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[研究成果]すばる望遠鏡で銀河から吹き出す激しい風をとらえる!-銀河風の構造に刻まれた銀河合体とスターバーストの歴史-



吉田道利(教授)

広い宇宙にはあまたの銀河が存在します。銀河は恒星とガスの大集団であり、一つの銀河の中には何億個もの恒星があります。私たちの太陽系も、天の川銀河と呼ばれる巨大な銀河に属しています。銀河が宇宙の中でどのように生まれ、現在の姿に至ったのか、その詳細はまだよく分かっていません。時間とともに銀河が変化していくことを「銀河の進化」と呼びますが、銀河進化の解明は現代天文学の最大の研究テーマの一つです。

銀河は進化の途中で非常に激しい勢いで大量の恒星を作ることがあると考えられています。この激しい星生成活動のことを「スターバースト」と言います。私たちの住む天の川銀河の星生成率は、銀河系全体で1年間に太陽が一つ生まれる程度だと考えられていますが、スターバーストを起こしている銀河(スターバースト銀河)では、この10倍以上の生成率で星が生まれています。何らかのきっかけでスターバーストが起きると、大量に生成された大質量星が死ぬときの超新星爆発によって、銀河中のガスが銀河の外に吹き飛ばされてしまう現象=銀河風が生じます。銀河風は、銀河内のガスを外に吹き飛ばしてしまうので、銀河は大量のガスを失い、星生成活動が急速に停止します。また、銀河内の金属を豊富に含むガスを銀河の周囲に撒き散らします。こうして、スターバーストによる銀河風は銀河進化と銀河外のガスの進化に大きな影響を与えると考えられています。

大規模なスターバーストが起こる要因の一つは、銀河同士の衝突・合体です。今回、私たちの研究チームは、近傍宇宙で最も明るいスターバースト銀河の一つであるNGC6240という合体銀河について、すばる望遠鏡を用いて詳細な観測を行いました。銀河風を構成する電離ガスを捉えるための特殊なフィルターを装着して観測し、銀河風の構造とスターバーストの歴史を明らかにしようとしたのです。観測の結果、複雑な構造を持つ巨大な電離ガスの様子がNGC6240の中に浮かび上がってきました。電離ガスの差渡しは30万光年にも及び、X線を放射する高温ガスと共存していることもわかりました。これほど淡いところまではっきりと内部構造が捉えられたのはこれが初めてです。

得られたデータを詳細に解析した結果、NGC6240は過去に少なくとも3回の激しいスターバーストを起こしており、各々のスターバーストによって発生した銀河風が、今回明らかになった複雑な電離ガス構造を形成したことが分かりました。最も古いスターバーストは今から約8千万年前に起こっています。NGC6240の銀河合体は約10億年前に始まったと考えられているため、今回の結果は、銀河合体がかなり進んだ段階で突然スターバーストが引き起こされたことを示しています。これらの結果は、今後、銀河合体を通じた銀河進化の研究に貴重な示唆を与えるものと期待されます。

図の説明:

すばる望遠鏡の観測で得られたNGC6240のカラー写真(左)。中央に写る大きな縦長の「S字」型をした白っぽいものが銀河本体で、銀河同士の合体によって形が崩れています。銀河本体から左右に銀河風を構成する電離ガス(赤いもやもやしたもの)が吹き出しているのが見えます。真ん中の写真は、銀河本体を画像処理で差し引き、銀河風の電離ガスだけを取り出したものです。銀河風の複雑な構造がよくわかります。銀河風の差渡しは30万光年(私たちの住む天の川銀河の3倍の大きさ)に及んでいます。この写真の解析から、銀河風とスターバーストの歴史が明らかになりました。右側の写真はX線観測衛星チャンドラで撮られたX線写真で、銀河風の高温ガスの広がりを示しています。すばる望遠鏡による電離ガス分布(真ん中の写真)とよく似ており、電離ガスと高温ガスが共存している様子が明らかになりました。

この研究成果は、アメリカ天文学会の天体物理学誌『The Astrophysical Jouranal』に掲載予定です。また、この研究成果は、日本学術振興会の科学研究費補助金23244030、15H02069、文部科学省科学研究費補助金24103003のサポートを受けています。

広島大学広報ページ
国立天文台広報ページ


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