田中 智行准教授にインタビュー!

田中 智行准教授にインタビュー!

輸送機器や溶接構造物の強度評価に関する研究。

輸送機器や溶接構造物の強度評価に関する研究とシミュレーション技術の開発。

田中 智行准教授

 私は、輸送機器や大規模な溶接構造物の強度に関する研究を専門としています。博士課程では計算力学と呼ばれる分野の研究を行っていましたが、広島大学に来てからは、輸送機器や溶接構造物の強度に関する研究が多くなってきました。
 研究対象となるのは鉄の構造物。鉄でできている船舶などの輸送機器や洋上風力発電などの海洋構造物を中心に、自動車やロケット、航空機も含めた、さまざまなものの強度評価に関する研究を通して、安全かつ安心に利用できるものづくりに貢献することを目指しています。
 しかし、最近の計算機の発展は目覚しく、力学もある分野においては、実験や経験ベースのものづくりからシミュレーションベースに置き換わってきています。自動車産業などが良い例ですね。

そのため、私のところでは、計算機を用いた固体や構造物の数値シミュレーションにも取り組んでいます。これは、計算力学や計算工学という分野になりますが、コンピューター上で起きている事象を構造解析するというものです。
 一方で、シミュレーションだけではまだまだ評価できない領域も多く存在します。構造物の疲労現象などがその代表でしょうね。人間と同じで、材料や構造物も小さい荷重が加わり続けると疲労します。材料の微視的な部分から損傷が起きて、それが最終的な大規模な損傷につながります。このようなシミュレーションは材料(鋼材)などの微視的なレベルから構造レベルまでの現象を把握する必要があります。そのため、最近では、シミュレーションだけでなく、実験を行なう研究者と協力して、実際の物理現象の把握、新しいシミュレーションモデルの構築に関する研究も行っています。
 つまり、いくら計算機が発達しても、シミュレーションだけでは分からないことも多くあるということですね。学外の研究者と共同で行っている実験的研究の対象には大きなものや精度を必要とするものもあるため、学外の施設を利用させていただくことも多くあります。
 このように、私の研究は、強度評価を行うための解析方法の開発とコンピュータシミュレーションの2本立てになっています。

出会いを大切に。力学を知った高校生時代。自由な発想で新しい研究を。

 いまの研究者生活につながるきっかけはと言うと、私はもともと海が近い所に住んでいたので、魚釣りなどで自然と触れ合うことが多く、水の流れや雲の動きといった力学の現象に自然と興味を持つようになりました。さらに、高校3年生のときに物理の先生に力学をみっちり教わりました。結局、それがいまの飯の種になっているのですから、それだけ高校生の頃の学びや先生というのは、長い人生のなかでも大きな意味を持っているように思います。
 その後、地元の大学の機械科に入学した私は、そこで博士課程まで進み、たまたま広島大学の公募があって現在に至っています。広島大学に来てからも、多くの優秀な先生方からアドバイスをいただき、自分の専門性に磨きがかかってきていると思います。

 しかも、後から分かったのですが、高校のときの物理の先生は、大学の造船学科で構造強度関連の教鞭をとられていたようで、結果的に同じような世界に身を置いていることには不思議な縁を感じます。
 私が研究者となってから、すでに10年以上経過しましたが、研究自体はやはり日々おもしろいですね。特に、自分で立てた仮説をプログラムで作成してうまくいったときにはとてもうれしくなります。もちろん、うまくいくことばかりではありませんが、実験もコンピューター上の作業も、難しいことに挑んでいくことにはやりがいのようなものを感じます。

田中 智行准教授

 今後は、微視的材料挙動を考慮した構造強度評価、構造物の疲労や破壊の問題、流体と構造が連成する問題などに取り組みたいと思っています。また、計算力学分野の話題では、AI と計算力学の融合、量子コンピューターを用いた新しい構造解析法の提案などがおもしろいかもしれませんね。いずれの研究も、自分一人でやることには限界がありますので、世界中の研究者と協力して研究を進めることにしています。

瀬戸内地域は海事産業の一大集積地。海洋への興味を活かせるところ。

 さきほどの研究の一例として写真で紹介しているのは、「脆性破壊試験」というものです。割れ目を入れた鋼材の試験片を液体窒素の中につけて冷やし、力を加えると変形してバキッと割れる。これで割れなかったらこの材料は大丈夫というのを試験するものです。私の研究室では、こうした実験を東京の海上技術安全研究所に、学生さんも行ってもらって試験をして、結果を持ち帰って、それをコンピューターでシミュレーションするというような流れで実験や解析作業、シミュレーションなどを行っています。

脆性破壊試験
脆性破壊試験

 この「鉄が割れる」という現象は、あの有名なタイタニック号で起こったものと同じなんですよ。寒い時に氷山など当たるとバキッと割れてしまう。それは最も怖い現象ですから、鉄鋼会社もいい鉄を作ろうと頑張っています。日本の鉄鋼会社は非常に優秀ですから、いまや普通に使う鉄でさえ、かなり割れないような鉄になっていて、もうほとんどタイタニック号のような事故は起きないぐらいになっていますが、それでも、さらに高強度の鉄をつくって、船をはじめとした輸送機器等の安全に貢献しようと頑張っている鉄鋼会社さんがいて、そのそばに私たちの研究がある。そんな位置づけと言えるでしょう。

脆性破壊試験

 さて、瀬戸内地域は船舶や海洋構造物、そしてその関連産業の一大集積地になっています。瀬戸内海をドライブすると、多くのドックなどが見られます。規模が大きいのでなかなか壮大ですよ。皆さんのなかに、船舶や洋上風力発電といった海洋に関する構造物の研究がしたいというひとがいれば、ぜひとも、まずはこうした瀬戸内地域の風景を眺めに来てみて欲しいと思います。
 私のところの研究室には、優秀な学生さんがたくさんいます。真面目に頑張るタイプのひとが多いように思いますね。やっている内容はかなり高次で、力学や数学、プログラムの知識が必要になります。そして、うちでは、学生さんの自主性に任せているところが大きく、やる気のあるひとには、やりたいことに取り組める研究室と言えるのではないでしょうか。

脆性破壊試験
研究室のみなさんと

 また、この構造システム研究室は、日本でも数少ない、海洋に特化した研究室です。日本では広島大学と九州大学、大阪大学、横浜国立大学くらいしかありません。そのため、海洋への興味を大いに活かせる場所と言えます。そうした興味をいだいているひとには、ぜひうちを目指して進んできて欲しいと思います。

 

 

 

田中 智行 准教授
Satoyuki Tanaka
構造システム研究室

2001年3月 鹿児島大学 工学部機械工学科 退学(博士課程前期に飛び入学のため)
2003年3月 鹿児島大学 大学院理工学研究科 機械工学専攻 修士課程 修了
2007年3月 鹿児島大学 大学院理工学研究科 博士課程 修了
2007年4月1日~2010年3月31日 広島大学 大学院工学研究科 助教
2010年4月1日 ~2017年3月31日 広島大学 大学院工学研究院 助教
2011年10月1日 ~2012年8月1日 ノルウェー科学技術大学 客員研究員(兼務)
2017年4月1日 ~ 2018年3月31日 広島大学 大学院工学研究科 助教
2018年4月1日 ~ 広島大学 大学院工学研究科 准教授
2020年4月1日~ 広島大学学術院(先進理工系科学研究科) 准教授


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