栗田 雄一 教授にインタビュー!

デジタルハプティクス、遠隔就労支援、人工筋、AI技術を活用したスマートコーチングなどの研究

ものづくりや働き方を変える触覚技術

私の研究の大きなテーマは、人の可能性を拡げることです。中でも人の感覚と身体に焦点を当てており、感覚については主に触覚を扱っています。商品の手触りが良いことで実際よりも高級に感じるというように、触り心地は購買意欲や満足度に関わる大切な要素です。医療やヘルスケアなど、ものが直接肌に触れる機会の多い分野では特に重要視されています。ものづくりにおいては良い触感を作るにはコストがかかる上、言語化が難しく人とイメージを共有しにくいという課題があり、ものに触れた人の脳波や経済学的な観点から触感を評価することで基準を定め、一つの判断材料

とすることを目指しています。加えて、触覚を皮膚感覚として再現する技術(デジタルハプティクス)により、目の前にないものの触感を確かめられるデザイン支援ツールを開発しており、これを利用することで商品開発にかかる時間とコストを削減することができます。デジタルハプティクスの精度が高まり世の中に普及すれば、ネットショッピングや仮想空間などでも実際にものに触れているかのような体験が可能です。また、学内には私が所長を務める「夢源力共創研究所」という施設があり、そこではコベルコ建機株式会社と共に触覚のデータを就労支援に活かす研究を行っています。建築土木業界では人手不足が深刻化しており、解決策の一つとして建設機械のリモート操作が提唱されています。これが実現すれば、たとえ現場が山奥でも作業者は設備が整った世界中のどこからでも作業することができ、人が集まりやすい場所で働き手を募ることができるようになります。しかし、リモート作業をするには現場にいる人と同じだけの情報がなければ安全性を確保できません。そのため、視覚や聴覚の情報と同じように、リアルタイムで触覚を人に転送する技術についても研究を進めています。「夢源力共創研究所」には無人のショベルカーで土を掘れる設備があり、性能試験などを行える環境が整備されています。

 実は日本は触覚の研究をしている研究者が他国と比べて多く、今後の発展が期待されています。スマートフォンや食器といった物体に触れる以外に、観光や教育といった体験の場でも必ずどこかで物理的なコミュニケーションは起こります。しかし、「接触」に関するデータはまだどの国も十分に持っておらず、もし、ものづくりに強い日本がこの「接触」データをいち早く手にすることができれば経済的に大きな強みとなるでしょう。現在、この提言が認められ内閣府のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)に採択されて、「デジタルハプティクス」プロジェクトを進行しています。

人体の可能性を拡げる技術開発

研究室では運動アシスト機器やAIによるトレーニングのコーチングなど、人の身体を拡張する技術も扱っています。人の身体に装着して身体能力を補助・強化するパワードスーツというものがあるのですが、運動アシスト機器はまさにそれです。ただ、私たちはこれまで思い描かれてきたロボットのようなものではなく、空気圧で伸び縮みする人工筋とゴムチューブを組み合わせ、服に縫い込むこともできるようなカジュアルなものを目指しています。というのも、パワードスーツは身近ではリ

ハビリテーション支援に利用されていますが、導入コストが高い上に硬く重いというデメリットがあるためです。もし、もっと気軽に利用できるようになれば、例えば膝を痛めている人が外出時に着用したり、登山をしたい人が杖代わりに着用したりといったように、日常生活をサポートし、楽しみを広げることに繋がります。また、スポーツをする際に着用すれば運動能力アップに繋がるなど幅広い用途が考えられます。元々、人工筋は工場での腰痛予防のために作られたものですが、技術の別の応用先を考えた提案・開発をしています。

AIによるトレーニングのコーチングは、イメージとしてはテレビ画面を見ながら運動していくゲームのようなものですが、私たちはスマートフォンで自身を撮影してリアルタイムでAIからコーチングが受けられるアプリケーションを目指しました。ゲームとの違いはパーソナライズ性です。例えば医療現場においてリハビリテーション目的でこれを使用する際、患者さんは一般の人と同じ動きができない場合もあるでしょう。医療者は患者さんのADL(日常生活動作)を日々評価し、状態に合わせた適切な治療を行わなければなりません。私たちが作成したアプリケーションでは簡単な

体操をしてもらうだけでADLの推定値を出すことができるため、患者さんは家にいながらリハビリテーションができ、医療者もその進行状況がわかるというメリットがあります。また、前述したパワードスーツは負担を軽くするだけでなく負荷をかけることもできるため、AIによるコーチングと合わせてその人専用のトレーニングメニューを提案できないかと検討中です。

学生の意欲に応える環境づくりを

ご紹介してきた通り、ここはどちらかと言えば社会実装志向型の研究室です。多くのテーマを共同研究先と進めており、具体的なニーズを聞きつつそれを解決するために必要な技術開発や、既にある技術の応用方法について提案することが主となっています。私自身、研究者というよりは開発者寄りのマインドが強く、常に「どうやったら今ある素晴らしい技術を使ってもらえるんだろう?」という視点を大切にしています。面白い研究成果や技術はこの世に数えきれないほどありますが、全てが社会で活かされているわけではありません。それらに目を向け、困りごとをいかに解決できるかを考えていると、幸運なことにそれを実際にやっ

てみたいという企業から声が掛かり、研究がさらに広がっていきました。
「夢源力共創研究所」をはじめ責任ある立場を任されていることもあり、最近は研究室のメンバーに気持ちよく研究してもらう環境づくりに力を入れています。特に、意欲のある人にはその気持ちに応えられるような環境を与えられるよう努めています。私自身、研究することの面白さに目覚めて研究者になったので、メンバーが楽しそうにしている姿を見ると嬉しいですし、自分の役割を果たせているという達成感を感じます。学生の就職先としてはメーカー系やソフトウェア系が多いですが、最近はベンチャー企業に就職する人や起業している人もおり、応援しています。  大学受験を考えている方の中には、今まさに自分のやりたいことを探している方もいるかもしれませんが、わからないことを調べて視野を広げておくのはとても大切なことです。そして、自分が何に興味があるか、何をやりたいかをぜひ言語化できるようになっておいてください。それだけで大学での学びの質やモチベーションが変わります。もちろん、入学後に研究を通してやりたいことを見つけることもできますが、そこに行くと自分がどうなるのかを想像して納得しておく必要があります。研究室について知りたい方は、お気軽にお訪ねください。


栗田 雄一 教授
YUICHI KURITA
人間システム拡張学研究室

2000年3月 大阪大学 基礎工学部 情報科学科 卒業
2002年3月 奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 博士前期課程情報システム学専攻 修了
2004年12月 奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 博士後期課程情報システム学専攻 修了
2005年1月 広島大学 大学院工学研究科 特任教員
2006年1月 ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校 客員准教授
2007年4月 奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 助教
2010年3月 ジョージア工科大学 客員研究員
2011年4月 広島大学 大学院工学研究院 准教授
2011年10月 科学技術振興機構 さきがけ研究員
2018年4月 広島大学 大学院工学研究科 教授
2020年4月 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 教授 


 


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