本研究成果のポイント
〇 一様な媒質内にある異物(空洞、介在物)を波の反射を利用して探査する逆問題に対して、囲い込み法と呼ばれる数学的な手法により理論解析を行った。
〇 先行研究では、空洞や介在物が複数個あったとしても種類は一種類のみという限定された場合しか扱っていなかった。本研究では、複数の種類の空洞や介在物が混在している「混在型媒質」における逆問題を考察した。[Fig.1]
〇 媒質内の異物は指示関数の符号によって2種類に分けられる。指示関数を異なる符号にするような空洞が混在する場合に、空洞の位置、形状、種類と指示関数の主要項との関係を明らかにした。
概 要
入射波と反射波の組から成る観測データを利用して異物推定を行うという問題は逆問題の中の「再構成」と呼ばれるものになる。逆問題は実社会において非破壊検査として頻繁に扱われており、実用的な研究と数学的観点からの理論的考察の両方が求められている。この問題を微分方程式論における弱微分による定式化を利用した「囲い込み法」(1999年に池畠優氏(現・本学名誉教授)考案)を用いて考察した。
逆問題においては、観測データから計算される「指示関数」と呼ばれる実数値関数が自然に導入される。囲い込み法における指示関数の基本的な性質として、観測地点と異物の各点を結ぶ線分に対する最短の長さを取り出せることが分かっている。また、指示関数は空洞や介在物の種類によりプラスになったりマイナスになったりする。これらの性質を利用すれば、観測地点から異物までの最短距離とその異物の符号による種類分けが得られる。一方で、複数種類の空洞や介在物が混在すれば、符号の相殺が起きて情報が得られない可能性もある。そのため、先行研究では空洞や介在物は複数個あっても一種類のみしかないということが先見情報として仮定されていた。この研究では上記の先見情報がない場合について調べ、次を得た。
(1) 指示関数を正(負)にする異物を正(負)の異物と呼ぶ。まず、観測地点から各異物までの最短距離が一致しないことがあらかじめ分かっている場合について検討した。その結果、位置と符号に関する情報は、単一の種類の標的のみを考慮した従来の研究で用いられたのと同じ解析手法を用いて得られることを示した。(論文情報[1])
(2) 正の異物と負の異物が観測地から同じ最短距離にあるときは、[1]の方法では対処できない。異物が空洞のみの場合は、漸近解を利用してこの問題に応じた近似解を構成することにより、指示関数の漸近挙動における主要項の形を完全に決定できた(論文情報[2])。Dirichlet境界条件をもつ空洞は負の異物で、Neumann境界条件を持つ空洞は正の異物であることが知られている。一例としてこれらが観測点から同じ最短距離にある場合、最短距離を与える空洞境界の点における曲率が小さい方が指示関数の挙動を決めていることが明らかになった。[Fig.2]
[Fig.1]
[Fig.2]
【論文情報】
[1] Kawashita, M. and Kawashita, W., Inverse problems of the wave equation for media with mixed but separated heterogeneous parts, Math. Meth. Appl. Sci. (2025) 48 No. 4, 4144-4172 (https://doi.org/10.1002/mma.10537).
[2] Kawashita, M. and Kawashita, W., Asymptotic behavior of the indicator function in the inverse problem of the wave equation for media with multiple types of cavities, Phys. Scr., (2024) 99 No.11, https://doi.org/10.1088/1402-4896/ad6fe2

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