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緋田 安希子 助教にインタビュー!

運動性細菌の走化性についての研究

化学物質を感知する細菌のセンサー

 私たち人間は美味しそうな匂いにつられて食べ物のあるところへ足を運んでしまう、ということがありますが、目に見えない小さな細菌も、自分たちの周囲にある化学物質を感知し、好きなものの方へと移動しています。このように細菌が好ましい物質に集まる反応を走化性といいます。彼らは、人間の嗅覚のような役割をもつ走化性センサーで化学物質をいわば「嗅ぎ分け」、糸状のべん毛を回転させることで移動します。
 私は複数の細菌の走化性について研究していますが、ここではその一例として青枯病菌の研究を紹介します。青枯病菌は土壌に生息し、トマトやナスなどの根の傷口から侵入して、枯らしてしまう病原菌です。その体には22種類もの走化性センサーが備わっています。その一つひとつがどのような物質に反応し、それによって青枯病菌がどのように植物へ近づき、感染に至るのか、を解き明かそうとしています。

 このテーマには学生時代から取り組んでおり、学部四年生のときには、22種類の走化性センサーの遺伝子を一つずつ壊すという、非常に地道な実験を行いました。その後、それぞれの遺伝子を破壊した細菌が、どのような化学物質に集まるかを調べました。例えば、ある遺伝子を壊した結果、アミノ酸に集まらなくなれば、壊した遺伝子はアミノ酸を嗅ぎ分けるためのものだったとわかります。さらに、その遺伝子を壊した細菌の植物への感染性を調べることで、その物質へ集まる行動が感染に重要であるかもわかります。このような解析によって、これまでに複数のセンサーについて感知する物質を突き止め、さらに、青枯病菌が植物の根から分泌されるリンゴ酸を感知して集まり、感染を成立させることを見出しました。

社会に役立てるための基礎研究を

 その性質を利用して、植物の周囲にリンゴ酸を散布することで走化性を撹乱し、青枯病菌の感染を抑えられる可能性を見出しました。このように、走化性について調べることは、細菌の行動原理を知るとともに、その行動を制御することにも繋がります。この考え方は農業に限らず、環境汚染や医療に関わる細菌にも応用でき、さまざまな分野へ広がる研究テーマだと感じています。
 青枯病菌の走化性センサーについては、まだ全てを解明したわけではなく、感染時の走化性行動の全貌を解明するには今後も地道に解析していく必要があります。最終的には社会に貢献できる結果を得ることが目標ですが、応用研究をするためには基礎研究が不可欠です。一見遠回りに見える研究も、ゆくゆくは社会を変えるような応用研究の土台になると信じて日々取り組んでいます。

考えることが研究の楽しさ

 思うような結果が得られないときには、その原因が何なのかを考えることが大切です。単なる操作ミスの場合もありますが、そこから新しい発見が生まれることもあります。実際に、前述した青枯病菌の実験中に、何も入れていないはずのガラス管に菌が少しだけ集まる現象がありました。その現象を精査した結果、ガラスから溶け出したホウ酸に菌が集まっていることがわかりました。ホウ酸は、ゴキブリ団子などに使われる殺虫剤として知られているため、菌を引き寄せる物質として働くとは思いもしませんでした。この発見は、青枯病菌の枠を超えた新たな植物感染機構の解明の起点となりました。これは大きな成果につながった例ですが、日々の研究でも、考えることから小さな発見や新たな気づきが生まれます。そこが研究の楽しいところだと思います。

 私自身がこうした楽しさを感じてきたからこそ、学生にも、自分で考えながら研究する楽しさを知ってほしいと思っています。ただ、考える材料となる知識がなければ、そもそも自分で考えることはできません。そのため、まずは研究背景や実験原理を理解できるよう、日常的に情報交換をしながら、各学生に合ったアドバイスやサポートをするよう心がけています。その上で、「自分で考える」ことの大切さを日頃から伝えています。

 そうは言うものの、私自身、最初から研究者を目指していたわけではありません。学部生の頃には周りに合わせて就職活動をしていたくらいですが、四年生で研究室に配属されると、研究が楽しくて、朝から夜まで実験ばかりするようになりました。当時はとにかく夢中で取り組んでいたのですが、細菌関係の研究者にその話をすると「学部四年生の一年間で22個も遺伝子を壊したの?」と未だに驚かれるくらいです。手を動かした分だけ結果が積み重なっていく達成感と、目に見えない生き物たちが実は何らかの目的を持って動いている」という面白さにのめり込んでいたのを今も覚えています。これが原点となり、その後も研究に没頭した結果、修士・博士と進学し、さらに運よく先生から助教の職にお声がけいただき、そのまま研究の道を歩んできました。
  受験を控えた方の中には、将来の夢を明確に思い描けず悩んでいる方もいると思います。私も高校生のころに明確な夢がなかった一人です。だからこそ、今感じている「楽しい」「面白い」という気持ちを大切にしてもいいのではないか、と思います。夢がないからといって焦る必要はありません。私の所属する工学部三類は、生物も化学も物理も幅広く学べます。理系科目全般が好きな方、どの分野も面白そうだと感じて選べない方は、まずはここに来てそれぞれを深く学び、それから進む方向を決めても遅くありません。そんな中で、もし生物工学が楽しければぜひ、この研究室の扉を叩いてください。工学部の中でも少しサイエンス寄りの研究に取り組めます。考えることを一緒に楽しみましょう。


緋田 安希子 助教
AKIKO HIDA
海洋生物工学研究室

2015年4月 日本学術振興会特別研究員DC1(広島大学)
2018年4月 広島大学大学院先端物質科学研究科 助教
2019年4月 広島大学大学院統合生命科学研究科 助教


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