広島医療社会科学研究センターでは、2026年3月28日(土)13時30分から17時30分まで、「生殖補助医療技術をめぐる社会科学的課題」と題するシンポジウムを、広島大学の孫璐助教の総合司会により開催しました。本シンポジウムは、近年急速に進展する生殖補助医療技術をめぐり、倫理学・社会学・法学という異なる社会科学の視座から課題を検討し、学際的な議論を深めることを目的として企画されました。
当日は、開会にあたり、広島医療社会科学研究センター長吉中信人教授から挨拶があり、対面およびオンラインを併用したハイブリッド形式で実施されました。研究者、大学院生、医療・福祉関係者、一般から、オンライン参加を含めて約30名が参加しました。
プログラム概要
はじめに、広島大学特定教授の澤井努先生より、「生殖医療技術をめぐる倫理的課題」をテーマにご報告が行われました。生殖補助医療が個人の自己決定や幸福に資する一方で、生命の操作や親子関係の再編といった倫理的論点を不可避的に伴うことが指摘され、IVFやIVG等を巡る最先端技術の進歩と倫理的熟慮の関係についても、倫理学的・哲学的観点から重要な整理がなされました。
広島大学特定教授の澤井努先生
続いて、九州大学准教授の藤田智子先生からは、「生殖補助技術と家族/ジェンダーのあり方―オーストラリアを事例に―」と題する報告が行われました。オーストラリアにおける生殖補助医療をめぐる制度や実践を事例に、ドナーを知る権利をめぐるDCPの権利保護、家族の多様化やジェンダー規範の変容がどのように制度設計や社会的受容に影響しているのかなどが示され、フェミニズムの視点も交えながら、近代家族感の変遷ないし変容を、社会学的に深く検討されました。
九州大学准教授の藤田智子先生
最後に、広島大学教授の神野礼斉先生より、「生殖補助医療をめぐる法的諸問題」についてご報告がありました。現行法制度の下での生殖補助医療の位置づけ、親子関係の法的認定、当事者の権利保護のあり方などが論点として提示され、最新の判例動向を素材に、立法・解釈の課題が具体的に論じられました。
広島大学教授の神野礼斉先生
総合討論
各報告後および総合討論では、本センター副センター長の浅利宙教授の司会のもと、生殖補助医療をめぐる倫理・社会・法の相互関係について活発な質疑応答が行われました。「生殖」の意義を問う本質的な質問から、生命の誕生に伴う有性生殖と無性生殖の倫理的区別、技術の進展が既存の家族観や法制度に与える影響、当事者の自己決定と社会的制約のバランス、法的保護対象としての権利と利益の関係、近代家族間の相対化、生殖への圧力、金銭的対価の問題、国際比較の視点をどのように日本の制度設計に生かすかといった点など、様々な論点について、参加者を交えた学際的な議論が深まりました。
ディスカッションの様子:登壇者
ディスカッションの様子:全体
シンポジウムの最後には、共催の広島大学法学部副学部長の宮永文雄教授から閉会の挨拶をいただきました。生殖補助医療技術をめぐる課題は、特定の学問分野に閉じるものではなく、倫理学・社会学・法学が相互に連関しながら検討されるべきテーマであることが改めて確認されました。今後も広島医療社会科学研究センターでは、このような学際的対話の場を継続的に設け、医療と社会の関係を多角的に検討していく予定です。

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