2024年5月22日、Zoomと対面(総合科学部K210)の同時双方向形式にて、キャリアマネジメントセミナー「教育サービス業界でのキャリア形成」を開催しました。
【講 師】戸田工業株式会社 岡崎 精二 氏、志茂 伸哉 氏、阿川 恵梨 氏
【参加者】22名(対面:15名、オンライン:7名)
概要
戸田工業株式会社は、広島市に本社を構える無機化学品製造の会社です。微粒子合成技術を活用・応用し、現在まで様々な製品を生産されています。今回の登壇者である岡崎さまをはじめ、博士号取得者も多数活躍しており、国内外の製造拠点において研究活動に従事されています。
まず、志茂氏より、戸田工業株式会社の会社概要が紹介されました。戸田工業株式会社は、1823年に創業した歴史ある会社です。顔料などに用いられる「ベンガラ(Fe2O3)」の生産で興ったものの、1960年代には製造過程で生じる物質により公害問題を発生させてしまいました。公害の克服を目指して開発された酸化鉄の製造法である「湿式合成法」は、戸田工業株式会社の製造技術を押しあげ、多様な酸化鉄の製造を可能にしました。従来的な「焼成合成法」ではかなわなかった粒子のコントロールが容易になったためです。
現在では、湿式合成法により製造された質の高い製品の特長を活かして、自動車や家電、塗料などに用いられる素材などを製造されています。また、近年では次世代事業として環境関連材料の開発にも着手され、経営拡大を視野に成長し続けておられるそうです。
次に、岡崎氏より、①博士号取得者であるご自身が積まれてきたキャリアやご経験、②研究開発から事業化にいたるまでにたどる道のり、③未来を予想して思考することの重要性、④氏が現在あたられている業務テーマ、の4点についてお話いただきました。
まず、「博士号取得者であるご自身が積まれてきたキャリアやご経験」についてお話されました。岡崎氏は、広島大学の工学部で学ばれたのちに、戸田工業株式会社へ入社され、社会人になってから博士号を取得されました。博士号取得者には様々なタイプの方がいるなかで、ご自身のことを「大学での専門分野を活かし、様々な開発・事業に向けて社内での業務に従事」されてきたタイプであると分析されています。1995年に入社されて以降、会社の主力製品であり、セラミックコンデンサなどの材料となる「チタン酸バリウム」の開発から量産検討までかかわり続けるなど、多様な材料の開発や製造にかかわられているためです。
次に、「研究開発から事業化にいたるまでにたどる道のり」についてお話されました。氏は、企業が技術経営で直面する障壁を説明した「魔の川」「死の谷」「ダーウィンの海」という言葉について紹介されました。また、ご自身がかかわっておられるCNTに関する事業が、開発から15年以上をかけ、ようやく最終段階である「ダーウィンの海」に突入できたことを例に、これらの障壁をすべて抜け出すまでに非常に長い年月を要することも説明されました。しかし、製品にもライフサイクルがあります。そのため、「ダーウィンの海」を抜け出してもいずれ製品には衰退期がやってくること、それゆえに将来を見越して「魔の川」を早く抜け出すことが必要であることもお話されました。
その後、「未来を予想して思考することの重要性」についてお話されました。約50年前にOMRONの経営陣によって提唱された「SINIC理論」や、約100年前に報知新聞で予想された「二十世紀の予言」などを例に挙げ、未来について予想するプロセスと〈仮説-検証-仮説の修正〉のプロセスをたどる科学的思考との類似性について説明されました。また、SINIC理論では、「社会の変貌」と「新しい科学への期待」の2つの方向性が相関することによって社会発展がなされていくと考えられていることを前提に、ご自身が商品化にかかわってきた材料がどのように開発されるにいたったプロセスについてお話されました。
最後に、「岡崎氏が現在あたられている業務テーマ」について、カーボンナノチューブ(CNT)に関する業務と材料製造装置のスケールアップに関する業務を具体例にお話されました。まずCNTについて、現在、氏は多層化されたCNTの開発をテーマに業務へあたられています。軽量性と耐久性の高いCNTの開発は、「宇宙エレベーター」の実現など、壮大な「夢」にも寄与する可能性をはらんでいます。しかし、従来的な製造方法(メタン水蒸気改質)では、化合の過程でCO2が発生してしまうという課題が残っています。カーボンニュートラルへの貢献も目指し、戸田工業株式会社では新たな方法(メタン直接改質)によりカーボンニュートラルにも貢献できるCNT開発を目指されているそうです。また、戸田工業株式会社のCNTは他社のCNTと比較し、分散性の高さが特徴です。その商品特性を偶然的なものにとどめるのではなく、実証することにも氏らは取り組まれてきたとお話されました。また、装置のスケールアップについて、ご自身の大学における学びと結びつけながら、実用化に向けて具体的な取り組みのフェーズに入られているということをお話されました。
質疑応答では、「今後、科学や社会の未来を予想する際、どのように予想していくべきだと考えられているのか?」などが議論されました。
岡崎氏は講義のなかで頻繁に、「なぜ?」という問いを投げかけておられました。直接研究活動にかかわる場面以外でも問いを大切にされている氏のすがたからは、博士課程での研究生活で得られた論理的思考力を垣間見ることができました。岡崎氏のすがたを参考に、今後も博士人材としての強みを深めてまいります。
(文責:人間社会科学研究科博士課程後期3年 武島千明)
【お問い合わせ先】
広島大学グローバルキャリアデザインセンター(担当 田中)
E-mail:wakateyousei(AT)office.hiroshima-u.ac.jp
*(AT)は半角の@に変換してください。
TEL:082-424-4564