[研究成果]スパースモデリングを使った超新星の明るさを決める変数の選択



植村誠(准教授)

2011年のノーベル物理学賞は宇宙が加速的に膨張していることを発見した研究に贈られました。このような宇宙の膨張は、遠くの銀河までの距離とその速度から調べることができます。銀河までの距離を知る上で重要な役割を果たすのが「Ia型超新星」と呼ばれる天体です。この超新星は本来の明るさがどの天体もほぼ同じであるため、地球から見たときの明るさから、超新星まで、ひいては超新星が起きている銀河までの距離を推定することができます。したがって、超新星の明るさを正確に決めることは重要な問題で、超新星のどのような観測量を使って補正すればより正確な明るさを決めることができるか、これまで多くの研究がなされ、多くの変数(観測量)の候補が提案されてきました。

しかしその結果、最近では変数の候補の数が増え、超新星の観測サンプル数よりも多くなってしまいました。少ないデータからより多くの情報を知ることは一般的には不可能です。しかし、私たちは最近注目されている「スパースモデリング」の技術を応用し、この問題に新しいアプローチで迫りました。超新星の明るさを決める変数の候補はたくさんありますが、本当の変数はせいぜい数個のはずです。スパースモデリングでは、必要の無い変数を棄てて、必要な数個の変数のみを見つけ出すことによって、少ないデータからでも答えを推定することができます。その結果、超新星の明るさは、以前から提案されてきた「色」と「減光速度」の2つの変数で補正するのが良く、最近提案されてきた他の様々な変数を加えても、精度は有意には改善しないことがわかりました。これまでの議論に一石を投じる結果になったと共に、適切な解析手法を用いることの重要性が示されました。この結果は広島大学、京都大学、統計数理研究所の共同研究で、2015年6月発行の「Publications of Astronomical Society of Japan」 2015年第67巻3号で発表されました。

スパースモデリングについては、2015年8月23日にNHK「サイエンスZERO」で特集されました。私たちはスパースモデリングを軸に、天文学と情報科学の融合を今後も進めていきたいと考えています。

左図:Ia型超新星のスペクトルのサンプル。最近の研究ではこのスペクトルデータからいずれかの波長での値が超新星の明るさを補正するための良い変数であると考えられ、もっとも良い変数を探す研究がなされてきた。私たちの研究結果では、いずれのスペクトルデータも良い変数にはならないことが示された。


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