第20回サイエンスカフェ「ヒッグス粒子ってなに?」質問回答集

いただいた質問票への回答をまとめました。専門的な質問が多いため、回答が難しくなっています。
ご容赦下さい。(2012年9月25日改定)
 

Q1 ヒッグス粒子は「質量」を与える粒子だと理解しました。水の「抵抗」のようなものという説明は無視してよいですか? 「質量」と「抵抗」は別物ですか?

A1 はい。「抵抗」という説明は直感的な理解のための例え話です。素粒子はヒッグス場(ヒッグス場についてはA4を参照ください)との相互作用によって質量を持もちますので、ヒッグス場から力を受けているのはあながち間違った言い方ではありません。ただ「ヒッグス場との相互作用(力)によって素粒子が質量を持つ」では説明になっていないので、「質量を持つと動きにくくなること」という質量の性質を元に、素粒子がヒッグス場から抵抗を受けるというイメージで説明しました。しかし質量を持つと、動きにくくなるとともに一旦動き出すと止まりにくくもなります。ですがこのことは「抵抗」では説明できません。例え話の限界です。

Q2 (アトラス実験のヒッグスの2光子崩壊の質量分布について)もっとシャープな出方はないですか?

A2 実験データの質量分布の幅は、測定器の性能によって決まります。ヒッグス粒子が2つの光子に崩壊する場合、その質量測定のシャープさは、光子のエネルギーと方向の決定精度から幅が決まっています。

Q3 ヒッグス粒子が“満たされる”というのはどのようなイメージなのでしょうか。

A3 “満たされる”という表現も直感的な例えに近いものです。正確には「真空中でヒッグス場の値が0でない有限な値を持つ(真空期待値といいます)」ということです。ヒッグス場というとイメージしにくいかも知れませんがが、代わりに電磁場を考えてみてください。通常の真空では電場の強さはゼロです。しかし、何らかの理由によって電場が定常的に0でない方が、エネルギーが低く安定な状況になったとしたら、真空(最もエネルギーの低い状態)は電場が有限な値をもった場合となります。実際の真空では電場でそのようなことは起こっていませんが、ヒッグス場ではその様な状況になっている、というのが現代素粒子物理の考え方です。しかし、なぜヒッグス場ではその様な状況になっているのか、その理由は分かっていません。ヒッグス場が素粒子に質量を与えることや、ヒッグス場、ヒッグス粒子について、高校生くらいの知識を前提にしたより詳しい説明を琉球大学の前野昌弘さんがされています。ご参考まで。
http://irobutsu.a.la9.jp/movingtext/HiggsHS/index.html

Q4 安定して存在しますか?(ヒッグス粒子→粒子とぶつかって他のもの→またぶつかって元に戻る、を繰り返しているのですか?)

A4 A3のように、場が有限な値を持っているところを粒子が走っているという状況ですので、ぶつかっているという描像ではありません。

Q5 加速器の中は何で満たされているのですか?

A5 加速器の中は(空気が無いと言う通常の意味での)超高真空状態に保ちます。

Q6 ヒッグス粒子の発見で今後分かるのではないかと期待されることは何ですか?

A6 素粒子の標準理論には暗黒物質が含まれていないことなど我々の世界を説明する理論として十分ではありません。また、その他にもいろいろ不備な点があります。それらを解決する新しい理論がいくつか提唱されています。そのすべては、ヒッグス粒子を含みますが、性質は微妙に違います。その違いを実験で見分けることによって、標準理論を超えた新しい素粒子理論を見つけることができます。

Q7 異次元はテーマではないのですか?

A7 重要なテーマの一つです。私たちの住んでいる空間がなぜ3次元(と時間が1次元)なのかは、分かっていません。最近では、比較的大きな異次元空間がある可能性や、私たちの3次元空間は10次元空間に浮かぶ膜(3次元の膜です)ではないかという理論も提唱されています。これらについてもヒッグス粒子の研究からなにかわかるかも知れません。

Q8 素粒子物理学はどのようなことに応用、活用されていますか?

A8 現在、私たちの生活を支えている技術は、100年前の素粒子物理学が元になっているといっても過言ではありません。一方百数十年前に電磁気学ができた頃「それが何の役にたつのか」と問われて、物理学者は「生まれたばかりの赤ん坊が何になるのか分かるはずがない」と答えたという話が残っています。その意味で、今の素粒子物理学の成果ももしかしたら将来直接人類の生活に役立つかも知れません。しかしそれは今の私たちには分かりません。一方で、素粒子実験から生まれた技術はいろいろなところで役立っています。インターネットのWWW(Web)は素粒子実験のデータを世界の研究者がうまく活用するためにCERNで生まれました。加速器も素粒子実験のために造られましたが、医療(がん治療)や工業に広く応用されています。測定器技術も高感度光センサー、高速データ処理技術など、我々の生活に役立つ場面に広く応用されています。

Q9 最終目標は超大統一理論ですか?

A9 私も含めて、素粒子物理学者の夢は、重力まで含めたすべての現象を統一的に説明できる、すべてを包括した理論(TOE=Theory Of Everything)です。またそれは宇宙がどうやって始まったのか、そして今後どうなるかが分かることでもあると思います。

Q10 素粒子とはなんですか?

A10 現在知られている、物質の構成要素の最小単位です。クォークやレプトンと呼ばれるものです。でも、将来もし、その下の階層が見つかればそれが素粒子ということになり、今素粒子であると思っているものがそうで無くなる可能性もあります。

Q11 日本でヒッグス粒子をつくることはできますか?

A11 国際リニアコライダーでは可能です。是非そうしたいと思います。応援していただけるとうれしいです。

Q12 ヒッグス粒子の崩壊は何種類ありますか?

A12 ヒッグス粒子はそれが質量を与える粒子に崩壊します。電子・陽電子、ミュー粒子・ミュー粒子、タウ粒子・反タウ粒子、クォーク・反クォーク(崩壊できるクォークは5種類)、W+・W-、Z・Zの10パターンです。これに加えて、光子と光子にも壊れますが、光子の質量は0なのでヒッグス粒子は直接壊れるのではなく、少し複雑な過程を経て壊れます。

Q13 ヒッグス粒子が人体に含まれる可能性はありますか?

A13 A3に書きましたが、真空にヒッグス粒子が満ちているのではありません。従って、人体中にヒッグス粒子がある、という言い方は正確ではありません。

Q14 素粒子の範疇に入るのはどのようなものですか?

A14 A10をご覧ください。

Q15 ヒッグス粒子はパッとできて(真空に)広がって行ったのですか?

A15 A3のように真空に満ちたのはヒッグス場です。ではヒッグス場はあるとき一斉に宇宙全体に満ちた(正確にはヒッグス場の真空期待値が0でない有限な値となった)のでしょうか? その詳しいことも分かっていませんが、全宇宙に一斉に満ちたのか、それとも少しずつ満ちたのか? ということは宇宙の進化に大きな影響を及ぼすと考えられます。とても重要な研究課題です。

Q16 もっと大きな加速器はつくらないのですか?

A16 今はLHCのあとに、電子・陽電子リニアコライダーを造るのがよいと考えられます。それによる研究の結果によって次の大きな加速器を造るべきか、造るとしたらどのくらいの大きさかを判断することになると思います。

Q17 これから先、宇宙はどうなるのですか?

A17 分かっていません。大きく分けて3つが考えられます。
1)暗黒エネルギーの密度が今と変わらずに加速的な膨張をつづける。2)暗黒エネルギーが減ってしまい、重力による引力がまさって宇宙は収縮を始める。これがつづくと、宇宙は将来再び1点に収縮してしまいます。「ビッグクランチ」と呼ばれています。3)暗黒エネルギーの量がふえてさらに急激膨張する。これは「ビッグリップ」と呼ばれるシナリオです。(リップ=rip 引き裂く) より詳しい解説はこちらをどうぞ。
http://www.rikanenpyo.jp/FAQ/tenmon/faq_ten_006.html

Q18 ヒッグス粒子は宇宙のあらゆる場所にあるのでしょうか? ヒッグス粒子が無いような場所があったり、創り出したりできるものなのでしょうか?

A18 A3、A15をご参照ください。

Q19 ヒッグス粒子が質量をつくるのにヒッグス粒子自体に質量があるのでしょうか?

A19 ヒッグス粒子自体も質量をもちます。何故、どのようにして観測された質量になったのかはヒッグスが真空に満ちた機構と密接に結びついており、今後の研究課題です。

Q20 ヒッグス粒子のあるなし(重さのあるなし)で何がどのように変わるのですか?

A20 質量が無い粒子は、すべて光の速さで飛び交います。それらはぶつかり合うことはあっても決して結びつくことは有りません。私たちの身の回りはいろいろな粒子が結びついてできていますが、その様な秩序をもたらしたのは、ヒッグス粒子だと言えます。

Q21 物質からエネルギーがでますか? 物質はエネルギーの爆発でできますか? 凝縮によってできますか?

A21 アインシュタイン博士の相対性理論によると、質量とエネルギーはE=mc2と言う関係で結びついています。これは質量がエネルギーに変わることができることを意味しています。原子力はその例です。また、エネルギーの塊である光と光がぶつかって物質(電子)ができることも実験で確かめられています。凝縮というのは例えば、水蒸気が水に変化するような状況を指します。これは相転移と呼ばれる現象です。相転移のときもエネルギーがでることがありますが、質量のエネルギーとは違う考え方です。

Q22 スーパーカミオカンデと加速器の測定するものがごちゃごちゃして混乱しています。(素粒子と宇宙からの粒子?)

A22 スーパーカミオカンデは岐阜県の神岡鉱山の跡地にある、大きな水タンクの測定器です。これはニュートリノという素粒子を測定するものです。ニュートリノは地球でも簡単にすり抜けるので測定するのが難しいのですが、大きな水タンクを準備するとたまに、水にぶつかって光を出します。スーパーカミオカンデは水5万トンの巨大水槽です。ニュートリノは造られた後、飛ぶ間に他の種類に変化するという不思議な性質があります。スーパーカミオンデは、そのことを太陽からくるニュートリノと、加速器で造られたニュートリノを使って測定しています。

Q23 宇宙にヒッグス粒子をつくったエネルギーは? 光子とは何? 光とヒッグス粒子の関係はありますか?

A23 A3にあるように、ヒッグス場が満ちているというのはより正しい言い方です。しかし、ヒッグス場が宇宙に満ちた理由は分かっていません。我々の宇宙がどのようにして今に至ったか、という意味で大変重要な、しかし未解決の問題です。光子というのは光の粒です。ヒッグス粒子とも深い関係があります。光子もヒッグス場が宇宙に満ちたことによって生まれたと考えられています。

Q24 筑波にある加速器とセルンの違いは大きさ(周長)ですか? 測定できるものは違いますか? 筑波ではヒッグス級の粒子の測定は難しいですか? 加速器が巨大になる理由はぶつけるエネルギーが高いとクォークの軌跡が増えるからですか? 筑波では何を測定していますか?

A24 つくばの高エネルギー加速器研究機構にある加速器は、周長が約3kmです。セルンのLHCは、陽子と陽子を衝突させていますが、つくばにある加速器は電子と陽電子を衝突させます。KEKBという加速器でしたが、現在性能向上のため改造中です。スーパーKEKBにうまれかわります。LHCは陽子をできるだけ高いエネルギーでぶつけて、これまでは観測できなかった未知の現象を探します。つくばの加速器はエネルギーは低いのですが、衝突の頻度をできるだけ高くして滅多に起こらない現象を測定します。こちらもその測定によってこれまでは知られていなかった未知の現象を探します。つくばの加速器ではヒッグス粒子を直接見つけることはできませんが、精密な測定によってヒッグス粒子の影響を見ることができます。それによってある種のヒッグス粒子(ヒッグス粒子は、一つとは限りません)の性質はLHCより感度良く測定できる可能性があります。加速器が大きくなるのは高いエネルギーまで粒子を加速したいからです。小さい物を見るためには、高いエネルギーが必要と言う物理の法則があります。その意味では、電子を加速する加速器は、巨大な電子顕微鏡と言えます。

Q25 説明を聞くと「ヒッグス粒子はどこからともなく現れた」みたいな話に思えるのですが、ヒッグス粒子は何からできたのですか? それとも何もないところから出てきたのですか? なぜ宇宙はヒッグス粒子で満ちるようになったのか、よくわかりません。

A25 A3のようにヒッグス粒子ではなくて、ヒッグス場が宇宙に満ちたというのがより正確です。しかしなぜヒッグス場が宇宙に満ちたかはわかっていません。(いろいろな説はありますが…)その理由を解明することは、私たちの宇宙の進化そのものに関わる重要な研究課題です。

Q26   真空に満ちているヒッグス粒子は運動していない(静止している)のですか? コライダーでエネルギーを与えて運動すると、はじめて検出できるということですか?

A26 真空に満ちているヒッグス場は運動していません。エネルギーを与えることによってはじめて粒子となって現れます。

Q27 ヒッグス粒子は宇宙の膨張に伴って薄まらないのですか? ヒッグス粒子の痕跡というのはどのように判断しますか? 他の反応の同じ生成物とどう見分けますか?(例えばヒッグス→2γとπ°→2γの反応の見分け方)

A27 ヒッグス場の大きさ(振幅)が未来永劫変わらないかどうか分かりませんが、今のところその必然性はないように思われます。(もちろん宇宙初期にはヒッグス場は宇宙に満ちていなかったのですから、過去には変化したわけです) π°の質量はヒッグス粒子の約千分の1ですので質量で見分けがつきます。

Q28 4次の多項式とは何ですか?

A28 y=a+bx+cxx+dxxx+exxxx で表される式です。(これ以上説明できません。済みません)

Q29 出てきたグラフの縦軸と横軸の意味を教えてください。

A29 横軸は測定された二つの光子のエネルギーとそれが飛んで行く方向から計算した質量、それが起こった回数です。特定の質量のものができていると、その質量のところの頻度が増えます。


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