光学系

1.5m望遠鏡の光学系には、球面収差とコマ収差を除去し、広い視野にわたって良好な天体像を形成するリッチー・クレティアン系が採用されています。カセグレン焦点における視野は15分角で、視野全面に亘り1秒角以内(FWHM)の星像が得られます。
なお、副鏡が2007年7月に新しく無膨張セラミック材で作られたものに交換されました。これは、大型の鏡を作る工程を大幅に短縮する候補材として将来の超大型望遠鏡での採用が期待されている素材です。特に問題が無い限り、今後もこのセラミック鏡を用いる予定です。このセラミック鏡面の形状はこれまで使っていたものと若干異なるため、望遠鏡全体の光学パラメータもわずかに変わっています。セラミック鏡を用いた場合の光学パラメータは、以下の文中で括弧書きで記してあります。
光学系の配置と、主鏡・副鏡の鏡面座標式を以下に示します。

光学系の配置図

光学系の配置と鏡面座標の式(国立天文台 提供)

 

主鏡

主鏡は有効径が1.5m(1.54m)の凹面鏡で、F比は2.0(1.95)、焦点距離は3.0m(3.0m)となっています。鏡材には、すばる望遠鏡と同様に、コーニング社(米国)製のULE(超低膨張ガラス)が使われていて、温度変化による結像性能の悪化はほとんどありません。鏡材そのものの実直径は1.6mあります。その中央を直径25cmのカセグレン穴が貫通していて、厚さは約20cmです。主鏡重量は983kg、乗用車1台分の重さがあります。鏡材は、コーニング社で製作された後、これまたすばる望遠鏡と同じ、コントラベス社(米国)で研磨されました。主鏡面にはアルミニウム蒸着が施されています。
 

副鏡、第3鏡

副鏡(新セラミック副鏡)は、有効径が302.8mm(323.2mm)、中央部の厚みが50mmの凸面鏡です。副鏡は、3軸に平行移動できるXYZステージに搭載されていて、ストロークはXY軸が8mm、Z軸が18mmとなっており、光軸調整やフォーカス調整に用いられています。なお、副鏡中心で望遠鏡入射光が到達しない部分に、直径64mm、頂角170°の円錐反射鏡を取り付けて、観測機器から放射される熱雑音を望遠鏡外に反射できるようになっています。これは赤外線観測で威力を発揮します。ナスミス焦点で観測する際に用いられる第3鏡は、長径290mm、短径210mmの楕円径をした平面鏡で、望遠鏡の光学軸に45°傾けて取り付けられます。副鏡と第3鏡は、これまで赤外線観測で有利な金が蒸着されていましたが、広島では可視光の波長が短い領域での観測も行うことから、主鏡と同じアルミニウム蒸着され、さらにSiO2コートが施されています。
 

総合光学性能

合成F値は、カセグレン、ナスミス焦点共にF/12.2(12.01)で、合成焦点距離は18300mm(18501.7mm)となっています。焦点面上に投影された天球のスケールは、1mmあたり11.27秒角(11.15秒角)、あるいは1秒角あたり88.7μm(89.7μm)となります。視野は15分角です。

コントラベス社が干渉計を用いて測定したカセグレン焦点の波面収差は、波長λ=0.63μmの光に対して、P-V値で0.32λ、RMS値で0.049λとなっています。また、表ほか(1998)が行ったハルトマン・テストでは、1.5m望遠鏡のカセグレン焦点におけるハルトマン定数0.35秒角が得られています。本望遠鏡の光学系は、サブアークセコンド(1秒角を下回る状況)のシーイング環境下でも十分な性能を発揮してくれます。東広島天文台におけるハルトマン定数測定においては、旧副鏡、新副鏡ともに0.30-0.32秒角という値が得られています。


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