本研究成果のポイント
〇CMOSプロセスを用いて300GHz帯で動作する無線トランシーバを実現
〇増幅器を使用せず、電力合成により実用的な送受信機能を達成
〇新たな補間給電方式により、半波長ピッチアンテナと1波長ピッチ回路の共存を実現
〇モノリシックな2次元フェーズドアレイによるビームステアリング機能の集積化
〇高精細映像をリアルタイム伝送可能な次世代ヘッドマウントディスプレイ応用への展開
概 要
無線通信は近年著しい進展を遂げており、毎秒100ギガビットを超える超高速伝送が可能となっている。これを支えている要素技術の一つが、使用する無線周波数の高周波化である。特にテラヘルツ帯(300GHz帯)は、44GHzに及ぶ連続帯域(252–296GHz)を活用可能であり、極めて高速な通信が可能となるため注目されている。
しかしながら、300GHz帯は一般的な電子デバイスの高周波特性が劣化する領域であり、これまでの研究では化合物半導体や光ミキシング方式が主に用いられてきた。本研究では、より量産性と実装性に優れたCMOS集積回路を用いることで、300GHz帯に対応した無線トランシーバの実現を試みた。
CMOSプロセスでは高周波増幅器の構成が困難なため、本研究では送信信号を増幅せずにそのまま出力し、受信信号も増幅せずに周波数変換する構成を採用した。これを可能とするために、複数の回路を並列化し、出力を電力合成することで、増幅器を用いずとも十分な出力と受信感度を確保した。
さらに、300GHz帯では自由空間損失が大きいため、通信距離を確保するためにはビームの指向性を高める必要がある。従来の大型アンテナではビーム方向が固定されるという制約があったが、本研究ではフェーズドアレイ技術を導入し、動的なビームステアリングを可能とした。特に、300GHzという短波長領域において、アンテナ素子を半波長ピッチ(500μm)で配置しつつ、回路部を1波長ピッチ(1mm)で構成する新たな補間給電方式を提案し、名古屋工業大学および東京理科大学と連携してCMOSモノリシック2次元フェーズドアレイを実証した。 今後は、さらなるビーム制御精度の向上とシステム集積化を進め、例えばヘッドマウントディスプレイ等への高精細映像をリアルタイムで無線伝送可能な応用へと発展させることを目指す。
