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【JSTの事業に関すること】
科学技術振興機構
未来創造研究開発推進部低炭素研究推進グループ
調査役 大矢 克
TEL: 03-3512-3543
E-mail: alca*jst.go.jp
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広島大学の尾坂格教授、斎藤慎彦助教、大阪大学の家裕隆教授、京都大学の大北英生教授、千葉大学の吉田弘幸教授、高輝度光科学研究センターの小金澤智之研究員らの共同研究チームは、フッ素原子を有する独自の半導体ポリマー(1)を開発しました。この半導体ポリマーを塗布して作製した有機薄膜太陽電池(OPV)(2)は出力電圧が高まり、エネルギー変換効率(太陽光エネルギーを電力に変換する効率)が向上することを発見しました。また、半導体ポリマーの化学構造におけるフッ素原子の位置が、半導体ポリマーの性質やOPVの特性にどのように影響を与えるかを解明しました。
OPVは半導体ポリマーをプラスチック基板に塗って薄膜化することで作製できるため、コストや環境負荷を抑えることができ、大面積化が容易です。また、軽量で柔軟、透明にすることが可能であり、室内光下で変換効率が高いという特長を持つことから、IoTセンサー、モバイル・ウェアラブル電源や窓、ビニールハウス向け電源など、現在普及している無機太陽電池では実現が難しい分野への応用を切り開く次世代太陽電池として注目されています。しかし、OPVの実用化にはエネルギー変換効率の向上が最重要課題であり、そのためには新しい半導体ポリマーの開発が不可欠です。
今回、共同研究チームは、広島大学の研究グループが以前に開発した半導体ポリマーに、大阪大学の研究グループが開発したフッ素導入技術を応用することで、これまで不可能だった位置にフッ素が導入された新しい半導体ポリマーを開発することに成功しました。これにより、半導体ポリマーの分子軌道エネルギーの準位(3)を、OPVに応用する上でより理想的な準位に制御することができ、変換効率を向上させることに成功しました。さらに、フッ素原子を導入する位置によって、半導体ポリマーの分子配向(4)が大きく異なり、電荷輸送(5)や電荷再結合(6)に影響を及ぼすことも明らかとなりました。本研究で得た新しい知見を基に半導体ポリマーを改良することで、さらなるエネルギー変換効率の向上が見込めます。
なお、本研究成果は、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)(研究開発課題名:「高効率ポリマー系太陽電池の開発」、研究開発代表者:尾坂格(広島大学教授)、研究開発期間:平成26年10月~令和2年3月)、文部科学省の研究大学強化促進事業の取り組みとして広島大学が行っているインキュベーション研究拠点事業「次世代太陽電池研究拠点」および石原産業株式会社との共同研究の一環として得られました。
本研究成果は、ドイツの科学誌「Advanced Energy Materials」オンライン版に掲載されました。
(※1) 半導体ポリマー
半導体の性質を持つポリマー(高分子の有機化合物)材料。有機溶剤に溶けるため、塗ることで薄膜にできる半導体として、有機薄膜太陽電池をはじめとした有機デバイスに応用されている。2000年ノーベル化学賞の対象となったポリアセチレンも、不溶性ではあるが、半導体ポリマーである。
(※2)有機薄膜太陽電池(OPV)
有機半導体を発電層として用いた薄膜太陽電池の総称。特に有機半導体の溶液を塗布して作製する有機薄膜太陽電池を塗布型OPVと呼ぶ。有機半導体としては、通常、p型半導体(正の電荷(=正孔、ホール)を輸送する半導体)である半導体ポリマーとn型半導体(負の電荷(=電子)を輸送する半導体)であるフラーレン誘導体が用いられる。塗布プロセスによる大量生産が適用できると同時に、安価かつ軽量で柔らかいことから次世代の太陽電池として注目を集めている。OPVは、Organic PhotoVoltaicsの略。
(※3)分子軌道エネルギーの準位
分子軌道が持つエネルギーの位置(真空準位を基準とする)。分子軌道は、有機分子の化学結合を形成するために使われる電子が存在することのできる空間を表す。電子が詰まっている軌道と電子がいない軌道があり、前者で最もエネルギーが高い分子軌道を特に最高被占分子軌道(HOMO)といい、後者で最もエネルギーが低い分子軌道を特に最低空分子軌道(LUMO)という。
(※4)分子配向
分子が一定方向に配列すること 。基板上に半導体ポリマーの薄膜を形成すると、ポリマー分子は相互作用によ って集ま り、一定方向に配列する。 基板に対して分子が平行や垂直な方向に配列するなど、いくつかの配向様式がある。配向様式によって、電荷が流れやすくなったり、流れにくくなったりする。
(※5)電荷輸送
半導体薄膜中を電荷が流れること(半導体が電荷を運ぶこと)。電荷輸送性が高いほど、電流が得られやすいため、太陽電池の変換効率は高くなる。
(※6)電荷再結合
正の電荷(正孔=ホール)と負の電荷(電子)が結合し、電荷が消滅すること。太陽電池では、電荷再結合が起こると 電流や電圧に悪影響を及ぼし、変換効率が低下する。
半導体ポリマーとフラーレン誘導体における分子軌道(HOMOとLUMO)が持つエネルギー準位の関係
広島大学大学院工学研究科
教授 尾坂 格
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掲載日 : 2020年01月14日
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