林田 智弘 准教授にインタビュー!

林田 智弘准教授にインタビュー!

データ解析や情報の最適化により合理的な意思決定手法を開発する研究。

膨大なデータと揺るがない価値観が意思決定の土台に。

林田先生

 私の研究のキーワードはデータ解析・シミュレーション・最適化・意思決定です。合理的な意思決定を行うことを目的とした、大規模で複雑な状況・状態が研究対象となります。例えば、企業の製品製造を例に考えてみましょう。収益を最大化させるだけでなく、環境負荷を最小化させることも考えなければならない場合、経営者はこれらの目標のバランスを取りながら最善の選択をする必要があります。こうした複雑な状況下では、蓄積されたデータを整理し、有益な情報を抽出・最適化することが不可欠です。この研究ではそうしたデータ解析をはじめ、人の価値観を考慮した合理的な選択のための手法を開発しています。

ここでいう「人の価値観」とは、過去のデータに基づく一貫した価値観を指します。例えば経営においてその人が何を重視するのか、質問事項や過去の選択をもとに設定し、矛盾のない理論的な判断の材料にするのです。

 研究を進めるにあたり必要なのは、解決するべき「課題」と参考となる「データ」です。これらは実際に企業から提供してもらったり、一般化された問題を現実のものに当てはめることで設定しています。企業の経営者から話を聞くと、経営に関わることを直感的に決めている人が多いという印象を持ちます。ビックデータという言葉が登場して10年以上が経ちましたが、多くの企業は蓄積されたデータを効率的に活用できているとはいえません。積み上げてきたデータは人が処理できる量を超えていますが、捨ててしまっている情報から重要な部分を抽出し、人間が解釈できる形にすることで価値ある判断材料にすることができます。

課題抽出から意思決定までコンサルティングできるシステムを目指して。

 これまでの取り組みの中で、ロボットを屋内で効率的に動かすソフトウェアを作成したことがあります。データを利用して壁に行き当たった際に動くべき向き、速度、充電のタイミングなどのルールを定め、行動を最適化したプログラムを作りました。こうしたモノの行動決定も研究対象の1つです。他にも、製品を製造する工場の環境最適化というテーマに取り組んだこともあります。大型のプラントで高品質な製品を安定的に製造するためには、作業をするオペレーターが働きやすい環境を整備する必要があります。気温、湿度、扱う材料など日ごとに変わるいくつもの条件に合わせ、どのように環境設定すべきかを過去のデータをもとに割り出せるようにしました。最終的にはこうした研究の手法をまとめ、課題抽出から意思決定までをコンサルティングするようなシステムを作りたいと思っています。と同時に、近年は生成AIの発達が目覚ましく、研究の中でどのように利用すべきかという検討の必要性も感じています。違う分野の技術を取り入れることで今まで有効活用できていなかったデータが使えるようになり、さらに可能性が広がるかもしれません。

 また、方向性は若干異なりますが、公共の場での人流シミュレーションの研究も行っています。これは公共の場で様々な方向から向かってくる人間同士がすれ違う際、どのように衝突を回避し、自分の行きたい方へ最短ルートで向かっているかということを調べるものです。1人1人の意思決定を解析しつつ集団での動きにも注目することで、ショッピングモールなどの施設における動線設計に活かせるようになります。例えば、意識せずともスムーズに人が流れたり、売上が上がりやすくなるような施設設計に貢献できればと考えています。

 また、将来的には伝統的なものづくりについて、エキスパートの経験をモデル化していくということも考えています。匠の世界には、こうした状況のときにはこうしなさいというマニュアルはありません。エキスパートがものづくりにおいて何をどのように最適化しているかという、経験でしか覚えられない技術を解析してマニュアル化することで、未来に繋げていくこともできるでしょう。

コミュニケーションの中から課題解決に繋がるアイデアが生まれる。

 私が研究にのめり込んだきっかけは、学生時代の卒業研究でした。当時修士の方と共同研究をしており、互いの得意分野を活かしながら時間をかけて1つのものを作るという作業が非常に楽しかったことを覚えています。また、苦労して読んだ分厚く難解な専門書の内容を、現実社会で役立つ実践的な研究に活かす体験にも魅力を感じました。

研究室で学生と

 現在は学生とともに研究を進めていますが、彼らの存在も共同研究のパートナーに近いものがあります。頭が柔らかく、ときにこちらが驚くようなアイデアを出してくれる学生とのやり取りには、いつも刺激をもらっています。コミュニケーションの中で新しいアイデアが生まれ、問題解決の糸口が見つかったときが最も楽しく、モチベーションにも繋がっています。また、学生自身が楽しんで研究に取り組むことが重要だと思っており、フォローが必要な場面以外は極力自由に動いてもらうことを大切にしています。

 私が所属する第二類の電気電子・システム情報系は、ロボットそのものだけではなく、その中身を作っていく分野です。研究対象も幅広く自由度が高い上、論理的にまとめたり、大人数で進める楽しさも感じられます。状況に応じて考え方、情報処理の仕方を考慮し、広い視野を持って今ある理論体系に統合する難しくも面白い研究ができます。私の研究室では主にビックデータに、泥くさい人間の決断、意思決定を紐付けるということをやっていきたいと思っています。興味のある方はぜひ話を聞きに来てください。

研究室のみなさんと

 

林田 智弘 准教授
hayashida tomohiro
社会情報学研究室

2004年3月 広島大学工学部第二類(電気系)卒業
2006年3月 広島大学大学院工学研究科 複雑システム工学専攻 博士課程前期修了
2009年3月 広島大学大学院工学研究科 複雑システム工学専攻 博士課程後期修了 博士(工学)
2006年4月 広島大学大学院工学研究科 複雑システム工学専攻 助手
2007年4月 広島大学大学院工学研究科 複雑システム工学専攻 助教
2010年4月 広島大学大学院工学研究院 電気電子システム数理部門 助教
2015年5月 広島大学大学院工学研究院 電気電子システム数理部門 准教授
2020年4月 広島大学大学院先進理工系科学研究科 准教授
2022年4月~現在 広島大学 大学院スマートソサイエティ実践科学研究院 准教授

2019年4月~2019年9月 県立広島大学 非常勤講師
2019年4月~2023年3月 広島大学 デジタルものづくり教育研究センター 研究員
2021年4月~現在 広島大学 AI・データイノベーション教育研究センター 研究員
2021年4月~現在 広島大学 大学院リーディングプログラム機構たおやかで平和な共生社会創成プログラム 技術創成コース アカデミックメンター
2023年4月~現在 広島修道大学 非常勤講師


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