【2024/5/15開催報告】第1ターム キャリアマネジメントセミナー「行政機関でのキャリア形成」を開催しました

2024年5月15日、Zoomと対面(総合科学部K210)の同時双方向形式にて、キャリアマネジメントセミナー「行政機関でのキャリア形成」を開催しました。

【講 師】文部科学省 鈴野 光史 氏
【参加者】37名(対面:16名、オンライン:21名)

概要

教育、科学技術・学術、スポーツ、文化の振興など幅広い分野を担う文部科学省において、本セミナーの講師である鈴野氏は、主に科学技術分野に携わられてきました。本セミナーでは、ご自身が関わられている業務と文部科学省におけるキャリアパスについてお話いただきました。

まず、ご自身が文部科学省に入省したきっかけについて、簡単に紹介されました。
大学院で太陽電池・LEDの研究をされていた氏は、博士課程在籍時に米国へ留学されました。その際に、留学先の大学で培った経験などをふまえ、「海外に行きたい」「最先端の研究開発に幅広く携わり、イノベーションに貢献したい」「大学の研究環境を抜本的に改善したい」「大学と政府が同じ方向を向けるようにしたい」という思いを抱いたそうです。これらの思いに応えることができる場として、文部科学省を選択したのだとお話されました。

次に、ご自身が文部科学省で取り組まれている「科学技術・イノベーション政策」について概要を説明されました。
第二次世界大戦以降、基礎研究の推進・国家基幹技術の開発から始まった日本の科学技術・イノベーション政策は、時流に応じて役割が追加されていき、現在では社会変革のためのツールとしての役割も求められるようになっています。氏は、複数の世界的な指針を例に挙げながら、日本の科学技術・イノベーション政策が世界的な潮流に則りながら展開していることについて、お話されました。また、「フージョンエネルギー・イノベーション戦略」や、ご自身が国家予算の獲得などにかかわられてきた「ムーンショット型研究開発制度」など、近年、文部科学省が主導して行っている科学技術・イノベーション事業についても具体的にお話されました。
現在の日本の科学技術・イノベーション政策は、「科学技術基本法」に則り、5年ごとに基本計画が策定されるかたちで進められています。第5期(2016年4月~2021年4月)には、現在の技術発展の状況、GDPの推移、人口推移状況、などに鑑み、人間中心の社会(「創造社会」)を目指した「Society 5.0」が提言され、第6期にあたる現在まで、実現に向けた政策が推進されています。現在では、「Society 5.0」が日本の国家全体の成長戦略の目標にも据えられるようになっており、予算が大きく割かれるようになるなどのかたちで、科学技術・イノベーション政策が重視されるようになってきています。

文部科学省は、政府全体の科学技術政策関係予算のうち50%以上を所管しています。では、具体的に文部科学省ではどのような政策に取り組んでいるのでしょうか。この点について、鈴野氏がかかわった政策を事例に紹介されました。
まずは、研究大学・研究人材育成政策について話されました。日本の研究開発投資は他国と比べて伸び悩んでいます。また、博士課程進学者数の減少に伴い、革新的な研究に取り組むことができると考えられている若手研究者の割合も減少しています。さらに、学術論文についても、質的に相対的な地位が低下しています。このような状況に対応するために、これまで「世界と伍する研究大学の実現に向けた大学ファンドの創設」などでトップ大学への支援が強化されてきましたが、中堅層の大学の研究力も向上させる必要があると考えられました。そこで策定されたのが、「地域中核・特色ある研究大学総合振興パッケージ」です。このようなトップ層・中堅層の大学双方を支援する政策により、科学技術の発展がめざされています。また、博士課程学生への支援も、大学への支援に類する考えで拡充されています。例えば、トップ層への支援である特別研究員事業(DC)に加え、大学をとおした支援であるSPRINGなどをスタートさせました。
次に、産学連携進行政策について話されました。現在、大学発ベンチャーが広がってきている一方、日本では他国と比較すると活動率が低いという課題が存在していました。このような課題を解決に導くために、都市という単位に着目したスタートアップ・エコシステム拠点形成に関する政策が立ち上がりました。現在は、スタートアップ関連の予算が大幅に増額されるなど、状況の進展が見られています。また、産学連携支援施策が複線的、時限的に展開されているため、持続性に欠けるという課題を解決するため、近年、産学連携支援が一本化されるなどの改革も進んでいます。
最後に、宇宙政策について簡単に話されました。宇宙関連事業を国家のみが抱えるのではなく、民間企業との共同で遂行することを目指した政策について説明されました。

最後に、文部科学省におけるキャリアパスについて説明されました。
入省後すぐに政策立案に関する「大きな仕事」ができる文部科学省では、数年ごとに異動を重ね、様々な業務を担っていくことによってキャリアを積み重ねていきます。また、文部科学省では博士人材が強く求められており、博士号取得者の給与体系も更新されされ、現在、鈴野氏を含めた博士人材がご活躍されています。

質疑応答では、「博士課程では、研究のなかで社会実装まで求められることが少ないように感じる。しかし、博士人材として社会に出たら研究の社会実装が求められるようだ、ということをこれまでのセミナー登壇者のお話から推察している。文部科学省として、博士人材にはどのような資質・能力を求めるか?」「鈴野氏は、理系の研究分野出身者として、人文系の研究分野についてどのようなものとしてとらえているのか?」など、活発なやりとりがありました。

「大きなことがしたい」という思いで文部科学省に入省された鈴野氏。氏のかかわってきた政策は、大学で学ぶ私たちにも耳なじみがあるような、大きな影響力をもつものばかりでした。行政機関という大きな影響力をもつ場において、博士人材として活躍されている鈴野氏のキャリアを参考に、今後も博士人材としてのキャリアパスについて考えを深めてまいります。

(文責:人間社会科学研究科博士課程後期3年 武島千明)

【お問い合わせ先】
広島大学グローバルキャリアデザインセンター(担当 田中)
E-mail:wakateyousei(AT)office.hiroshima-u.ac.jp
*(AT)は半角の@に変換してください。
TEL:082-424-4564


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