松山 健悟(M1)

先端物質科学研究科(量子物質科学)-博士課程前期1年(2019年3月現在)

派遣先:グリフィス大学 量子動力学研究センター
派遣国:オーストラリア
派遣期間:2019.3.3~2019.5.6

1)派遣国について 

 治安は非常に良かった。特に誰かが争っているような場面を目撃したこともなかったし、近くでパトカーの音を聞いたのも1~2週間に1度ぐらいだった。
日本の文化に興味を持っている学生が多かった。様々な人種・文化の坩堝だけあって、他人を尊重する傾向がある。(特に相手の容姿についてとやかく言うことをタブーとする風潮を感じた。)

*休日に外に遊びに行ったときに撮影した、ブリスベンの街並み。妙にでかいキックボードにのった通行人を多く見かけた。

2)現地での生活や文化について 

ブリスベン空港に到着してすぐにボーダフォン (Vodafone)社のポケットWi-Fiを購入した。料金は利用する分だけ支払うプリペイド式な上に、アプリを通していつでも利用可能通信量を補充できるため、使い勝手が良かった。滞在期間中は観光や食料の買い出し時に活躍した。

日本では法律上利用することができない白タクシーは、オーストラリアではUberタクシーという形で利用することができ、行きと帰りのブリスベン空港・グリフィス大学間の移動は、Uberを利用した。
実際に利用するまでは、悪徳ドライバーに全ての荷物をパクられてしまうのではないかと心配だったが、UberタクシーではドライバーごとにIDが設定されており、これまでの利用客の評価を閲覧することができる(通販でのレビューのようなもの)ため、ある意味公共のタクシーよりも信頼できるかもしれない。行きも帰りもドライバーは気さくな方で、移動中ずっと気まずい雰囲気だったらどうしようなどと心配する必要はなかった。
「ブリスベンには毒を持った超危険な蜘蛛がいるから注意してくれ」(本当かどうかは分からない)と言われたので、「じゃあそいつに齧られたらスパイダーマンになっちまうかもな」のように返すと「ははは! 君、なかなかおもしろいこと言うじゃないか」というような会話が繰り広げられた(滞在中にそのような蜘蛛に遭遇することはなかった)。

先方の指導教員に一番最初に告げられたのは、オーストラリアは非常にインフォーマルな国であるため、例え指導教員であってもファーストネームで呼ぶようにしてくれ、ということであった。むしろついうっかり研究室の同僚をMs.やMr.をつけて読んでしまった時は、顔をしかめられてしまったため、郷に入っては郷に従えの精神でファーストネームやあだ名で呼びあうようにするとよい。

共同の学生寮では無料のWi-Fiを利用することができた。オープンな状態にあったため、重要な個人情報は極力そのWi-Fiを通して入力しないほうがよい。たまに繋がりにくくなることはあったが、スカイプでの通話も問題なくできるほど、普段は困ることはなかった。研究施設でのWi-Fiは大学の構成員しか使えないようになっており、高速で、快適に使うことができた。

学生寮への手続きは、事前に先方の指導教員に学生寮を利用したいとの旨を伝えると、先方大学の学生支援室の方が案内してくれた。シャワー、キッチン、ベッドルーム全てがプライベートまたはベッドルームだけがプライベートという2つの選択肢があるが、他国からの留学生とのコミュニケーションをする機会を増やすためにも、後者の選択肢をお勧めしたい。

学生寮から近くのショッピングモールへ食糧の買い出しに行く際には、公共のバスを利用した。オーストラリアでは、支払い手続きを円滑にするためのカードとしてGo Cardというものがあり(日本でいうところのパスピー)、このカードそのものと料金のチャージは大学の売店のようなところ(広大での生協)ですることができた。

休日は、できれば現地ならではのことをやったほうが良い(観光、現地人とのコミュニケーションなど)。 物価が少し高いからと言って食事をケチっていると、普段から元気がなくなってくるので、しっかり栄養の良いものを食べるべき。長い文章を英語で話す機会はなかったし、チップを渡す機会もなかった。
 財布は使わないときは、すぐに人の目に触れないところに隠すべき。今回の留学では特にトラブルはなかったが、お金を沢山持っているかのような、もしくはそれが分かるような言動は控えた方が良いかもしれない。

*ネイサンキャンパス内で見かけた鳥とトカゲ。どちらも1mほどあり、とてもでかい。グリフィス大学に到着してから、研究施設まで案内してくれたおじさんに、「あの鳥やトカゲは捕まえても大丈夫か?」と尋ねると「君がやつらを捕まえると警察も君を捕まえることになるが大丈夫か?」と言われた(本当かどうかは分からない)ため、指一本触れないように気を付けた。
*研究室の同僚に誘われて参加したバーティ会場の庭にいたカンガルー。ちなみに、ブリスベンでは、牛肉と同じぐらいの値段でカンガルーの肉も買うことができるが、牛肉の方が美味であった。(あくまでも個人的な感想)。

3)派遣先について

 本インターンシップでの派遣先である、量子動力学研究センターでは、量子力学の基礎研究や様々な量子技術を取り入れた融合分野の応用研究が、理論的・実験的に行われている。今回のお世話になった研究グループは光を用いた量子力学の基礎研究を行っており、目指しているものは僕自身の研究テーマとほぼ同じである。
 日本人駐在員が同じ研究施設に少なくとも1人はいたようだが、話をする機会はなかった。渡航時期は3~5月だったため、オーストラリアでは秋にあたり、気温は暑くて30度前後、寒くて20度前後だった。研究室内、バス中は冷房がガンガン効いているため、寒さに弱い人は軽く上から着られるようなものを準備しておくと良いかもしれない。研究機関は利用した学生寮から歩いて5分ぐらいの場所にあったため、実験をするとき以外はサンダルでも問題なかった。

*学生寮の中の個室と、グリフィス大学ネイサンキャンパスの中の自動販売機。飲み物のみならず、お菓子もあるが、他の店で売っているものと比べて料金は高め。

*度が強いお酒を飲んでしかめっ面をする僕を見てほくそ笑む同僚。
*学生寮の同じフロアの学生にふるまった寿司とパフェ。

僕の同僚の中には、日本人=寿司が作れる、という謎の固定観念があった。学生寮の同僚から「ジャック、(ジャックは僕の現地でのコードネーム。研究室の同僚にも学生寮の同僚にもそのように呼ぶように頼んだ)日本人なら寿司を作れるだろ?」と頼まれた時は「そんなわけないだろ」と答えようと思ったが、それではコミュニケーションが終わってしまうし、何より現地では寿司と呼んでいいのか分からないようなものを売っている店(お米の上にフルーツやチョコが乗ったようなもの)があったため、「任せろ。本物の寿司とは何かを教えてやる」と返答し、寿司を振る舞った(ちなみにオーストラリアでは巻きずしがメジャーなようだ。写真にあるような巻きずしを作るための道具は、現地のダイソーで購入することができる。醤油やマヨネーズをもダイソーで買うことができたが、同僚曰く、醤油は辛すぎるらしい。
マヨネーズは好評であった。キューピーマヨネーズのことをキューパイと呼ぶ輩が多かったため、しっかりとキューピーであることを強調しておいた)。
写真になるようなデザートを振る舞うこともあった。これを機にデザートマスタージャックと呼ばれるようになると同時に、それぞれの同僚がそれぞれの出身国ならではの料理や得意料理をみんなに振る舞うような風習が生まれた。
本当にいい同僚に恵まれたと思う(冷蔵庫は共同で使っているため、僕が買ったオレンジジュースが少し減っているのを見た時はトラップでも仕掛けて犯人を特定してやろうかとも考えたが、実家でも兄弟に同じようなことをされることがあると考えるとしょうがない奴だな、と許すことができた)。

4)研修内容について

上記研究所の一員として、研究計画を進めながら光学に関する応用研究に関する知識や技術を学ぶとともに、海外の学生との英語での議論を通して自身の知見を広げた。本留学で利用した共有学生寮では、様々な国の学生と交流することで世界から見た日本の立場や、それぞれの国の常識との違いを経験した。具体的な研究内容としては、光パルスのファストスイッチングに向けた光学系とエレクトロニクスの整備、およびポッケルスセルドライバー、光ダイオード検出器の応答確認とCWレーザーを用いた試験実験を行った。

 光学素子の取り扱いに関する経験についてはすでにある程度あったため、研究の目的・内容を先方の指導教員・同僚から聞いてからの実験への移行はスムーズに行うことができた。研究室内での基本的なルールを確認した後は、大体ずっと1人で課題解決に明け暮れる毎日であった。問題点の議論・進捗報告を同僚・指導教員にすることももちろんあったが、研究室の同僚や指導教員は僕のカタコト英語も真摯に聞いてくれた。

帰国まで1週間ほどの時期に、それまでやってきたことをまとめたプレゼンテーションをする機会を作ってもらい、研究室の同僚と指導教員の前で発表を行った。緊張して過呼吸になってしまうなどのトラブルもなく、何を考え、どのように実験を進めてきたかが伝わったようでよかった。

*研究室の実験室での作業中に撮影した写真

5)このインターンで1番得たもの

異文化交流の経験、というのが最も大きかったように思う。
それは単に外国の人たちと話をする、ということに留まらない(話をするだけであれば、日本国内でも可能である)。
当然であるが、それぞれの国にはそれぞれの国に特有の文化・常識・雰囲気というものがある。それを肌身で感じることができるのは、その国に行った者の特権と言えるのではないだろうか。
例え流ちょうに外国語を扱うことができなくても、お互いに相手を知ろうと思えば分かりあうことができる、という経験は実際にするとしないとでは天地ほどの差がある。この感覚は渡航前後に起きた心境の変化の中で最も大きなものである。
交流によって様々な考え方・視点を得たことで、もっと広い目で物事を考えられるようになったように思う。

6)インターン経験を今後どのように生かしていきたいですか?

今回新しいことに挑戦して得られたものは想像以上であった。今後もそのような機会が訪れる(もしくは自分から飛び込む)ことは何度もあるだろう。そんな時、例え不安を完全に払しょくすることはできなくても、きっと今回のインターン経験が背中を押してくれるだろうと確信している。
意図的に生かすものではなく、自動的に生かされるものではないかと思う。

7)  未来の派遣学生にむけて、事前準備や注意点などがあれば教えてください。

査証に関しては滞在期間が3ヶ月未満ということで、「ETA subclass 601」を取得するよう、グリフィス大学のImmigration & Relocation Adviserから指示があった。日本から持っていくべきものに関する準備については、事前にいろいろなインターネットサイトで調べておき、みんなが必要だと言っているものだけを持っていくようにするとよい。リストを作っておくと、効率よく準備することができる。

研究をする時間が明確に決められているわけではないが、同じ研究室の同僚を心配させないためにも大体同じ時間に出勤、帰宅をするべき。大事なことに関しては例えジェスチャーや絵を使ってでもしっかり伝え方がよい。長時間不在になる場合や休みが必要なときは必ず連絡を入れる。研究に関しては、自分の意見をはっきりと持つ事が重要。

周りの様々なことをサポートしてくださる方々には大いに頼るべきであるが、やはり最終的には自分でしっかりと考え、判断を下すようにすべき。周りに言われたからやった、という受け身の心持では、せっかくの貴重な経験も霞んでしまうだろう。
予想通りにいかなかったら後悔するだろうと考えるのではなく、予想通りにいかないことこそがいい経験、と考えると前向きになれるだろう。

8) 後輩の方々へ一言メッセージを・・・

何事も楽しめるように工夫できれば、全てうまくいくのではないだろうか。


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