山崎 広太郎 助教にインタビュー!

核融合発電やその他プラズマ技術に応用するためのプラズマの研究。

新時代のエネルギー創出を目指す核融合発電。

 私たちの身の回りにはプラズマ技術が応用された製品も多く、プラズマという言葉も広く知られるようになってきました。プラズマは物体の第4の状態と言われており、分子を気体の状態からさらに加熱し、原子から電荷さえもバラバラになったものを言います。非常に反応を起こしやすい状態で、大量の熱を持ちながら様々な波長の光を出しているのが特徴です。私の研究ではプラズマを使った核融合発電・応用技術の実現に向け、プラズマ現象を解明するための計測や解析などを行っています。
 

 まずは各国が実現に向けて取り組んでいる、核融合発電についてお話ししましょう。核融合発電は原子核同士が融合する際に出る非常に大きなエネルギーを利用した発電方法で、水素を原料としています。この発電方法のメリットとしては、温暖化ガスや高レベルな放射線が出ないこと、水素という入手しやすい原料を使うため地政学的リスクが低いことに加え、爆発などの恐れがある暴走が起きないことが挙げられます。これは高温状態を維持することで初めて反応が促されるプラズマの特性によるもので、少しでも温度が下がるとエネルギーを生み出すことができません。核分裂反応を利用した現在の原子力発電はこの逆で、重い原子が分裂する際に出るエネルギーを利用しており、人間が制御しなければ反応を続けて暴走してしまいます。安全で環境にも優しい発電方法の実用化が世界でも急がれており、核融合発電において日本は欧州(EU)、アメリカ、ロシア、中国、韓国、インドと協力して国際熱融合実験炉(ITER)の立ち上げを進めています。
 現在課題となっているのはプラズマが反応できる高温状態(1億度程度)を保つこと、そして高温のプラズマを受け止める炉構造や制御手法の開発です。プラズマを高温に保つための制御手法や、高温のプラズマに長時間耐えられる素材の開発などが今後注目される研究対象となるでしょう。今年ヨーロッパの装置(JET)で行われた実験では、核融合発電に使う燃料を用いて69 MJの核融合エネルギーを生成することに成功しています。まだ石炭2 kg程度のエネルギーにしか達していませんが、現在のエネルギー問題の多くを解決できる発電方法として実用化が待望される技術です。

様々な分野で応用するためにプラズマ現象を解き明かす。

カスケードアーク放電プラズマ装置TPDの全体図。高密度プラズマの応用技術であるプラズマウィンドウの研究や高密度プラズマ中で生じる現象の解明を行っている。

 前述した核融合発電は電荷を持つプラズマが磁場に巻きつく性質を利用した、磁場閉じ込め方式で行われます。研究ではトモグラフィ計測を行い二次元・三次元的にプラズマの流れの見える化に挑戦しました。例えるならプラズマにCTスキャンをかけるイメージで、プラズマ乱流の3次元構造データを取ることができました。炉内ではプラズマ中心部が最も高温となるため温度が低い外側へ向けて乱流が熱を吐き出します。熱が逃げるとプラズマが冷えて核融合反応が起こりにくくなるので、乱流の抑制は核融合発電実現に向けて非常に重要な課題です。トモグラフィ計測を用いることでプラズマ乱流の未解明な性質を明らかにしたり、乱流を制御する方法を考えたいと思っています。

 また、核融合発電とは別に高密度プラズマの開発も行っており、溶接などに用いる電子・イオンビームの活用を助ける研究も進めています。これらのビームは真空でしか使えず、現在は真空容器に入るサイズの物しか対応できません。これを大気圧中でも使えるようにするのがプラズマウィンドウと呼ばれる応用技術です。高温高密度のプラズマは、窓のように大気圧と真空を隔てることができます。

ガラスや金属などを用いずに大気圧と真空の圧力差を維持できるため、ビームを真空からプラズマウィンドウ、そして大気中へとそのまま通過させ溶接に用いることができます。実用化のためには、これまで以上に高い密度のプラズマ、言うなればより強力な窓を長時間生成する装置が必要です。そこで円筒状の電極、ホローカソードを開発し、改めて検証を行いました。以前は小さい針状電極を用いており熱負荷による損耗が問題視されていましたが、表面積の広い円筒電極を用いることで損耗が軽減され、高密度プラズマを安定的に生成することができました。

ヘリウムプラズマを生成している様子。 1-2万度程度の温度に達するプラズマが生成されている。

予想通りにいかないプラズマと向き合う奥深さ。

 私がプラズマについて知ったのは高校生の頃でした。当時は地球温暖化といった環境問題、エネルギー危機意識が社会的に高まっており、クリーンなエネルギーにはどんなものがあるかと調べる中で核融合発電という方法を知りました。その頃からプラズマの可能性や面白さに惹かれて大学で学びたいと思うようになり、研究者を目指すようになりました。プラズマの魅力は、様々な現象が同時に起きている点です。熱だけでなく電場、磁場、圧力といった力の影響を受けて起きる不思議な現象を相手にしているので、研究が予想通りに進まないこともままあります。

どうしても既存の研究や自分の理解の範疇で物事を考えてしまいがちですが、先入観に囚われず、そのとき目にしている対象にしっかり向き合うことを心がけています。自分の想像通りに計測が上手くいってももちろん嬉しいですし、新しい発見があると想像力を掻き立てられて面白さを感じます。新しい一面や深い部分を知るたびに親近感が湧いてくるのですが、謎もまだまだたくさん残っています。今後はまだ解明が進んでいないプラズマ内に存在する中性粒子の役割を調べてみたいと思案しています。

 ちなみに、研究室にある実験装置は一人では動かせないので、学生と一緒にデータを取っています。この研究室に来る学生の就職先としては、最近は半導体関係が増えてきています。半導体製造時のエッチングやパターンを刻むための光源などにプラズマの技術が関係しており、そういったことに興味がある人も歓迎します。身の回りに存在する物質の中で最も熱いプラズマは、研究対象としてもアツくて不思議に満ちています。きっと面白いことを見つけられるはずなので、刺激が欲しい方はぜひ研究室を訪ねてください。

山崎 広太郎 助教
YAMASAKI KOTARO
プラズマ基礎科学研究室

2016年3月   東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻博士後期課程 修了    博士(工学)
2016年4月   九州大学応用力学研究所 学術研究員
2020年12月    広島大学大学院先進理工系科学研究科 機械工学プログラム 助教

 


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