田中 義和 准教授にインタビュー!

田中 義和准教授にインタビュー

様々な人工物の安全性を維持管理するための評価方法及びシステム開発、成型技術などの研究。

高強度な浮体式洋上風力発電設備で海の資源を守る。

田中 義和准教授

 人工物の事故を未然に防止し、これらを長期間安全に維持管理することはとても重要です。私が所属するシステム安全研究室では、主に船舶や航空機、自動車などの輸送機器、環境機器やその他生産設備などの構造物を対象に、安全性・信頼性の評価、維持、管理に関する研究を行っています。

 まずご紹介するのは洋上風力発電の構造信頼性に関する研究です。海洋エネルギー発電のための装置や漁場を整備するための人工魚礁など、海には様々な構造物が存在します。それらが壊れることによる周囲の自然環境への影響、経済的損失は計り知れず、時には人命にも関わります。そのため壊れない、もしくは壊れにくい海洋構造物を作ることは必須です。

 これまで九州大学・大阪大学とともに海に浮かぶ風力発電設備についての共同研究を進めました。作成したモデルは約60m。このモデルの縮小モデルを水槽に浮かべ、波を発生させることで動きの変化を観察したり、ひずみの量を評価するなどして構造物の安全性を検討しました。1ヶ月ほどかけて行った九州大学での実験には、学生にも参加してもらいました。安全性の確認だけでなくモデルの構造や材料まで含めて研究しています。

航空機や車、建物まで。人工物の安全性に関するあらゆるものが研究対象に。

 研究室では複数の研究テーマを進行しており、例えば他には、航空機の主要構造部材であるCFRP(炭素繊維強化プラスチック)の成形技術の研究があります。CFRPは非常に軽く、さらに鉄の数倍も強く、軽量化を目指す航空機にうってつけの材料です。航空機は非常に大きいですが、実は胴体構造はバラバラの部材を組み立てているわけではなく、CFRP製の一体状態のものをオートクレーブという巨大な窯で熱を与えることで硬化させて成形しています。胴体全てがおさまるサイズの窯は熱する際に必要なエネルギーも膨大で、環境にも負荷がかかります。研究では電磁場を用いた誘導加熱法を利用し、硬化したい箇所にだけ電気を流すという省エネルギーな成形を目指しており、エネルギー削減に加え時間短縮、コスト低減も実現できないかと考えています。

 また、機械学習を用いたスポット溶接部の強度評価の研究も行っています。自動車の車体は鋼板でできており、それらはスポット溶接という方法で繋ぎ合わせられています。しかし鋼板には多くの種類があり、さらにどのような厚みで利用するかも考慮するとその組み合わせは数百種を超え、全てを試すことは到底不可能です。そのため、スポット溶接された箇所の強度を少量の実験結果から機械学習で予測する技術を研究しています。これが形になれば、新たな鋼材の組み合わせを用いたスポット溶接の強度予測、ならびに適切な電流の量や通電時間、適切な電極の大きさなどを設定することが可能になると期待できます。

 振動環境発電に利用される材料の性能確認装置
 (強制荷重負荷試験装置)

 他にも、振動環境発電に関する研究を行っています。環境発電とは身の回りにある利用されていないエネルギーを使って発電することをいい、エナジーハーベスティングとも呼ばれています。太陽光などの光、機械の発する熱、電磁波など様々なエネルギーがもととなります。私の研究では、高分子電圧材料を用いた振動発電を扱っています。この技術を用いて、例えば電池レスで稼働するセンサを人工構造物に設置しデータを取ることで、人工構造物の損傷や揺れ方に変化が起きてもすぐわかるようになる、といったことができないかと構想中です。また、自動車に取り付けることで走行の振動を利用しつつ車体の状態チェックができるようになるといったことも考えられます。

価値ある成果のために様々な挑戦を続ける。

 前述したもの以外にも、船舶や海洋構造物といった大型人工構造物の安全性・信頼性を担保するための非破壊検査や、紹介してきた研究に必要不可欠な電磁場の数値計算方法についての研究なども行っています。非常に広範囲に思えるかもしれませんが、いずれの研究も最初に述べたように人工物の安全性の評価、維持、管理に関わる内容です。複数の研究に取り組む中で大切にしているのは、発展性とオリジナリティがあるかどうかです。独自の研究をするためには、他の研究者が過去にどのような研究をしてきたのかを知ることがとても大切になります。また、世に出て社会に貢献できる研究をという思いがあり、時を経ても後進によって研究が続いているようなものを目指して、力を尽くしています。

研究の様子

 工学部・先進理工系科学研究科では、学生が将来社会に参加し、活躍するための基盤となる学術を教授しています。
 講義や研究だけでなく、学生にとっては人力飛行機の製作という課外活動も面白い経験になっているようです。もともと学生主体の活動でしたが、現在は正式に部活動となっています。「鳥人間コンテスト」へ出場したこともあります。機体には研究でも使用されているCFRPが使われており、私は副顧問として設計などをサポートしています。皆の力を合わせて作り上げる機体はまさに「知」の結晶です。ちなみに過去最長の飛行記録は約2,700m。今後も学生たちに協力し、ぜひこの記録を更新してもらいたいと思っています。

 輸送機器、環境機器の安全性維持・管理、システム開発などはもちろん、こうした活動にも興味がある方は、ぜひ研究室まで気軽に足を運んでください。

田中 義和 准教授
Tanaka Yoshikazu
システム安全研究室

2001年3月 九州工業大学大学院情報工学研究科情報システム専攻博士後期課程修了    博士(情報工学)
2001年4月 広島大学大学院工学研究科 社会環境システム専攻 助手
2007年4月 広島大学大学院工学研究科 社会環境システム専攻 助教
2010年4月 広島大学大学院工学研究院 機械システム・応用力学部門 助教
2016年4月 広島大学大学院工学研究院 機械システム・応用力学部門 准教授
2020年4月 広島大学大学院先進理工系科学研究科 准教授
 


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