小川 由布子 助教にインタビュー!

小川 由布子助教にインタビュー!

規格外瓦を活用したフライアッシュコンクリートの研究。

フライアッシュを利用した緻密なコンクリート。

 コンクリートは建物や道路などいたるところに使われており、私たちにとって非常に身近な材料といえます。ではみなさんは、コンクリートがどういったものから作られているかご存知ですか? コンクリートは石と砂を、水とセメントで固めたものです。セメントはコンクリートの原材料であり、石灰石などを焼成して砕き、粉にしたものをいいます。水を加えることによって化学反応を起こして固まるという性質を持っており、これが石や砂をつなぎとめ十分な強度を持つコンクリートになるのです。石や砂を「骨材」といい、私はこの骨材を含むコンクリートの材料やそのコンクリートの品質などについて研究しています。

研究室で学生と
フライアッシュ

電子顕微鏡で見たフライアッシュ

 現在はフライアッシュコンクリートに着目しています。フライアッシュとは石炭火力発電をした際に出る細かい灰のことです。セメントと似たような性質を持つことで知られていますが、単体では水と混ぜても化学反応が起きにくく、セメントの一部(20%前後)を置き換えることで活躍します。
 フライアッシュを混ぜると、通常と比べゆっくりと強度が伸び、より緻密なコンクリートができあがります。緻密なコンクリートはCO2や塩分といった有害物の侵入を防ぎ、内部の鉄筋を錆びにくくさせます。その結果、劣化が遅く良い状態を長く保つことができるのです。

廃瓦をアップサイクルし、内部養生材として地産地消へ。

 コンクリートの強度を出すためには「養生」が欠かせません。養生とは、打ち終わったコンクリートに水分を与えることで強度の発現を促したり、乾燥によるひび割れなどを防いだりするために行う作業です。一般的に行われる養生では外から水をやる(もしくは乾燥を防ぐ)ことでコンクリートを仕上げますが、研究では「内部養生」という方法に着目しています。内部養生では時間をかけて内側から水分を供給することで養生します。
 内部養生には多くの場合人工軽量骨材や吸水性ポリマーが使用されますが、私の研究ではその代替品として日本三代瓦の1つである石州瓦を活用しています。山陰の島根県で作られるこの瓦は冷害や塩害に強いという特徴があり、高温で焼かれ非常に硬く、内部養生材としては最適です。佐藤良一名誉教授がこの性質に着目して内部養生材としての適用を始めました。

 ひび割れが起こるなどして規格外となった瓦を利用することでアップサイクルにもなる上、生産地やその周辺でコンクリートを施工すれば地産地消にも繋げることができます。石州瓦は通常の骨材と比べ吸水率が高く、実際の実験でもコンクリートの強度を増進させ、自己収縮が低減するといった効果がすでに示されています。自己収縮とはコンクリートが化学反応で硬化する際に縮む現象で、例えば1mの長さがあるコンクリートなら計算上は0.5cm以上ほど縮む場合があります。これは、田澤栄一名誉教授が世界で初めて示した現象です。

 コンクリートで作られる建造物は大きなものがほとんどですので、自己収縮の低減は品質の高いコンクリートの実現につながります。もちろん、骨材への置換率や内部養生の効果の範囲など、まだ検証すべきことも多くあり、引き続き研究を進めています。

社会貢献に繋がるコンクリートを育てる。

 この研究の特徴の1つに、カーボンニュートラルにも貢献できるという点が挙げられます。セメントを作る際には石灰石を1000℃以上の高熱で焼く必要があり、その際にCO2が発生してしまいます。そのためセメントの一部をフライアッシュでまかなうことで環境負荷低減に貢献できます。また、高品質のコンクリートで作られた構造物は災害に強く長寿命ですので、人々の安心・安全に繋がります。今後も定量的に評価しながら研究を進め、少しでも使いやすく、社会に貢献できるような材料にできればと思っています。
 社会基盤の分野はコンクリート以外にも水や橋、インフラ、交通関係など様々なことを扱っています。私が最初に土木に興味を持ったのは、大学に入学したての頃に当時の学科長が仰った「地図の“面”を作る分野」だという言葉でした。中でもコンクリートは共同作業が多く楽しかったですし、水を与えて良いものにしていくという「育てる」感覚を非常に面白く感じました。

 研究では、もちろん材料の準備、コンクリートの練混ぜ作業から学生が計画・実施します。指導については、以前恩師が「待つのが仕事」と仰っていたのが印象に残っており、学生が研究内容や計画を決める際にはあまり口出しせず、できるだけ自分で考えてもらうことを心がけています。
 社会基盤の分野は幅広く研究内容も様々なので、進路に迷っている方はきっと自分が打ち込める何かが見つけられるはずです。気になった方はぜひ進学先として検討してみてください。

実験室前で学生と

 

小川 由布子 助教
OGAWA YUKO
構造材料工学研究室

2006年3月 東京都立大学土木工学科 卒業
2008年3月 首都大学東京 博士前期課程 修了
2011年3月 首都大学東京 博士後期課程 修了 博士(工学)
2011年4月~9月 首都大学東京 特任助教
2011年10月 広島大学大学院工学研究科 助教
2020年4月 広島大学大学院先進理工系科学研究科 助教


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