AIとベイズ推論による電力需要の確率的予測手法の構築と EMSへの応用

本研究成果のポイント

〇広島大学の研究実験棟および東広島キャンパス全体の電力需要を対象に、AIを活用した予測手法を開発しました。

〇本手法には、事前知識と観測データを統合して確率的に推定を行うベイズ推論を取り入れています。

〇実際の需要データを用いた検証により、従来の予測モデルと同等以上の予測精度を示すとともに「説明可能性」や「不確実性の定量化」にも対応し、リアルタイム処理にも適した手法であることが確認されました。

概  要

 近年、自然災害への対応力を高める電力・エネルギー供給の将来像として、地域マイクログリッドが注目されています。その中心的な役割を担うエネルギーマネジメントシステム (EMS) の研究が、各研究機関で活発に進められています。

 EMSでは、エネルギーの供給と消費のバランスを適切に管理するために、電力需要の変動を正確に把握・予測することが重要であり、その予測精度はシステムの効率性や安定性に大きく影響します。

 本研究では、需要予測手法の開発にあたり、予測精度に加えてEMSの実運用に必要な以下の3つの要件を設定しました。
 ・予測の根拠を説明可能であること
 ・予測に伴う不確実性を定量化できること
 ・EMSの更新周期内に計算を完了すること

 これらの要件を満たすため、経験則と状況判断を組み合わせた人間の逐次的・直感的な予測思考を模倣することを目指し、過去の経験と新しい情報を柔軟に統合可能なベイズ推論に基づく線形回帰モデルを採用しました。

 ベイズ推論の線形回帰モデルは、一般に非線形性を含む電力の需要予測には不向きとされますが、データ収集方法の工夫と独自の時間的近接性に応じたウェイト付けにより予測精度の向上を図りました。広島大学の研究実験棟およびキャンパス全体の実データを用いた検証では、非線形性に強いLightGBMやLSTMなどの既存モデルと同等以上の予測精度を示しました。

 加えて、本手法は実運用に必要な3つの要件にも対応しており、多様な規模の需要に柔軟に適応可能でもあることから、地域マイクログリッドにおけるEMSの高度化に貢献する有力な技術基盤となることが期待されます。

Fig. 1.  A concept of a regional microgrid with AI-based 

Fig.2. Forecast Results of Electricity Demand for a Research Building


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