ジェット天体を分類するための特徴抽出

(2020年10月6日)

ブラックホールから出ている細く絞られたプラズマの噴流「ジェット」。その発生機構は現代天文学の未解決問題の1つです。そのジェットを研究するのに適した天体「ブレーザー」には明るい「クェーサー型」(Flat Spectrum Radio Quasar; FSRQ)と暗い「とかげ座BL型」(BL Lac object)の2種類が知られています。広島大学「かなた望遠鏡」でこれらの天体を観測していると、クェーサー型はたまに突然明るくなる一方で、とかげ座BL型は常に不規則に明るさが変わるなど、2つの型で異なる挙動をしているように見えます。その違いから、ジェットの謎に迫れないかと考えたのが本研究の動機でした。

この研究には2つの難しさがあります。1つは不規則な明るさの変化をどのように数値として特徴付けるか、という問題です。私たちはオルンスタイン・ウーレンベック(OU)過程という確率過程モデルの一種をデータに当てはめ、時間変動のタイムスケールや大きさ、さらにはそれを応用して時間変化の非定常性などを数値化し、データを特徴付ける量として抽出しました。データはかなた望遠鏡がこれまでに得た18天体の光度と偏光のデータを1年ずつに分割して38のサンプルを作り、それぞれから9つの特徴量を抽出しました。もう1つの問題は、そのようにして抽出された特徴量のうち、どの組み合わせが2つの型の違いをよく表すのかという問題です。この問題に対しては、機械判別のモデルであるスパースロジスティック回帰を利用し、性能の良い判別モデルを作る特徴量の組み合わせこそが、2つの型の違いをよく表すものだと考えました。

解析の結果、時間変動の大きさ、タイムスケール、非定常性、偏光度の平均値が2つの種類を特徴付けるのに重要であることがわかりました。このうち最初の3つは光を放射している電子のエネルギーの違いで説明できます。平均偏光度がクェーサー型は低く、とかげ座BL型で高い傾向にあることは以前から気づいてはいましたが、それが定量的に確認された結果です。この結果は、とかげ座BL型にはクェーサー型には存在しない「常に明るい光源」がジェットに存在していることを示唆し、ジェットに関する新たな知見となりました。

データを人間が目で見て気づいた点を、OU過程や機械判別などの新しい手法で定量的に確認するという、解析手法の点でも新しい研究でした。

植村誠(宇宙科学センター 准教授)

論文へのリンク:Uemura, M., Abe, T., Yamada, Y. & Ikeda, S., "Feature selection for classification of blazars based on optical photometric and polarimetric time-series data", PASJ, 72, 74, 2020

変動の大きさ(横軸)と平均偏光度(縦軸)の散布図。クェーサー型(青)は変動が大きく、平均偏光度が低い傾向にあり、とかげ座BL型(オレンジ・赤)は変動が小さく、高い傾向にある。このような目で見て気づいた傾向を定量的に確認したことが本研究の重要な成果である。


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