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富永 依里子 准教授にインタビュー!

結晶成長を利用した半導体デバイスの開発、海洋細菌で半導体リサイクルを実現する研究

新時代の通信技術にも貢献する半導体の「結晶成長」

私の専門は主に半導体の結晶を作る「結晶成長」です。結晶成長とは原子が集まって結晶になる現象を制御し、結晶を作る技術のことを言います。結晶成長方法にも色んな種類がありますが、私はその中で分子線エピタキシー法を大学学部卒業研究の時からずっと利用しています。非常に荒い説明ですが、例えば水を張ったお鍋を火にかけると湯気が出て、そのお鍋の上に下敷きを近づけると表面に水滴がつきますが、それを超高真空室内で、金属を用いて行うイメージです。お鍋にガリウムやヒ素などを入れて金属の蒸気を作り、そこに半導体基板(例で言う下敷き)を近づける
 

と、その上にヒ化ガリウム(GaAs)系半導体が積層します。私はこの方法でビスマス(Bi)という元素をGaAs結晶の中に入れ、得られる新規特性を基に半導体デバイスの開発に取り組んでいます。この技術は皆さんが耳にする「第6世代移動通信システム(B5G、6G)」とも関係しています。6Gとは簡単に言うと、現行の5Gよりもさらに大容量のデータを高速で送受信可能にする通信システムのことです。この6Gでは、5Gで利用されている通信用周波数帯よりも高い周波数の電波が割り当てられることになっています。しかし、6Gで利用する短距離無線通信用の半導体デバイスの高い周波数での動作特性を検証する検査システムがまだ開発されておらず、私が研究しているBi系半導体の電磁波発生検出素子ならそれが可能になるのではないかと考えています。そのため、実現が難しいと思われていた特性を備えたBi系半導体材料を結晶成長しようと挑戦しているところです。

また、前述したBiは他の元素より低温で成長しなければ結晶の中に取り込まれないのですが、Biが添加された結晶は温度変化が起きてもバンドギャップ(結晶の周辺に存在する電子雲が由来となって形成される電子構造の中で電子が存在できない範囲)が変化しにくいという大きな特徴があります。インターネット通信などに使用されている光通信用半導体には周囲の温度が変化することでバンドギャップが変化し、それによって半導体レーザーの波長が変化して通信の混信が起きてしまうという課題があり、半導体レーザーを温調器に搭載することによってそれを防いでいます。私が研究しているBi系半導体であればその問題を解消し、通信における電力消費の一部を抑える効果もあるのではと考えられます。
 

半導体結晶の構成原子の周期性を確認するためのX線回折装置

他分野とのコラボレーション。海洋細菌による結晶成長にチャレンジ

研究室では上記の他に、使用後にゴミとなった半導体から希少金属を安価・安全に回収する研究を、工学部第三類・生物工学プログラムの先生と一緒に行っています(参考:国立大学55工学系学部ホームページ )。
半導体デバイスに使用される材料には、地殻中の存在量が少なく精錬コストが高い希少金属(レアメタル)が多く含まれています。役目を終えゴミとして廃棄されたそれらを海に住む細菌の力で回収・合成して、微小な半導体結晶を作れないかと実験しています。具体的には、海辺で採取した細菌にガリウムなどの金属を

少しずつ与えて培養し、細菌を置く環境や培地の種類、添加する金属を変えながら生き残った細菌で研究を続けています。
インジウム、ガリウム、ヒ素を同時回収することには成功しており、結晶の生成はまだ未確認の段階です。こうした作用は細菌の呼吸を用いているのではないかと考えており、例えば人間だと酸素を用いて呼吸という生存反応をしますが、私たちが用いている細菌は金属を介して呼吸をし、その際に金属イオンに対し電子を与え、ガリウムとヒ素が結合すればGaAsが合成できるのではないかと期待しています。
一見、異なる研究を同時に進めている私ですが、あくまでも結晶ができていく瞬間を研究対象としており、2つの研究で共通項があると感じて取り組んでいます。Biを添加したら結晶の表面の電子の状態がこうなったけど細菌が呼吸をする際はどうだろうというように、研究を進める上ではオーバーラップして考えるようにしており、そこに私のオリジナリティが生まれるのではないかと思っています。

需要の変化から研究に新たな価値が生まれる

私は結晶成長という学問・工学技術と約20年向き合っていますが、同じ研究を長く続けてきたからこその面白さを、まさに今感じています。私が学生だった当時は、6Gが利用される世の中などまだだれも提唱しておられず、私はただBiを利用した際の基礎特性が面白いという学術的興味を基に研究に取り組んでいました。しかし時代と共に通信業界の需要が変わり、2-3年前のある日、学会での私の講演を聴いてくださっていた企業の方に「6G時代に求められる検査システムに活用できるのでは」と声をかけていただいたことで自身の研究の新たな価値に気づくことができました。私自身は

同じことを深掘りしているだけなのに、時代の要請や違う視点を得ることで私一人では見えていなかった研究の側面が輝き出す、その共鳴のようなものが非常に面白いと感じています。学生時代はいただいた賞や世界初という言葉をシンボルのように思っていましたが、社会人になってから、研究は息の長いマラソンのようだと実感しています。また、半導体工学という産業応用に密接な分野に身を置き、時代に即した研究に取り組むことができる学問に携わっているからこそ業界の情報がタイムリーに入ってくるのも面白いところです。世間に出る前の情報を関係者からいただくこともあり、日本や世界の半導体産業の動向が見えたときも最先端の研究分野に属していると実感する瞬間です。 

現在主催している自身の研究グループには9名の学生がおり、一緒に研究を進める中で多くの刺激をもらっています。自分なりに考えて行動する彼らだからこそ失敗することもありますが、なぜそうしたのか理由を尋ねると必ず彼らなりの意図を持ってしたことなのだとわかります。私一人の考えで進めて彼らに指示出しをする一方だときっと研究はつまらなくなりますし、学生には自分たちでしっかり考えてほしいという思いから、最初から否定するような言動はしないよう心がけています。広島大学には落ち着いて研究できる設備・環境が整っており、この立地だからこそ可能な研究

テーマも豊富に揃っています。
さらに、海外留学のプログラムや国内外の学会に参加することもできる、非常に恵まれた大学です。皆さんの学びたい気持ちに応える準備はできていますので、安心して扉を叩いてください。

富永 依里子 准教授
Yoriko Tominaga
量子光学物性研究室

2012年3月  京都工芸繊維大学 大学院工芸科学研究科 設計工学専攻 博士後期課程修了    博士(工学)
2012年4月  広島大学 大学院先端物質科学研究科 研究員
2012年8月  広島大学 大学院先端物質科学研究科 助教
2019年4月  広島大学 大学院先端物質科学研究科 講師
2021年3月  広島大学 大学院先進理工系科学研究科 准教授
2021年4月 大阪大学 大学院工学研究科 特任准教授(常勤)
 


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