三浦 弘之 准教授にインタビュー!

三浦 弘之 准教授にインタビュー

高精度な地震の強震動予測手法と、事後の被害判定システム技術の開発。

地盤ごとに異なる震動の特徴を予測し、防災に役立てる。

三浦 弘之 准教授

 現在の技術でも大地震がいつ起きるかを正確に予測することは困難です。私は地震が避けられないものであるという前提のもと、構造物に対する被害を小さくすることを目標に研究を行っています。地震の揺れ方は土地の地盤の条件で大きく変化するため、安全な街作りのためにはまず、その土地がどのような揺れ方をするのか特徴を知る必要があります。そこで、計測器で土地の微動を計り、解析して大地震が起きた際の揺れ方の予測に役立てています。
 

 地面は人の移動などの人間活動、風、波浪などの影響を受け、わずかではありますが普段から振動しています。震源にもよりますが、大地震の際にはその揺れが増幅して現れるというイメージです。例えば広島大学の敷地内だと、博物館や工学部棟が建つあたりは比較的揺れに強いですが、盛り土をしているあたりは揺れの影響を受けやすくなっており、実際に地震が起きた際には震度も異なると予想されます。使用している計測器は髪の毛一本分の微細な振動も感知する性能があり、これを様々な場所に持ち運んでシミュレーションを行っています。過去の地震については気象庁や防災化学研究所のデータを利用しつつ独自の観測も行います。

こうして得たデータを解析して予測の精度を高めながら、将来的にはハザードマップの強化や建物の安全基準への反映といった防災に役立てられればと考えています。特に建築物は揺れの周期の影響を受けやすいため、土地ごとの揺れの特徴に合わせた耐震設計が必要なのではと感じています。日本では大地震の被害を受け、これまでに何度か建築基準法が改正されてきました。例えば免震の建物には基礎部にゴムを使った免震装置をつけ、地震の振動を直接建物に伝えないことでゆっくりとした揺れに抑えます。しかし地震の際にゆっくりとした周期で揺れる土地には別のアプローチも必要です。土地の特徴にあった設計方法、地震対策を取ることで、本当の意味で防災に繋がるはずです。

計測の様子

計測の様子

空から被災状況を判断するシステムを開発。

 大地震を見据えた防災に関わる研究の他に、災害後の被災状況を迅速に把握するための技術開発も行っています。これは人工衛星や航空写真を活用したリモートセンシング技術と地理情報システムを用い、AIが自動的に建物の倒壊や土砂崩れの状況などを判定することができるシステムです。例えば2024年1月の能登半島地震では土砂崩れや陥没で道が塞がれ、孤立した地域への救助活動が遅れるといった事態が起きました。そうした際にも空から得た情報を基にした具体的な被害状況を自治体へ速やかに提供でき、事後対応に活かすことができます。この技術は遠く離れた海外の災害現場でも役立てることができ、実際に2023年にトルコで起きた地震について、現地の研究者へデータを提供したこともあります。地震の前後が比較できるような土地の画像は残っていないことも多く、災害後の画像だけで判断できるようにプログラムしています。この精度を高めるため建物被害について過去の災害データを学習させたり、画像データをマッチングさせてAIモデルを作ったりしています。空から一瞬で現場の状況がわかることが理想ですが、現状は人工衛星や航空機でデータを集めることに時間がかかるという課題があり、改善に向けて研究を進めています。強震動予測により建築物倒壊の可能性が高いエリアを把握しておけば、事後にそのエリアを重点的に確認するといったこともでき、さらに迅速な対応が可能になるかもしれません。

 一般的に、震災の被害を最小限に抑えるためには自助・共助・公助それぞれが役割を果たすことが大切だとされており、実際に災害時に発揮される割合としては、自助7割、共助2割、公助1割とされています。いざ災害が発生した際に適切な行動を取ることはもちろん、事前のハザードマップの利用や住まいへの耐震補強なども自分で意識的に行うことで危険から身を守ることに繋がります。自然災害の多い日本に住むからこそ、日頃から防災意識を高く持ちたいですね。

計測に使用するドローンと微動計

計測に使用するドローンと微動計

防災の必要のない安全・安心な社会を目指して。

 私の祖父母は神戸に住んでおり、阪神・淡路大震災を経験しました。当時受験生だった私は地震から数ヶ月後に現地を訪ね、建築物がまだ倒壊したままの街の様子を見て、こんなに簡単に建物が壊れてしまうのかと衝撃を受けたことを覚えています。大学に入学した当初は建築に興味があったのですが、得意だった数学・物理を使う建築構造の分野に進むことを決め、地震そのものへと研究対象が移っていきました。研究中は思考するだけだと実現可能かどうかなどわからないことが多く、手を動かしてやってみることで足りないものを発見することを心がけています。また、ずっと同じテーマで研究を続けていると似たようなことを繰り返しがちになるため、少しでも新しい分野や技術に触れることも意識しています。

第21回(令和4年度) 広島大学長表彰

 研究室にいる学生は、建築の中でもインフラ関係に興味のある人が多い印象です。彼らから得られる新しい知識や技術からも良い刺激をもらっています。もし私の研究にゴールがあるとするなら、研究する必要がない=防災の必要のない社会になることだと感じています。人にとって災害はネガティブな現象なので、ゼロにするのが理想的と言えるでしょう。地震大国日本ではまだ対応・対策するべき課題が多くあり研究テーマは尽きません。私たちが今後安心して暮らすためには、いつ地震が起きても被害を最小限に抑えられる都市・社会の構築を目指し、少しずつでも地震に強い環境へと変えていくことです。

 研究室ではこれまでにも、東広島で豪雨災害があった際の情報提供をしたり、広島県が公開している防災VRの開発に協力したりと様々なことに取り組んできました。安全・安心な社会づくりに関心がある方は、ぜひこの研究室で建築、防災について学んで新しい技術を見つけてください。

三浦 弘之 准教授
MIURA HIROYUKI
建築防災学研究室

2004年3月   東京工業大学総合理工学研究科人間環境システム専攻博士課程修了    博士(工学)
2004年4月   東京工業大学都市地震工学センター 21世紀COE研究員(PD)
2007年10月 東京工業大学大学院総合理工学研究科人間環境システム専攻 助教
2012年10月 広島大学大学院工学研究科 准教授
2020年4月   広島大学大学院先進理工系科学研究科 准教授
 


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