最先端の半導体研究に多角的な視点からトータルに取り組む。
半導体デバイスに関するさまざまな問題にトータルに挑む。
私は半導体デバイスの、素子の構造、製造プロセス、素子の評価方法に関する研究を行っています。半導体デバイスの研究項目には、回路設計、素子の高性能化、製造プロセスの高精度化及びそれらの評価に関するものがありますが、私の研究はそのうち、回路設計や物性評価を除いた部分にあたり、具体的には次のようなものです。
■素子構造:ノーマリオフ型GaN_HEMTの作製
■製造プロセス:選択成長技術
■評価:メモリの信頼性に関する評価、トランジスタの雑音に関する評価
私の研究室は、小さいけれども、構造、作り方、評価までトータルで研究しているというところにオリジナリティがあると自負しています。というのも、半導体の研究をやっているところは数多くありますが、作り方や評価などにそれぞれ特化しているところが大半だからです。
では、研究内容について、少し分かりやすく解説しましょう。まずは、最初の「ノーマリオフ型GaN_HEMTの作製」についてです(図1)。
電気エネルギーの制御や供給に用いられる半導体素子のことを「パワーデバイス」と呼びますが、この研究は平たく言えば、消費電力が小さくそれ自身の大きさも小さいパワーデバイスを作ろうというものです。例えば、変圧器の中などに使えば、デバイスのサイズと重量を大幅に低減することができるでしょう。
GaN(ガリウムナイトライド、窒化ガリウム)は青色発光ダイオードの材料として用いられる半導体で、HEMT(High Electron Mobility Transistor=高電子移動度トランジスタ)は、バンドギャップの違う異種の半導体材料を接合することで界面に2次元電子ガスの層を作り出し、電子が流れるチャネルとして利用するトランジスタを言います。
(注)バンドギャップとは、固体中の電子のうち、電子に占有された最も高いエネルギーバンド(価電子帯)の頂上から、最も低い空のバンド(伝導帯)の底までの間のエネルギー準位(およびそのエネルギーの差)のこと。
HEMTは高速・低雑音性に優れたトランジスタなのですが、2次元電子ガスを発生させながらゲートに電圧をかけていないときにトランジスタをオフする(ノーマリオフ)ことが難しく、単体のトランジスタとしてはパワーデバイスとして実用化することが困難です。そこで、フローティングゲート構造を用いて閾値電圧を制御できるようにし、ノーマリオフのGaN HEMT(High electron mobility Transistor)を実現するためのトランジスタ構造、プロセスの研究を行っています。
また、2つめの「選択成長技術」についてですが、これは成膜技術のひとつです(図2)。
半導体は非常に小さい素子でできていて、シリコンウェーハと呼ばれるシリコンの板の上に、電子回路のパターンを写真の技術を使って焼き付けたものを、どんどん積み上げて作られます。その積み上げる際には、アライメント(位置合わせ)という工程が必要で、合わせずれが起こると非常に問題です。しかし、集積回路の微細化のために、この合わせの高精度化が難しく、集積化の妨げになっています。そこで、これを克服するため、パターン間のアライメント無しに成膜ができる技術、薄膜形成時に下地材料の違いによって成膜のされ方が異なる「選択成長プロセス」について研究を行っています。
図1:ノーマリオフ型GaN_HEMT_図版
図2:選択成長プロセス図版
産業界が抱える諸問題を解決すべく、多方面と連携して進める研究スタイル。
私が学生だった当時は、日本の半導体デバイスメーカーが世界でも上位10社のうち5~6社を占めるという時代。研究においては、シリコンは終わり、化合物半導体の研究が盛んに行われ始めていた時代でした。そのため、日本には、シリコンの研究をしている研究室は少なかったのですが、東北大学ではそれがあり、私はそこで勉強することができました。そのためか、修士課程修了後に半導体メーカーに就職すると、運よく、修士時代に研究していた内容をそのままやらせてもらえることになりました。
メーカーでは10年ほど研究・開発を続けましたが、途中で大学時代の恩師からのお声がけがあって仕事を続けたまま、博士課程(社会人コース)で博士号を取得、その後、その先生が始められたプロジェクトに参加する形で、会社を退職し、大学での研究者になることとなりました。
そして、2019年6月より広島大学のナノデバイス・バイオ融合科学研究所に赴任しました。立派なクリーンルームを備えた広島大学の研究環境には大いに満足しております。
私の研究がめざすのは、最終的に役に立つ技術にしたいということです。世の中には新しさだけをめざす研究というのもあります。役に立たないかもしれない新しいこと、単純に人とは違うというものもありますね。私は、そういうものよりは、役に立つほうをやりたいなと思うんです。何かの役に立つ、いままでよりは良い技術にしていこうと常に思っています。工学は産業界との関わりが密接ですから、将来的には、産業界で役に立つ、つまり実用化されることを目指したいと思います。
もともとご指導いただいていた先生が、「工学研究はターゲットドリブン型の研究だ」とよくおっしゃっていました。それは、研究の初期段階で目標を設定し、何を解決しないといけないのかを明らかにしながら、仕事を進めていくというやり方です。研究のレベルはボトルネックで決まるため、問題解決に必要なことを見出し、それを解決していく。半導体産業はたくさんの技術を集積化したものですから、中には自分の専門分野だけでは解決しないことも多くあります。そのため、学内外、産業界とも連携して助けも借りながら、問題解決に取り組むというスタイルと言えるでしょう。
また、研究の醍醐味は、いろいろなことを考えつつ、データを見つつ、モデルを立てたり、予測をして、それが思い通りになったときの喜びでしょうか。半導体産業というのは、世界レベルではまだまだ成長産業であり、最先端の研究分野です。技術的にはどんどん革新していくため、追い付く難しさもあり、おもしろさもあると感じています。
世界最高をめざす若い研究室。産業界に貢献できる意義深い研究を!
今後の目標としては、私はまだ本学にやってきたばかりですから、まずは研究室をしっかり立ち上げること。そして、学生たちが順調に研究を進めていける環境を早く整えていきたいと思っています。
また、研究室の学びの方向性としては、「最先端の技術を作っていこう」というのがひとつ。「世界最高をめざそう」というのが共通認識で、学生たちにも、「世界で比較的有名な学会に投稿して発表することを目標にしましょう」と話しています。マスターコースの間に1回ぐらいはそうした発表の場に臨んで欲しいですね。
もうひとつは、最先端技術だけを拙速に身につけるのではなく、ベースをしっかりやって、研究のやり方自体もきちんと学んで欲しいと思っています。先端のキーワードだけを使うのではなく、そのベースとなる知識を身につけて欲しいと思っています。前述したように、半導体産業は集積産業ですから、自分の研究室以外の、他の人たちとも協力しながら、何かを作っていったり、自分の基礎的な学問や技術の実力なども向上させながら、仕事のやり方をしっかり学んでいけるようなところにしたいなと思っています。就職する際に半導体産業に入らない人たちもいるので、そういう意味では、社会人になって幅広く応用できるようなチカラを身につけられる場になればと考えています。
まだ半導体についてあまり知らないという高校生さんでも、興味がわいたならばぜひこの研究室をめざしてください。国内大学では数少ないスーパークリーンルームを備えた広島大学は、半導体・ナノテクノロジー分野において、非常に豊富なノウハウを誇ります。産学官の共同研究も盛んですから、最先端&世界レベルの研究の場であることは間違いありません。産業界の課題解決の一翼を担う研究は、やりがいも大きいはず。熱量豊かな皆さんの参加を大いに期待しています。
寺本 章伸 教授
Akinobu Teramoto
ナノデバイス・バイオ融合科学研究所 教授
1990年3月28日 東北大学 工学部 電子工学科 卒業
1992年3月27日 東北大学大学院 電子工学専攻 博士課程前期 修了
1992年4月1日~2002年2月28日 三菱電機株式会社 LSI研究所 技術者
2001年9月12日 東北大学大学院 電子工学専攻 博士課程後期(社会人コース) 修了
2002年4月1日~2007年3月31日 東北大学 未来科学技術共同研究センター 助教授
2007年4月1日~2014年6月30日 東北大学 未来科学技術共同研究センター 准教授
2014年7月1日~2019年5月31日 東北大学 未来科学技術共同研究センター 教授
2019年6月1日~ 広島大学 ナノデバイス・バイオ融合科学研究所 教授
東北大学 未来科学技術共同研究センター 客員教授