【2023/11/24開催報告】第160回コンソーシアム人材セミナー「想定外を想定し、課題に対応《小惑星探査機「はやぶさ2」プロジェクトチーム》」を開催しました。

2023年11月24日、第160回コンソーシアム人材セミナー ~チーム(協働・共創)で、未知・不可能にチャレンジ~「想定外を想定し、課題に対応《小惑星探査機「はやぶさ2」プロジェクトチーム》」を開催しました。

【講 師】国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 
     はやぶさ2拡張ミッションチーム長 津田 雄一 氏
【参加者】74名

概要

講師の津田氏の研究分野は航空宇宙工学、太陽系探査。主に、太陽系探査機のシステム設計、宇宙機を地上あるいは宇宙のある地点から目的地まで効率的に飛ばすための流動航行制御を研究されています。
今回のセミナーでは、国家プロジェクトとして「9つの世界初」を成し遂げた科学的、技術的成果の観点よりも、「もう打つ手がない」と途方に暮れるほどの「壁」に何度も突き当たりながらも、その全てをチームメンバー約600名の総力で乗り越えたチームづくりの観点でお話しいただきました。

最初に、最近の小惑星探査の動向として、地球を惑星の衝突から守る実験「プラネタリディフェンス」、アメリカ版小惑星探査サンプルリターンミッション等の紹介がありました。
続いて、14種類の科学観測機器を搭載した「はやぶさ2」の総飛行時間2195日、総飛行距離52億4千万㎞に及ぶミッションの流れ、「リュウグウ」を選択した理由、「はやぶさ2」が目指す科学等について映像を交え、解りやすく丁寧に説明されました。

「はやぶさ2」は「リュウグウ」での1年半の滞在中に、①移動探査ロボットを着陸させ表面の探査を行う ②本体を2回タッチダウンさせ、かけらを採取する ③穴をあける実験を行い地下の情報を得る 等々の世界初のチャレンジを行い、全て成功しています。

チームが体験した「想定外」「壁」の紹介がありました。

①    着陸地点が見つからない
「リュウグウ」の地表がクレーターと岩だらけで着地点が見つからない。着陸精度50mの「はやぶさ2」には100m四方の着陸に安全な場所が必要だが、見つからない。約300名の科学者が、写真に写っている石のサイズを一つひとつ測り、着陸できそうな「はやぶさ2」の幅と同じ直径6mのエリアをみつけた。

②    狭いエリアへの着陸
技術者約300名がこのエリアに着陸させる技術を作り出した。「はやぶさ2」が自ら判断し精度1mの着陸を行うプログラムを書き「はやぶさ2」にアップロードした。
この「壁」は設計図、仕様通りでは答えが見つからない課題。技術者が集まり、何ができるかを検討し、出てきた提案を問答しながら磨いた。これがチーム内で同時多発的に行われ、そして、一つに修錬した。当初の「想定」とは全く違った複雑な方法で着陸することとなった。

③    降下開始時に誤作動
降下開始の瞬間に誤作動が起こり、タッチダウン不可となった。チームは暗中模索でトラブルの原因を究明、対応策を検討、チーム全体で確認し、5時間遅れで降下を開始。降下速度を速めることで当初予定時刻にタッチダウンに成功した。

これらの「想定外」「壁」に対応できたチームはどのように創られたのか説明がありました。

約600名のチーム「はやぶさ2」は、プロジェクトマネージャー配下のコアメンバーは約10名、JAXA内の技術スタッフ約100名、協力企業メンバー約300名、他研究機関メンバー国内約130名・海外約50名の混成メンバーです。

(1)①「ミッションこそが上司、節理こそが上司、リーダーもひとつの機能」の考えのもと組織内の情報流れ・決断をオープンにし、②対立軸をつくり「安易にまとまらない、カウンタープロポーザルを常に提示」、③責任はリーダーがとることを明示し「安心してアイデアを出せる環境」を創った、と説明されました。④リーダーには、五分五分の判断になった時の決断、結果責任を取る、いざという時の突破力が求められると話されました。

(2)何が起きるか予想できなくても、予想外のことが起きたときの選択肢は用意できる、との考えものと、答えを解けるチームではなく、問題を作れるチームを創ったの話されました。
探査機シミュレータを使った徹底的な訓練を行い、失敗体験、共通体験を積み上げることを通して、①失敗しない土台を作ったうえで成功に挑戦するチーム、②失敗も成功も共有する雰囲気、面白がって仕事に取り組み雰囲気をもったチーム、③リスクを事前に明示し、何に挑戦しているのかを事前共有するチーム、を創ったと話されました。

あるメンバーのことば「はやぶさ2はみんなが『自分がいなければ成功していなかった』」が目指したチームだった、と締めくくられました。

なお、「はやぶさ2」は現在、新たな2つの未踏惑星を目指す「拡張ミッション」に取組んでいると説明がありました。
 
                               (グローバルキャリアデザインセンター 宮地)
 

【お問い合わせ先】
広島大学グローバルキャリアデザインセンター(担当 宮地、田中)
E-mail:wakateyousei(AT)office.hiroshima-u.ac.jp
*(AT)は半角の@に変換してください。
TEL:082-424-4564


up