かなた望遠鏡含む地上望遠鏡による小惑星リュウグウの偏光観測

本研究成果のポイント

広島大学宇宙科学センターを含む12の大学・研究機関は、地上望遠鏡による小惑星リュウグウの偏光観測を共同で行いました。その結果、太陽系小天体として記録上最も大きな偏光度を測定するに至りました。その偏光度の値から、「表面を覆う砂粒は、1ミリメートルの数分の1という小惑星としては大きい粒径である」ことを突き止めました。これは、探査機「はやぶさ2」が撮影したリュウグウ表面の画像に見られるように、リュウグウの表面が比較的大きな岩塊を主体として構成されているという結果と理解が一致するものです。今後、「はやぶさ2」がリュウグウから持ち帰った表面物質の分析の結果との比較を通して、リュウグウの姿がより詳しく解き明かされていくことでしょう。この成果は、国際査読雑誌 アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ誌にて発表されました(Kuroda et al. 2021 ApJL 911 L24)。

(左)リュウグウ(赤色;本研究)とその他の太陽系小天体の偏光度と位相角の関係。
(右)本研究で観測に使用した望遠鏡・装置群。左上: かなた望遠鏡+HONIR(広島大学)、右上: なゆた望遠鏡+WFGS2 (兵庫県立大学)、左下: ピリカ望遠鏡+MSI (北海道大学)、右下: 普賢山天文台望遠鏡+TRIPOL#3 (ソウル大学)

概要

「リュウグウ」は、炭素型(C型)という種類に分類される小惑星であり、生命の材料となる有機物を有することが期待される天体として注目を集めています。そのため、JAXAによる探査機「はやぶさ2」が直接訪れて現地での詳細な観測を行った他、表面の物質を採取して地球に持ち帰ることに成功したことでよく知られています。

我々のグループは、広島大学宇宙科学センターが運用する東広島天文台かなた望遠鏡の観測装置「HONIR(オニール)」と、他の日韓3台の望遠鏡・観測装置を用いて、リュウグウの「直線偏光度」の測定を行いました。
我々が目にすることのできる「光」は、単に明るさや色だけでなく、上下左右どの方向に電磁場が振動しているかという「偏光」という情報を持ちます。この「偏光」の度合い(偏光度)は、太陽の光がリュウグウで反射されて地球に届く際に、三者の位置関係(太陽-リュウグウ-地球の成す角度=「位相角」)によって変化します。特にその値は、リュウグウの表面を構成する典型的な粒子の大きさに敏感です。逆に言えば、偏光度の測定から、リュウグウの表面の状態を知ることができるのです。

今回、我々のグループは、位相角が28-104度と大きく変化する広い範囲にわたってリュウグウの偏光度を測定し、(1)位相角の増大とともに偏光度が増加すること、(2)位相角約100度で最大偏光度約50%を示すこと、を明らかにしました。
この50%という偏光度は、かつてPhaethon(ファエトン、フェイトンなど)という小惑星で測定された偏光度を超える、太陽系小天体としては記録上最大のものになりました。また、位相と偏光度の変化を密にかつ連続的に捉えられた天体は少なく、かなた望遠鏡+HONIRのように、優れた望遠鏡と偏光観測装置を有する日韓4台の望遠鏡が緊密に連携したからこそ得られた重要な成果といえます。特にかなた望遠鏡での観測は全26点の観測のうち10点にのぼり、偏光度が最大となる値を決める位相角93-104度の範囲のすべての観測を担うなど、本研究の上で大きな貢献となりました。

さて、今回得られたリュウグウの最大偏光度を、地球に落下した様々な隕石が示す偏光度と比較したところ、リュウグウの表面を覆う砂粒は、1ミリメートルの数分の1という小惑星としては大きい粒径であることが明らかになりました。自転している小惑星の表面は、太陽光があたったり影に隠れたりすることで温度の変化が激しく、その熱膨張・熱収縮の繰り返しで岩石が壊れ、細かい(百分の1~千分の1ミリメートルほどの粒径をもつ)粒子で覆われていると考えられていました。しかし、そのような細かい粒子が存在しないのです。我々の研究の結果から、「細かい粒子がどのようにしてどこに消えたのか」という、新しい謎が提示されることになりました。

「はやぶさ2」がリュウグウから直接持ち帰った物質の分析がいままさに始まろうとしています。その結果との比較によって、我々が地球からの観測で推定したリュウグウの表面の構造について、さらに理解が深まることでしょう。なお、はやぶさ2が持ち帰ったリュウグウの表面物質は、弾丸を打ち込んで表面をえぐって飛散させたものであるため、地下の物質も混ざっていることには注意が必要です。我々の研究は、非破壊状態のリュウグウの表面そのままの状態を観察したことに等しいため、「はやぶさ2」が持ち帰った物質の分析と相補的なものになります。

 

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