片桐 清文教授にインタビュー!

片桐 清文教授にインタビュー!

無機と有機の素材をアイデアで組み合わせて新機能材料を開発

既存のものをうまく組み合わせることで、まったく新しい機能を生み出す。

片桐 清文教授

 「無機材料化学研究室」に所属していますが、私自身は、必ずしも無機物質に限定せず、有機物質や生体由来の物質も扱い、さまざまなアイデアでそれらを組み合わせることによって、新たなハイブリッド材料を生み出そうとしています。スタイルとしては、まったく新しい物質を一からつくり出すということよりも、既存の物質や材料を組み合わせることによって、新しい機能材料をつくり出すということに力をいれています。単独の物質では機能は限られていますが、いくつかの物質を組み合わせることで新たな機能、あるいはより高度な機能を見出せるのではないかというのが私の研究スタンスと言えるでしょう。
 そのために必要なのは、限定された専門分野にこだわらないことと、視野を広く持つということ。そうした意味で、共同研究というのは大変重要です。

やはり、ひとりでできることには限界があり、共同研究者の専門と自分の専門をいかにミックスするかで、まったく違う方向性を見出すというのが材料化学では可能になります。そうしたミックスを目指して私は、できるだけ異分野の知り合いをつくるために、さまざまな学会にも参加しています。いろんな会場に行って、どういうものが自分に使えるかという視点で見るというのが重要かもしれません。
 私の研究はこのように、扱う研究対象のみならず研究者そのものも、単独ではなく、複数の組み合わせで成り立っているというのが特徴的です。
 では、研究のなかからいくつかご紹介しましょう。
 ひとつは、非常に巧みな機能を出している天然のものに倣った「泳動電着法による構造色コーティング」という研究です。例えば、オパールという宝石は、さまざまな色がキラキラと見えますが、その構造を見てみると、サイズの揃った粒子が並んでいて、光が干渉することでそのような色が見えている。これは色素とはまったく異なる発色原理によるもので構造色と呼ばれています。そして、人工的に合成した粒子を並べても、実は構造色が見えるんです。これは、名古屋大学の竹岡先生と共同研究をさせていただいているものですが、白いシリカという物質の粒子と、炭素からなる黒い粒子を混ぜて集積した膜にすると、そのシリカ粒子のサイズによって、緑に見えたり赤に見えたりするというもの。

 一般的に着色に使われている塗料は有機色素や無機顔料ですが、色素は日光などで色褪せするため、長期使用には耐えませんし、顔料は有害な鉛を含んでいるものも多く、解決すべき課題があります。しかし、この構造色は、構造が壊れないかぎり退色しません。重金属も含まれないため、もしかしたら、環境問題の解決にも貢献できるかもしれません。この構造色自体は新しいアイデアではありませんが、黒い物質を入れることで鮮やかな構造色が見えるようになるというのは、共同研究先の竹岡先生のアイデアであり、これに私が学生時代に卒業研究で行っていた泳動電着法による粒子堆積膜作製に関する研究の経験を組み合わせることで塗装コーティングにすることが実現した研究例です。

片桐教授・研究

 いまはこの塗膜の粒子集積膜の構造が壊れることのないように、膜の強度を高めるために粒子どうしがうまく接着するような技術の導入などができないか、研究を重ねているところです。

研究の種をたくさん撒きたい。アイデアが生かせる研究でオリジナリティを発揮。

 もうひとつ例をご紹介します。「磁場応答放出機能を有するスマートカプセル」というもので、いわゆるカプセルに薬を入れて、目的の患部にカプセルが到達してから薬を出すというようなドラッグデリバリーシステムの研究です。これに使われているひとつひとつのもの、リポソームとよばれる人工細胞膜や温度応答性高分子、磁性ナノ粒子などそれぞれは、すべてよく知られた材料です。リポソームはすでに抗がん剤のカプセルとして利用されており、磁性ナノ粒子に磁場を当てると発熱することについても多くの研究がなされています。そのカプセルとなるリポソームの膜中に温度応答性高分子と磁性ナノ粒子を組み込む。これに磁場を印加すれば、膜中の磁性ナノ粒子が発熱しますが、その熱によって温度応答性高分子の構造が変化して、リポソームの膜に薬が通り抜ける「穴」をあけ、膜に内包されていた薬が外に出てくる。磁場に応答して、カプセルの中にあるものが出る機能は、用いた材料それぞれ単独では得られず、組み合わせることによって初めて実現するものです。このように、既存のものでもうまく組み合わせてやることで、新しい、より高度な機能を生み出すことが可能になるわけです。

片桐教授・研究

 こうした研究を通して私が目指しているのは、必ずしも短期間に何かで実用化されるといったことではなく、間接的でもいいので、どこかでそうしたアイデアが活かされること。5年後、10年後、あるいは20年後、30年後かもしれないけれど、とある技術の発端はこのアイデアにあったというくらいでもいいと考えています。なによりやっていきたいのは、たくさんの種を撒いてみたいということ。もしかしたら、100年後かもしれませんが、どこかで実になればそれでいいかなという気はしています。

 また、自分たちの手で何かを生み出せるところが化学のおもしろさです。なかでも材料化学は、いわゆる有機合成的な手法や、無機のものをつくる合成などを行った後、いろいろなテクニックを使ってそれらを組み合わせる、材料合成ができるというのがおもしろいところであり、強みであると思います。さらにこういう研究でおもしろいのは、セレンディピティと呼ばれる、思わぬものを偶然発見することですね。そういうこともたまにありますし、それに気づけるということもまた重要なことだと思います。そういった発見をするためにはやはり、視野を広く持っておく必要がありますし、特に自分でアイデアを出すために、常にアンテナを張って研究のためのヒントを見つけ出すことも非常に大切。それは研究のおもしろさにもつながることだと思っています。
 今後の研究では、自分が興味を持ったところで、ひとがまだ手をつけてないところ、自分のアイデアが生かせるところを探りながら挑んでいき、オリジナリティを発揮していきたいと考えています。

一緒に楽しく研究を。失敗ばかりの研究におもしろさを見出してハッピーに!

 研究室の学生さんたちも、私の大切な共同研究者です。彼らは学生といえども、一研究者であることにかわりはありません。研究者という観点では教員とも対等な立場といえるので、そういった意味では、しっかり責任を持ってやって欲しいと思っています。また、なによりも楽しんで研究をしてくれる学生さんであって欲しいと期待しています。

 研究というのは、実際のところ、10のうち8か9くらいは失敗するものです。それだけに、楽しい、おもしろいと思ってやっていなければ、かなり苦痛であるに違いありません。しかもそれが指示通りにやったのに、失敗したというのであれば、相当つまらないでしょう。そこで、学生さんたちには、何故失敗したのかも含めて自分でしっかり考えてもらわなければいけないと考えています。研究をおもしろく感じることができていないひとは、どういうアプローチをしたらおもしろくなるのかを考えてみて欲しい。研究の醍醐味というのを知ってもらうためには、そういう姿勢が必要なのではないかと私は思っています。

片桐教授・学生と

 私自身、大学院での研究は、その大学の1期生であったこともあって、自身のアイデアで研究テーマを指導教員に提案し、それを実施することを認めていただいて、自由に研究させてもらえました。この経験が、その後の研究者人生に影響を与えたのは間違いないと思います。そうした経験からも学生の皆さんには、自ら考え、アイデアを出しながら研究に向き合うことで、研究のおもしろさをぜひ味わってもらいたいと思います。
 最後に、今後、うちの研究室や工学部、工学研究科を目指す皆さんにも、ひとことメッセージを送らせてください。
 みなさんは、「いまは将来のために」と頑張ってはいても、「いまを楽しむ」ということを少し忘れがちになってはいないでしょうか。せっかく大学に入学してきたならば、将来のためばかりでなく、いまやっていることが自分にとって生きがいになっているかどうかということを考えてみましょう。高校時代は大学受験のために、大学に入ったら、今度は就職のために?それは必ずしもハッピーな学生生活ではないのではないかという気がします。楽しむためには、先にも述べたように、自ら考えること。一緒に、楽しく研究をしましょう!!

片桐教授・研究室のみなさんと

 

 

 

片桐 清文 教授
Kiyofumi Katagiri
無機材料化学研究室

1998年3月 大阪府立大学 工学部機能物質科学科卒業
2000年3月 奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学研究科  博士前期課程(物質創成科学専攻)修了
2002年9月 奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学研究科 博士後期課程(物質創成科学専攻)修了
2003年2月10日~2005年2月9日 オーストラリア連邦 メルボルン大学 Research Fellow
2005年2月10日~2006年3月31日 豊橋技術科学大学 工学部 博士研究員
(2004年4月1日~2006年3月31日 日本学術振興会 特別研究員)
2006年4月1日~2007年3月31日 名古屋大学 大学院工学研究科 助手
2007年4月1日~2011年12月31日 名古屋大学 大学院工学研究科 助教
2012年1月1日~2014年3月31日 広島大学 大学院工学研究院 助教
2014年4月1日~2017年3月31日 広島大学 大学院工学研究院 准教授
2014年8月1日~2016年7月31日 文部科学省 研究振興局 学術調査官(併任)
2017年4月1日~ 2019年3月31日 広島大学 大学院工学研究科 准教授
2019年4月1日~ 広島大学 大学院工学研究科 教授
2020年4月1日~ 広島大学学術院(先進理工系科学研究科) 教授


up