【研究成果】人工知能技術で航空写真から災害による建物被害を自動的に把握する技術を開発

本研究成果のポイント

  • 人工知能(AI)技術のひとつである深層学習(*1)を利用して、災害後に撮影された航空写真から建物の被害程度を判別する手法を開発しました。本手法により、倒壊した建物、無被害の建物、屋根にブルーシートがかけられた建物を自動的に短時間で判別することができます。
  • 1995年兵庫県南部地震や2016年熊本地震による建物被害データを基にして判別モデルを構築し、2019年9月に発生した台風15号による建物被害に対しても精度良く被害を判別できることを明らかにしました。特に本研究の独創的な点は、現地調査による詳細な建物被害データを基にして深層学習モデルを構築したこと、複数の災害に対して手法の適用性を明らかにしたことにあります。
  • 将来、広域・大規模な自然災害が発生した際には、短時間で個々の建物被害状況を把握することが可能となり、迅速かつ適切な災害対応に役立つと期待されます。

概要

広島大学大学院先進理工系科学研究科の三浦弘之准教授および東京工業大学環境・社会理工学院の松岡昌志教授の研究グループは、AI技術のひとつである深層学習を利用して、災害後に撮影された航空写真から建物の被害程度を自動的に判別する手法を開発しました。

地震や台風のような大規模で広域の自然災害後には、適切な応急対応や早期復旧計画を立案するために、できるだけ早く被災範囲や被害量を把握する必要があります。特に建物被害に関しては、被害の広がりを把握するために、倒壊のような大被害だけでなく、中程度の被害の把握も重要になります。本研究では、1995年兵庫県南部地震および2016年熊本地震における航空写真データおよび現地調査で得られた建物被害データを利用して、建物の被害程度と航空写真の特徴の分析を通して、倒壊した建物ではガレキが散乱する様子が画像から明瞭に把握できること、屋根面にブルーシートが覆われている建物(以下、ブルーシート建物)の多くは中程度の被害レベルであること等を明らかにしました。そこで、2つの地震で得られた航空写真データと建物被害データを深層学習によって学習し、撮影された建物の被害程度を倒壊建物、無被害建物、ブルーシート建物へ自動的に分類するモデルを構築しました。

本研究では、深層学習として畳み込みニューラルネットワーク(以下CNN)(*2)と呼ばれる手法を適用しました。CNNは画像認識の分野で近年広く利用されている技術で、画像上の物体を判別・分類するのに適しています。2つの地震で得られたデータを学習用・検証用データに分け、CNNによって学習用データで学習した上で、検証用データへ適用したところ、95%以上の精度で被害を正しく判別できることが確認されました。また、本手法を2019年9月に発生した台風15号で甚大な被害が生じた千葉県鋸南町での航空写真データに適用したところ、90%以上の高い精度で被害を判別できることが確認されました。

提案された方法を利用することにより、短時間で自動的に建物被害の分布を把握することが可能となり、将来発生する広域自然災害の早期対応時における基礎情報として活用されることが期待されます。

本研究成果をまとめた論文が、MDPI 社の学術雑誌「Remote Sensing」に採択され、 MDPI 社のライブラリにオンライン掲載されました。

(図1)  航空写真上の建物被害と実際の建物の様子の比較 (2016年熊本地震での益城町での被害)

用語解説

(※1) 深層学習
ディープラーニングとも呼ばれ、人間の脳神経回路をモデルとした多層の人工ニューラルネットワークを用いて学習を行う機械学習の手法のひとつである。近年の人工知能技術を支える手法のひとつである。

(※2) 畳み込みニューラルネットワーク
Convolutional Neural Network(略してCNNと呼ばれることが多い)。深層学習の手法の中でも特に画像認識技術で高い性能を示す手法である。畳み込みと呼ばれる画像のフィルタリングとプーリングと呼ばれる情報の集約などの処理を多層的に組み合わせることで、画像から特徴的な指標を抽出し、それを学習することで画像の判別・分類を行う。

論文情報

  • 掲載誌: Remote Sensing
  • 論文タイトル: Deep Learning-based Identification of Collapsed, Non-collapsed and Blue Tarp-Covered Buildings from Post-Disaster Aerial Images
  • 著者名: Hiroyuki Miura, Tomohiro Aridome and Masashi Matsuoka
  • DOI: 10.3390/rs12121924
【お問い合わせ先】

<研究に関すること>
広島大学 大学院先進理工系科学研究科
准教授 三浦 弘之
TEL: 082-424-7798
E-mail: hmiura*hiroshima-u.ac.jp
(注:*は半角@に置き換えてください)


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