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【研究成果】人工呼吸器装着患者の容態悪化のサイン「VAE」が死亡率と関係していることを発見しました

本研究成果のポイント

 人工呼吸器を使用している重症患者の容態悪化のサイン(VAE)と死亡率の関連性を明らかにしました。

概要

 広島大学大学院医系科学研究科 志馬 伸朗 教授をはじめとする国内多施設共同研究グループにより、人工呼吸器を使用している重症患者の容態悪化のサイン(VAE)がみられると、その後の死亡率が約2倍高まることが分かりました。これまでの研究でも、VAEが死亡率と関係しているといわれていましたが、患者の重症度の変化を経時的に調整する統計学的手法を適用して、より詳細かつ正確に関連性を明らかにしました。
 本研究成果は、学術誌「Intensive Care Medicine」(インパクトファクター21.2)に9月1日に掲載されました。
また、本研究は広島大学から論文掲載料の助成を受けています。

背景

 VAEとは、2013年に米国疾病予防管理センター(CDC)/全米医療安全ネットワーク(NHSN)が導入した新たな医療の質監視システムです。具体的には、患者の容態が悪化したときに起きる人工呼吸器の変化をまとめた指標です。人工呼吸器は、吸入させる酸素の量や、呼吸を助けるための圧の強さといった、患者ごとの設定の数値を常に記録しています。これらの設定値の変化は、患者の容態が悪化したことを間接的に示すことになります。よって、医師の判断ではなく、より客観的に患者の容態を判定できる指標として期待されていました。

略語:VAE, 人工呼吸器関連イベント;VAC, 人工呼吸器関連状態;IVAC, 感染関連人工呼吸器合併症;PVAP, 人工呼吸器関連肺炎の可能性;PEEP, 呼気終末陽圧;FIO₂, 吸入酸素濃度;WBC, 白血球数

 これまでの研究で、VAEは人工呼吸器装着患者の死亡率と関係するといわれていました。しかし、VAEが発症したから死亡率が上がったのか、そもそも死亡率が高かったからVAEが発症したのかわからなかったため、死亡率の差異はその時点における患者の重症度の差に起因する可能性が指摘されていました。
上記の問題を解決するため、VAEの発生と重症度変化が死亡率に及ぼす影響をより適切に調整する統計モデルを使用することで、VAEと死亡率との関連性をより正確に評価しました。

研究成果の内容

 今回の研究では、日本全国のVAE共同研究に参画した18の集中治療室で1,094人の対象患者を調査しました。そのうち、106人(9.7%)にVAEが発生しており、VAEが起こった人は、起こらなかった人に比べて死亡率が約2倍高いことがわかり、集中治療室や病院での滞在期間も長くなっていました。特に、VAEの種類のうちPVAP(人工呼吸関連肺炎の可能性)というタイプは死亡率と強く関係していることが分かりました。以下、具体的な研究成果です。

 日本全国のVAE共同研究に参画した18のICUから1,094人の対象患者が登録された。うち、106例のVAE(9.7%)が確認された。人工呼吸1,000日当たりの発生率は10.0であった。VAEは30日間の病院死亡率およびICU死亡率の有意な上昇(HR 2.00;95% CI 1.23–3.26 および HR 1.92; 95% CI 1.03–3.57)、ならびに入院日数およびICU滞在期間の延長(HR 0.72 95% CI 0.54–0.97 および HR 0.47; 95% CI 0.23–0.96)と有意に関連していた。VAE関連の集団寄与死亡割合は、院内死亡で8.8%、ICU死亡で8.2%であった。VAEは、重症度を時間依存性交絡因子として調整した上で、死亡リスクの増大と関連していることが証明された。

また、VAEのサブタイプの中では特にPVAPが、死亡と有意に関連していた。

今後の展開

 今回の研究で、VAEと死亡率の関連性が明確になりました。今後は、人工呼吸器装着患者の容態を客観的に判定できる指標としてのVAEの普及に向けて、VAEの予防法を解明する研究の実施が期待されます。

参考資料

1)Nakahashi S, Suzuki K, Nakashima T, Hayashi Y, Tanabe Y, Tanaka A, Hashiuchi S, Yamashita C, Ito Y, Wada T, Yamashita A, Shima M, Hoshino T, Moriyama K, Kazuma S, Lee HA, Yamaguchi Y, Nakamura Y, Kawanobe Y, Sofue T, Nishimura Y, Shinozaki T, Goto T, Hashimoto S, Fujino Y, Shime N; Japan VAE study Investigators Group. A reappraisal of association between ventilator-associated events and mortality among critically ill patients using marginal structural model: multicenter observational study. Intensive Care Med. 2025 Sep 1. doi:10.1007/s00134-025-08074-x. Epub ahead of print. PMID: 40888898.

【お問い合わせ先】

広島大学広報室
082-424-4383
koho@office.hiroshima-u.ac.jp

(研究室の連絡先はこちら)
kyukyu@hiroshima-u.ac.jp


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