広島大学 宇宙科学センター
助教 稲見華恵(いなみ はなえ)
Tel: 082-424-3468 (代表) FAX: 082-424-0717
E-mail: hanae*hiroshima-u.ac.jp
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本学宇宙科学センター助教・稲見華恵、研究員・トーマス・ボーン、大学院生・星岡駿志を含む国際研究チームは、7月に観測開始されたばかりのジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を用い、近傍宇宙にある合体銀河IIZw096を調査し、この銀河の「エンジン」とも言えるエネルギー源の正確な位置を世界で初めて突き止めました。12年前に稲見助教は既にこの銀河には私たちの目には見えない巨大な「エンジン」を持つことをスピッツアー宇宙望遠鏡の赤外線観測により発見していましたが(図1右上)、最先端の赤外線望遠鏡ジェームズ・ウェッブでの観測により、この「エンジン」が位置する場所を初めて正確に捉えることができたのです(図1右下)。12年越しにようやく、ハッブル宇宙望遠鏡やスピッツアー宇宙望遠鏡でさえも叶えなかった成果を得ることが出来ました。
この「エンジン」は銀河全体のエネルギーを支配するほどの巨大なものでありながらも、そのサイズは非常にコンパクトで小さな領域に集中しています。その大きさは570光年以下と見積もられ、銀河全体の大きさ65,000光年の1/100以下の小さな領域に、銀河全体の最大70%に当たるエネルギーが詰まっています。更に面白いことに、このエネルギー源は銀河中心から外れた場所に存在しています。銀河同士が正面衝突している境界面でこういった赤外線でしか見えないエネルギー源が発生することは以前から知られていたのですが、IIZw096のように外れた場所に位置するものは珍しく、今後の調査でその成因の解明が期待されます。
宇宙は一見すると不変不動のように見えますが、実際には銀河同士が衝突して相互作用を起こしダイナミックに変化し続けてきています。宇宙にある銀河の大半は衝突を経験しながら進化しているのです。銀河衝突が起きた際には、激しい星形成や巨大ブラックホールが形成されたり、より大きく成長したりと、銀河の性質に大きな変化をもたらします。宇宙を理解するためにはこの変化を知る必要がありますが、衝突の際に圧縮された銀河がもつガスやダスト(宇宙塵)により紫外線や可視光線は遮断され観測できず、赤外線やより波長の長い光を用いなければ観測することが出来ません。
本研究チームでは、近傍宇宙にある4つの衝突銀河を2022年7月に観測が開始されたジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を用い、世界最高の解像度と感度の赤外線観測を行いました(図2)。そのうちの1つであるIIZw096という衝突銀河を撮像観測により得た成果を本リリースで紹介しています(図1)。
本学宇宙科学センター助教・稲見華恵、研究員・トーマス・ボーン、大学院生・星岡駿志を含む国際研究チームは、7月に観測開始されたばかりのジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の早期科学観測プログラム(*3)により、世界に先駆けて近傍宇宙にある衝突銀河の観測を行いました(図2)。このプログラムでは4つの衝突銀河を対象にしていますが、そのどれもが、人間の目に見える可視光線ではそれほど明るく輝いていませんが、赤外線では非常に明るく見える高光度赤外線銀河です。赤外線の放射源やその成因や性質は未だに分かっていないことも多く、この観測プログラムではその解明を目指しています。
観測ターゲット4つのうちの1つの銀河であるIIZw096という衝突銀河は、稲見助教が12年前にスピッツアー宇宙望遠鏡を用い、ハッブル宇宙望遠鏡でも見えなかった巨大な赤外線エネルギー源の存在を特定していました(*4)。しかし、ハッブル宇宙望遠鏡は中間赤外線よりも長い波長での観測ができず、一方で、赤外線が観測できるスピッツアー宇宙望遠鏡では空間分解能が足りず、放射源の正確な場所やその大きさまで特定することは出来ませんでした(図1右上)。
今回、ハッブルよりも鏡の直径が2.5倍大きく、スピッツアーよりも感度が100倍高い、世界最高の解像度と感度の赤外線観測ができるジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を用いることで、IIZw096のエネルギー源である「エンジン」の正確な位置を世界で初めて突き止めました(図1右下)。直径6.5mもの大きな鏡をもつ世界一大きな赤外線宇宙望遠鏡であるジェームズ・ウェッブだからこそ今回の発見が可能だったのです。ジェームズ・ウェッブは太陽と地球の重力で釣り合いが取れる第2ラグランジュ点にて観測を行っています。
興味深いことに、銀河のエンジンとも言えるこのエネルギー源は、非常にコンパクトで小さな領域に集中していることも本研究で分かりました。そのサイズは大きくても約570光年と見積もられていますが、銀河全体の大きさ65,000光年と比較すると1/100以下でしかありません。これだけ小さな領域で、最大で銀河全体がもつ70%もの赤外線エネルギーを占めるのです。
しかも、この領域は銀河中心から外れた場所に存在しています。これまで見つかった衝突銀河では、銀河中心や衝突している境界面でこういった赤外線による巨大エネルギーが発生しているケースがほとんどでした。今回の衝突銀河IIZw096のように、外れた場所に位置するのにも関わらず、銀河全体からのエネルギーの大半がこの領域から放射されていることは非常に珍しいケースです。ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による分光観測のデータ解析を進め、このエネルギー源の成因や性質の解明を目指しているところです。
小さくとも莫大なエネルギーをもつ「エンジン」が銀河の中心から外れたところに存在するのは珍しく、その起源が何なのか、どのような性質のガスやダストをもつのか等、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による今後の観測結果により、その解明が期待されています。
本研究は、近傍宇宙の高光度赤外線銀河サーベイ観測を行うGOALSプロジェクト(*5)のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の早期科学観測プログラムの一貫として行われました。このプログラムでは、4つの衝突銀河をターゲットにジェームズ・ウェッブによる観測を行っており、本研究での対象であるIIZw096はそのうちの1つです(図2)。
図1. 衝突銀河IIZw096のエネルギーを担う「エンジン」の位置をジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を用いて本研究で発見しました。左図は紫外線と可視光線で見た銀河で、このエネルギー源はダスト(宇宙塵)隠されて見えませんが、右図の赤外線観測によって初めてその存在が確認できました。右上図は12年前にスピッツアー宇宙望遠鏡により得られた赤外線画像で、右下図が今回ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で得られた赤外線画像です。
図2. 本研究は、この図で示す4つの衝突銀河を観測するジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の早期科学観測プログラムの一貫として実施されました。銀河衝突によって星形成やブラックホールがどのように形成され進化するのか、また、銀河の性質がどのように変化するのかを調査します。IIZw096の分光観測も実施され、巨大なエネルギーの成因や性質の解明を目指しています。
(*1) ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡
2021年12月に打ち上げられた世界最大の宇宙望遠鏡。ハッブル宇宙望遠鏡の約2.5倍である直径約6.5mの主鏡を持ち、近赤外線からハッブルでは観測できなかった中間赤外線まで観測することが出来る。2022年7月より科学観測が開始された。
(*2) 合体銀河
重力作用により衝突し合体して1つとなった銀河。小さな銀河が合体を繰り返して大きな銀河になり、現在の宇宙を構成すると考えられている。私たちが住む銀河系と隣にあるアンドロメダ銀河も約40億年後に衝突すると予想されている。
(*3) 早期科学観測プログラム Early Release Science:
(*4) Inami et al. 2010, The Astronomical Journal, 140, 63
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/0004-6256/140/1/63
(*5) GOALSプロジェクト Great Observatories All-sky LIRG Survey:
https://goals.ipac.caltech.edu
広島大学 宇宙科学センター
助教 稲見華恵(いなみ はなえ)
Tel: 082-424-3468 (代表) FAX: 082-424-0717
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掲載日 : 2023年01月20日
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