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[研究成果]ブラックホールからの宇宙ジェット:フレア期と静穏期で異なる増光メカニズム



伊藤亮介(研究員)

銀河の中には、中心部に超巨大ブラックホール(太陽質量の100万倍以上)があるものが存在します。なかでも”ジェット”と呼ばれるプラズマの噴出流を持ち、非常に活発な活動が知られているブレーザー天体は、宇宙における粒子加速や物質循環などに大きな役割を果たすと考えられていますが、その加速機構や構造は未だ多くの謎に包まれています。

2010年1月、ブレーザー天体Mrk 421は非常に大きなX線フレアを引き起こしました。これに合わせ、広島大学かなた望遠鏡を含む世界中の望遠鏡によるキャンペーン観測が実施されました。かなた望遠鏡HOWPol検出器は、世界的に見ても稀な偏光観測が可能な装置です。ブレーザー天体からの放射は可視光ではシンクロトロン放射が支配的であり、偏光観測はジェットにおける磁場構造や増光メカニズムの解明に役立つと期待されています。図はMrk 421のX線フレア期と静穏期の偏光の振る舞いの違いを示しています。従来、X線で明るいブレーザー天体は偏光変動が小さいと考えられてきましたが、今回のX線フレア時では増光に伴った偏光変動が観測されました。また、Swift衛星によるX線や紫外線との同時観測の結果、フレア期と静穏期で異なる増光メカニズムを持つことが示唆されました。この研究は広島大学、京都大学の研究者による共同研究で、2015年6月発行の「Publications of Astronomical Society of Japan」 2015年第67巻3号で発表されました。
今後も、かなた望遠鏡と人工衛星、世界中の望遠鏡との連携観測によるジェットの更なる詳細な構造解明を目指したいと考えています。
左図:かなた望遠鏡HOWPolでみたブレーザー天体Mrk 421。非常に遠方に位置するため、銀河の形ははっきり見えず、"恒星状"に見える。
右図:ブレーザー天体Mrk 421の偏光変動の様子。原点(Q, U = 0)に近いほど、偏光度が小さい。赤のデータ点がX線フレア期、黒のデータ点が静穏期を示す。


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