害(K6スコア8点以上)、または中等度以上の労働機能障害(WFunスコア21点以上)を有するリスクが2-3倍高いことが判明しました。

今後の展開

 本研究の結果、COVID-19治癒後早期における後遺症症状は、感染時期や重症度によって異なることが明らかとなりました。この研究によって得られた知見は、COVID-19の疫学的特性を理解するための有用な資料となると期待されます。また、治癒後も後遺症症状を有する人々に対する理解を深め、学校や職場への円滑な復帰の支援に役立つと考えます。なお、本研究グループはCOVID-19治癒後の長期的な追跡調査も実施中であり、今後公表予定です。

参考資料

図1 広島県におけるCOVID-19感染者数の推移と各株の流行時期
広島県におけるSARS-CoV-2流行株の月別分布1を参考に、COVID-19感染時期を4つに分類しました。

図2 アンケート回答時に何らかの症状を有する患者における各症状の頻度(感染時期別)
アンケート回答時(COVID-19発症から中央値23.5日経過時点)の各症状の頻度を感染時期別に比較した結果、咳嗽、喀痰、咽頭痛、嗅覚障害、味覚障害の頻度は感染時期によって異なっていました。

用語解説

*1:VOC(Variant of Concern; 懸念される変異株)
 新型コロナウイルスを含め、一般的にウイルスは増殖を繰り返す中で遺伝子に変異が生じる。ほとんどの変異はウイルスの特性に影響を与えないが、一部の変異は感染性や病原性、ワクチンや治療薬の効果に影響を与える。2020年後半、公衆衛生上の問題となる新型コロナウイルスの変異株が出現したため、世界保健機関はそのような変異株をVOCに分類し、モニタリングや研究の優先的実施、情報提供、対策を行った。

*2:K6(6-item Kessler Psychological Distress Scale)
 うつ病や不安障害などの精神疾患をスクリーニングするための調査票。6つの質問(例:神経過敏に感じましたか)に対し「全くない」、「少しだけ」、「ときどき」、「たいてい」、「いつも」の5段階から回答する。合計得点8点未満を軽度うつ・不安障害、8~12点を中等度うつ・不安障害、13~24点を高度のうつ・不安障害と分類した。

*3:WFun(Work Functioning Impairment Scale)
 健康問題による労働機能障害の程度を測定するための調査票。7つの質問(例:社交的に振る舞えなかった)に対し、「全くない」、「月に1日程度」、「週に1日程度」、「週に2日以上」、「ほぼ毎日あった」の5段階から回答する。合計得点14点未満を正常、14~20点を軽度労働機能障害、21~27点を中等度労働機能障害、28~35点を高度労働機能障害と分類した。

*4:オッズ比
 各グループにおいて事象の起こりやすさを比較する指標。オッズ比が1の時はその事象の発生割合が各グループで同じであることを示し、オッズ比が1よりも大きいと発生割合が高い、1よりも小さいと発生割合が低いことを示す。多変量解析では、他の説明変数の影響を取り除いた調整オッズ比を算出することができる。

【お問い合わせ先】

大学院医系科学研究科 疫学・疾病制御学
講師   杉山 文
特任教授 田中 純子
Tel:082-257-5160 FAX:082-257-5164
E-mail:jun-tanaka*hiroshima-u.ac.jp

 (注: *は半角@に置き換えてください)


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